harujion

いとしのヴァニーリア

18

早々に恭弥が戦線離脱したのは良い。ただし、代理戦争の結果次第では、再び恭弥に火の粉が降り注ぐ。なにせ、七人を選ばなければならない。恭弥は指折りの強さを誇っているのだ。
チェッカーフェイスは頼めば俺を恭弥のかわりにしてくれそうな気がする。俺がおしゃぶりを守り続けたことは事実だ。約束をしたわけではないが俺の本意は分かっているだろう。しかし、その時にならないと分からない。
だから俺は、代理戦争を見ている必要があった。このまま行けば、各チームのリーダーあたりがチェッカーフェイスの狙い所かと思っていたが、自体は一変し、復讐者が介入してきた。
バミューダには死に際にだけ会ったことがある。復讐や生きながらえる事への執着は無かったから、俺は尽きて行く命を感じながら透明のおしゃぶりを投げ出して、死を受け入れた。
俺が最期に聞いたのは、彼の残念だよという声だった。
せっかくなら兄の声が聞きたかったな。

深夜、ベッドで寝ていた筈の俺は、洞窟に投げ落とされて目を覚ました。薄暗くて見え辛いが、かつて最期を迎えた場所だろう。おしゃぶりをかけた骸骨が転がっている。
バミューダの仕業としか思えないのだが、その姿は見当たらない。
俺の身体はどれだろうと骸骨をいくつか観察してみたが、思い当たるものはなかった。
「こんなところで何してんだ
「あれ、リボーン」
ライトをあてられてきゅっと目を瞑ると、すぐに光を避けてくれた。
少し離れた所から、物音や情けない悲鳴が聞こえる。どうやら沢田もいるらしい。
「なんだお前もきたのかツナ」
「リボーン!まで!?」
「笑えるよな、そいつら丁寧におしゃぶり提げてやがる」
「え……?」
二人はテンポ良く会話をしていて、口を挟む隙もない。
しかし話を聞いていれば、バミューダが連れて来たと言う事は分かった。それにしても、バミューダは俺に何の用があるのかさっぱりわからない。俺は一度誘いを断っている筈なのに。
、お前はアルコバレーノの謎を知ってんのか」
「……うん」


沢田の時計が戦闘終了を告げた後、洞窟内を歩きながら壁画を見る。そしてリボーンは、俺に初めて自分からアルコバレーノの話題を振った。そもそも顔を合わせる機会が少ないからデイモンの時以来まともに会話をしていなかったのだけど。
沢田は俺が何者なのかと焦っていたけど、ヴァニーリアだった頃にアルコバレーノになったんだと教えた。
「チェッカーフェイスには箝口令がしかれててね、俺はあまり口を出せない」
でも、これから会うバミューダは言ってしまいそうだな、と心の中で付け加えた。
リボーンは仕方無さそうにため息を吐いてから、沢田に自分がいかにしてアルコバレーノになったかを教えていた。俺も任務に始まり戦争に終ったと、これもまた口に出さずに噛み締めた。
「この壁にはあちこちに運命の日が描かれている。そして、それと同じぐらい描かれている絵は虹の代理戦争だな」
「あっ、そう言われてみれば代理戦争の絵かも!!ちょっとずつ違う絵があちこちに……どういうことだ?」
リボーンと沢田の考えがそこまで到達した瞬間、眩い光が射し込んできた。目が細めて構えていると、光を背に誰かが立っているのが見えた。
「繰り返されているのさ」
それは、バミューダの声だった。
この壁画はそれぞれ別の者達が、別の運命の日と虹の代理戦争を伝える為に、過去描き残したと言う。
「バミューダ!」
「来たからには洗いざらい教えてもらうぞ」
「沢田綱吉くんが来たのは計算外だけどまあいいや、君たちに真実を話すよ。……でも、くんは何も教えてやらなかったのかい?」
「それをしたら、俺の望みが叶わない」
「望み、ね。ーーーそうだ、君たちには腕時計を外してもらうよ、チェッカーフェイスに盗み聞きされる恐れがある」
「なっ!ボスウォッチを!?」
バミューダは沢田たちに意識を戻した。
「敵のチームのアジトでそんなことできるわけないだろ!?ボスウォッチを壊しに闇討ちしてきたお前達を信用すると思ってるのか!?」
「君の言う事ももっともだが、ここは信じてくれないか?第一、君たちのボスウォッチを壊したければ代理じゃない復讐者を呼んでとっくにそうさせてるさ」
「だけど……」
「ここは聞いてやるしかねーな」
沢田のいうことも、バミューダの言う事ももっともだった。俺はそもそも時計なんてしていないので構わないけど。
「こっちだ」
「それ、俺も行くの?」
「ああ、来てくれくん」
移動する際になって、結局真実を話すのに付き合わなければならないのかと嘆息する。
やってきたのは、あらゆる電波を遮断する仕組みになっている部屋らしい。だだっ広い部屋で、俺はなるべくバミューダから離れて扉の近くに待機し、彼らの歴史を聞いた。概ね俺の知っている通りであり、その悲惨な最期を聞いて、沢田が俺の方をちらりと見た。同情と、恐れが交じった瞳がゆらゆらと揺れている。
「復讐者こそが、アルコバレーノの果ての姿だ」
「そんな!!え、じゃあ、は?」
「復讐者は、復讐を誓った者たちだけで、全てのアルコバレーノがこうして生きながらえているわけではない。見ただろう?あの骸の数を……あのなかに、くんも居たのさ」
「……っ」
沢田は拳をきゅっと握って、何かに耐えるように息をゆっくりと吐いた。
くんは非常に潔く目を瞑ったよ」
そんなこと、沢田に教えなくたっていいのに。
「……人の最期をぺらぺらと話すな」
「ああ悪いね」
「……じゃあ、もしオレ達が優勝してもリボーンの呪いは解けずに……」
「こうなる」
「もしくは、朽ちる」
復讐者の一人が答えたのに次いで、俺も付け足す。
「そんな……!」
「まあ、こんなことだろうと思ってたけどな」
リボーンはつぶらな瞳だけど無表情のまま、悟ったような口ぶりで言った。
「この姿になった時から、ろくな死に方なんて期待してねえ」
「リボーン……」

バミューダはリボーンに手を貸せと言った。俺に対しては何も言って来ないけど、多分同じ誘いをするのだろう。
「僕は君のようなクレイジーな人間が大好きなんだ。……くんもね。だからこちらに置いておきたいのさ」
ようやく話題にのぼったが、別に全然嬉しくない。
「な、なんでまで?たしかに凄いし、生まれ変わってたりするけど……!」
「そう、折角生まれ変わってるのに、またアルコバレーノになろうとしている彼を、クレイジーだと思わない訳がないじゃないか」
「え!?」
「リボーンくんが綱吉くんを成長させる為に動いているのと同じで、彼はいつだって雲雀恭弥くんのことばかりさ」
こちらを見てくる沢田とリボーンには視線を返さず、バミューダを見据える。
「死に際の次は、人の目論見までバラすの?」
「おや、あたりかい」
声色も変えない様子が白々しくて、思い切り舌打ちした。
「まあいいや……。確かに俺は、恭弥が選ばれることになったら、俺がかわりになるつもりでいる。多分チェッカーフェイスも融通は利かせてくれるよ。なにせ、俺にはアルコバレーノをこなした実績があるんだ」
腕を組んで壁に寄りかかると、沢田が青い顔をした。死ぬってことだぞ、って言いたいんだろうけど、実際一度死んでいるんだから愚問だ。そんなことをしようとしている俺が、信じられないだろうし、もしかしたら憤りも覚えているかもしれない。
俺がこんな風に恭弥を庇っていることを、本人が知ったら相当怒ることも沢田は気づいているだろう。
「恭弥には、内緒ね」
「!?……だめだよ!そんなの……!!」
「アルコバレーノは、廃止できない」
アルコバレーノという制度を潰したら、地球上の生物全てに影響が及ぶのだ。それを知っているのは、チェッカーフェイスと多分俺だけだろう。それを教えてくれたのは俺が死ぬからだし、今もその記憶を消してしまわずただの口止めにしているのは、俺がどうにもならないと納得してしまってるからだろう。もちろん、アルコバレーノはなりたいものではないけれど。
「復讐するなら勝手にしな、邪魔はしないよ」
追い払うように手を振ると、バミューダは肩を落とした。
「あいかわらずつれない。君は夜の炎を灯す素質があるのに」
「悪いけど、俺には燃えるほどの気力は無い」

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死に際に、
バミューダ「もっと熱くなれよ!!!熱い血燃やしてけよ!!人間熱くなったときがホントの自分に出会えるんだ!!!」
主人公「……(うるさい)」
ってやられたんですよ。
May.2015