19
ひと悶着あったが無事に解放された俺は、沢田たちが飛ばされたと思しき公園に居た。人が寝ている所を連れて来たくせに全然親切ではない。足の裏につく砂をこまめに足首になすり付けて取るけど、履物が無いので結局また足の裏に砂がつく。
勢揃いしていたアルコバレーノは会議を開くようだが、何故か俺まで着いていく方向になっている。ユニが車に乗せてくれると言うし、歩いて家に帰るよりはマシだから大人しく車に乗った。
今度からは寝ているときもパジャマに杖を入れておいた方が良さそうだ。
アルコバレーノの死という結末に対する口喧嘩のような押し問答を聞きながらうつらうつらと船を漕いでいると、ヴェルデが俺の手の甲をつねった。ちくっとした痛みにぼんやり目をあけると、ほぼ全員の呆れたような顔が目に入る。
「それで、この子供はなんなんだ?」
ヴェルデが不機嫌そうに俺を見た。ああ、今更俺の存在を聞くのか。
「俺は元アルコバレーノだから」
「!———じゃあ、呪いは解けるのかい?」
「いや?死ぬ」
「どういうこと?」
マーモンが少し喜んだような顔をしたけれど、俺が薄く笑うと、困惑気味に首を傾げた。
「生まれ変わって、いるのですね」
ユニは寂しげに言った。パラレルワールドだとか十年バズーカだとかがあるのだから、生まれ変わることもあり得ると納得されるこの世界がちょっと怖くもあるけれど、言葉少なくとも通じるのは助かる。もちろん生まれ変わるなんて稀な事だし、信じられないとも言えるが、そんなこといったら白蘭だって赤ん坊だっておかしな存在なのだ。
「先輩としていうと、出来ることはないし……自分の満足が行く余生を過ごした方がいい、かな」
マーモンとヴェルデとコロネロあたりを見て言えば、思い切りむっとされた。
そのまま俺は勝手にユニの屋敷の大きめのソファで仮眠を取っていたが、途中で乱闘になったらしくて騒がしくて起きたら、ユニが気を失って倒れていた。
皆はユニを病院に送るというのでそこで解散となった。
手ブラだったために家に入る事も出来なくて、家政婦が朝食を作りに家にやって来たタイミングで、彼女のもつ鍵で家に入った。最初はびっくりされていたし、心配もされたけど深く問いつめてくる事は無い。なにせ、恭弥というぶっとんだ例が傍にあるのだから。
ちなみに、恭弥はディーノと戦いに出たきり家に帰って来ていない。
朝ご飯は作り置きにしてもらって、俺は早速二度寝を開始し、昼頃になってぼんやり目が覚めたと思ったら、恭弥の腕の中だったあげく、場所は沢田家の屋根の上。下にはたくさんの人がいた。
確かに、眠りながら沢田達の話を遠くで聞いていたような気がするけど、本当に沢田家に連れて来られているとは思わなかった。よりによって作戦会議に、寝こけている俺をわざわざ連れて来なくてもいいのに。
「、話があるんだ」
計画に全員が乗り気だったのに、俺が浮かない顔をしているからか、沢田に呼び止められた。恭弥は俺が群れることも嫌いだからこういう場合行かせてはくれないけど、今回は何かを察したのか、沢田を信頼してるのか、咎められる事は無かった。
「なに?」
「ちょっと」
ここは人が多くて話の内容が聞こえるから、沢田はまわりをちらっと見る。俺は杖を振りながら防音の魔法を俺たちの間にかけて、会話を誰にも聞こえないようにした。
「あの……オレ、頑張るから」
呼んだのは良いものの、何を言うべきかわからなかった沢田はまごつきながら口を開いた。
「だからも、生きる事を諦めないで欲しい」
「……わかった」
意志の強い、綺麗な瞳をじっとみた。プリーモはもっと淡い色をしていたけど、やっぱり似てる。
「雲雀さんのために、命を捨てないって約束してくれ」
「うん」
前も、プリーモに言われた。アラウディの為に死のうと思うな、と。最終的に、俺が死んだのは兄の為ではなかったし、アルコバレーノになったのも自分の力の所為だった。
そもそも、アラウディと共に居た世界が危険すぎて、そして俺が危うかっただけの話だ。犠牲になったことはなかった。でも、どうしても俺はそういう風に見えるらしい。
今回は恭弥がアルコバレーノになるくらいならと思っていたから、沢田の言っていることは正しいのだろうけど。
笑って頷いたつもりでいたのに、沢田は少し悲しそうな顔をした。
そんな顔をさせたい訳じゃ、なかったんだけど。
あのあと、沢田の覚悟を知ってリボーンや他のアルコバレーノ達も協力する姿勢を見せた。
俺はもちろん非戦闘要員として家で留守番しているように言われてしまったが、素直にそれを聞くつもりは無い。こっそり覗きに行ったら、同じくこっそり覗いていたチェッカーフェイスに見つけられて、一緒に観戦することになった。
「アルコバレーノになるつもりで来たのかい、ヴァニーリア」
「さあね」
タルボが作ったものが上手くいくのなら、誰も犠牲にならずに済むだろう。でもあくまで希望であり、不確定な要素。全てをそれに委ねることはできない。沢田にはああ言ったが、アルコバレーノにならないとは言っていない。チェッカーフェイスが俺を選べば、俺は受諾するつもりだ。もし恭弥がアルコバレーノになったとしたら、彼は自分が死ぬとしてもおしゃぶりを壊しそうだし、チェッカーフェイスは俺を選ぶんじゃないかと思ってる。
そっけなく返事をすると、からかうようにつれないねと笑われた。こういう所、本当に嫌いだ。
恭弥が攻撃を受けて倒れて、バミューダに時計を割られたので、俺はチェッカーフェイスの所から去る。
時計が壊されたらただの被害者だから、俺が手を出しても良いだろう。といっても、簡単なことしか出来ないけど。ぐったり倒れている面々の出血を止めて、恭弥に癒しの魔法をかけるだけだ。
バミューダが沢田に飛ばされて、イェーガーの時計はすぐに壊された。でも俺は、その公園の端に佇み続けた、未だマントを被ったままの復讐者の存在を忘れては居ない。この戦いの参加者ではないだろうけど、チェッカーフェイスに復讐するために用意していたものかもしれない。ならば、この戦いに負けてもなんとしてでも何かをして来る可能性はある。
「優勝はリボーンチームです!」
尾道が宣言しても、あの復讐者は動かない。
「虹の代理戦争の本当の目的は現アルコバレーノをお払い箱にして命を奪い、次におしゃぶりを守る次期アルコバレーノを選ぶことなんだろ?」
沢田はきつい目をして、尾道を問いつめた。ただし、尾道は何も知らされていないようで、庇うようにチェッカーフェイスが出て来た。
「気をつけろ沢田綱吉!チェッカーフェイスは君たちを自分の実在する空間へ連れて行き、呪いによって次期アルコバレーノにするつもりだ!だがそこで倒すのだ!…………ヴァニーリアくん、やってくれ!!」
バミューダが倒れ、ボロボロになった状態で叫んだ。
俺のコードネームを呼んで、復讐者を見る。
「え……?」
ヴァニーリア、という名前で、沢田やリボーンが俺の方を見る。けれど、バミューダは復讐者を見ていて、俺もそっちに釘付けだ。その視線に気づいた他の面々も、ゆっくりと寄って来た復讐者に視線をやった。
復讐者はゆっくりと、包帯にまみれた手で顔を掻く。正確に言うと、顔の包帯を取り払おうとしている。
「うそ……」
俺は引きつった顔で笑う。
そこに居たのは俺だった。
間違いなく死んだ筈だった。
だって、そうでなければ俺は生まれないのだ。
自分を大事にしない子って思われてます。……自分を大事にしてないんじゃない、自分以上に大事な人が居ただけだ……って主人公は思ってます。だから自衛はします。あと兄強すぎて、守ろうとか決意する必要も無かったと思います。ただし滅茶苦茶危険だから、気を張っては居たんじゃないですかね。兄の為にも、自分のためにも。
May.2015