バニラ・ビーンズ 04
ブラッドブリードの襲撃はあまりにもタイムリーだった。ラゾローロ達に関係するのではないかと考えて、俺は危険を承知で渦中に潜入した。もちろん、俺は戦闘力に関しては普通のマフィアレベルで、恭弥達守護者であってもブラッドブリードに対抗する術は持ち合わせていない。対化物の、たとえばエイブラムス達のような人間とは違うのだ。そういうわけで、俺は何重にも保護魔法を掛けて、姿が見えないように細心の注意をはらって、観戦に赴いた。
案の定そこにはラゾローロに関係する人物が居た。下っ端のトーニオだ。他の構成員達の姿が見えないが、殺されたか転化させられたかのどちらかだろう。断定は出来ないが、構成員たちを全員転化させてもたいした戦力にもならないし、トーニオを一人選んだという可能性が高い。
途中で、大男とエイブラムス達がかけつけてきて、トーニオを一瞬でのした。化物を密封したのを見て、彼らはライブラだったのかと納得した。エイブラムスが居る時点でその可能性は高かったけれど。
俺は一瞬で肉塊レベルにされてしまったトーニオの傍に立ち、見下ろす。転化させられていて完全に死んでいるわけではなさそうだから、こっそり開心術をかけてみた。ミンチレベルなので脳はないけれど、死んでいないらしいので記憶の断片は微かにみられる。
やはり、他の構成員達は死んでいるようだ。
これを報告してさっさと帰ろうと思っていた所で、レオがこちらを見てあっと声をあげた事に気づいた。俺は今、素の姿のままで背景に紛れる術を発動させている。普通なら俺の姿を見る事は出来ない筈だった。
「やっぱり、見えてるんだ」
幻術を見破っていたような彼だったから、観念して素直に声をかけた。
スーツの女性はビデオカメラをこちらに向けて来たけど、俺はブラッドブリードじゃないので姿は写る。人間ですと答えても、何者かはわからない為、ザップは警戒を解かずに俺を睨みつけた。
上げていた両手を降ろして、居住いを正し、おそらく一番の戦力であろう大きな男に向けて緩く微笑んだ。
「……ライブラの方々と、お見受けします。このような場所での挨拶となったことをお許し下さい。イタリアを拠点とするマフィア、ボンゴレファミリーの諜報部仮所属の雲雀と申します」
「ボンゴレ!?なんと……」
「一応大きなマフィアですので、お耳には届いているようですね」
ライブラの名前も活動も知っているが、ほぼ全くやっている事は違うし、関係ないので会ったことはなかった。ライブラはマフィアにも目を向けているだろうけど、ボンゴレはHLに関わろうと思ったこともないので、あちらとしても名前だけ知っている程度だろう。
俺が素性を述べて、ようやく少し警戒が解かれたが、少し話を聞きたいと言われて彼らの拠点に向かう事になった。
そこで簡単に今回HL入りした理由を言えばきちんと納得され、咎められることはなさそうだ。
「そういえば、なんで姿を変えてたんすか?えと、幻術とか、使えるんすか?」
「この格好だと絡まれやすそうだったので。俺自体は幻術は使えないけど、ボンゴレにはそう言う術師もいるんですよ」
レオは新人と言っていたし、裏にはさほど詳しくないみたいだったので、簡単に説明した。
紛らわしくて怪しませていたようだから、ちょっと申し訳なく思う。しかしこれは防衛手段なので許して欲しい。
「ああ、聞き及んでいる。ボンゴレは決意の炎を灯すそうだな」
さすが色々な世界を渡っているらしく、エイブラムスは納得したように頷いた。
「Mr.レオ?は、なぜ見破れたんですか?」
「あ、レオでいいっす。えと、僕は……」
言っていいものか、と迷っているレオの代わりに、大男もといクラウスが神々の義眼について教えてくれた。HLの常識や言い伝えには詳しくはないが、説明されれば理解できた。そんな不思議なものがあるのか、とボンゴレの非常識を棚に上げて考えた。
糸目の下にあるであろう、希有な瞳に興味が沸いてじっと見つめてみたけど、レオは俺の距離の近さにぎょっとして身を引いてしまう。なんだ、見せてくれないのか。
わひっと間抜けな声を上げる、初心な様子のレオにちょっと笑いそうになって口を抑えながら身体を離した。
クラウスやエイブラムスたちとの話を切り上げ、ビルを出た頃にはネオンの輝く夜となっていた。
報告をしていない事を思い出してリボーンに電話を入れたら、イタリアは深夜だとちょっと嫌味を言われて、ごめんと謝りながら肩をすくめたけど、まだリボーンはどうせ寝ていないはずだからさほど気にはかけないことにした。
トーニオはともかく、他の連中は死んでいることを伝えると、リボーンは舌打ちをして了承する。生きていようが死んでいようがどうせ舌打ちをするのだろう。
「あとはよろしく、じゃーね」
俺は全く悪くないのに、不機嫌な舌打ちを聞かされるなんて愉快ではない。思わず眉をしかめてから、そっけなく電話を切った。
携帯電話をポケットにしまい寄りかかっていた壁から背中を離した拍子に、どんと肩に何かがぶつかり少しだけバランスが崩れる。
「、っと、す、すみません!」
「レオ?」
「あれ!?さん!」
ぶつかってきたのは、先ほどまで一緒にいたレオだった。俺が電話をしている間に彼も仕事が終わって帰宅するところだったのだろう。会いたくなかった訳ではないが、もっと離れた所で電話をかけるべきだっただろうか。
「まだこの辺いたんすか?」
「上に、報告の電話を」
「あ、そっか、そっすよね」
レオは俺の返答にあっさり納得した。もちろん嘘じゃない。
「夜のこの辺は危ないから、気をつけた方がいいっすよ」
「君もね。送りましょうか」
「え!?え、イヤイヤイヤ!」
戦闘に参加していなかっただけかもしれないが、貧弱そうな見た目からして強くはなさそうで、俺はちょっと心配して提案した。
まあ、ツナを見てると人は見かけによらないと実感するんだけど、ツナみたいな事例はそうゴロゴロ転がっているものではないだろう。
中学生の頃のツナと少し動きが似てるなあ、と思っていたところで、俺の耳にぐううという音が届いた。空腹を報せるもので、真っ当な人間ならよくある生理現象だ。俺も空腹感はあるけれど、自分の腹から鳴った感覚はしない。ともすれば、目の前のレオの可能性が高い。きょとんとしてレオの顔を見ると、照れたようにはにかみ、お腹をおさえていた。
「俺もおなかすきました」
「あははははは」
戦闘があったのは夕方で、終着した頃には夜で、それから事後処理や対談などを含めて、すっかり夕食の時間はすぎている。そのお腹の具合はよくわかる、と頷きながら言うと、レオは焦りを見せて誤摩化すように笑っていた。
「レオ、この近くに美味しいお店とかありますか?」
今更ですが、当たり前のようにリボーンがツナの傍にいるけど、あのひと一応フリーのヒットマンだからボンゴレじゃないんですよね……。いや教え子のよしみとか、ツナには恩があるとか、もともとボンゴレとは深い仲だからとか、あるんでしょうけど。
小学生くらいの見た目のリボーンが、ボスの高級感のある執務机に座っちゃってるところを想像するときゅんとします。
机に座りながら隙あらばツナの頭を蹴飛ばすし銃もぶっ放す。
July.2015