骨を通る星の群れ
「フェラーリン今日この後は暇か?」
仕事を終えて帰る直前、同僚のマルコが思い出したような顔をしてから話を振ってきた。特にこの後の予定は無い為頷くと、夕食に誘われる。つれてこられたのはジーナの店で、フェラーリンは何度か来たことがあるしジーナとも顔見知りだった。
「そういえば明日になれば面白いものが見られると言っていたが、何かあったか?」
「まあそう急かすな」
店のドアを開ける前、フェラーリンは昨日マルコとした話を思い出し尋ねるが、前を歩く本人は背中を揺らして小さく笑い、振り向かずにドアを開けて中に入っていく。
中に入るとすぐ階段があり、既に客は大勢テーブルを囲っており各々楽しげに食事をしていた。
ジーナの姿はまだないがフェラーリンの知っている顔はちらほら座っている。
「ようマルコ、お前も来たのか」
同じ空軍に在籍しているマルコの幼馴染の一人が片手をあげてマルコに声をかける。フェラーリンとマルコはそのまま彼の席に一緒に座った。
「ああ、昨日ジーナからに電話があったからな」
「やっぱりそういうことか……俺もジーナから連絡をもらっていてな……今日はも店に来るそうじゃねえか」
「ジーナとの間には約束事があったんでな」
マルコたちの会話の意味はあまりわからないが、というのはの愛称だったためが店に来るのだけは理解した。店の中を見渡してみるがの姿は見当たらずまだ来ていないのかと思ったところでマルコがだと呟いたためフェラーリンはマルコの視線の先をたどる。
外ではなく別室に繋がるドアから一人の青年が出てきた。ダークブラウンのスーツをぴしりと着こなし、髪の毛を少し上げて顔はすっきりと見せただった。普段の緩い服装や何もしていないふわふわの無造作な髪型からは連想ができないが、髪色も顔立ちもである。
何故スーツなんか着ているのかと思ったがは此方に目を向けることなく歩き、ピアノの前に座った。
「久々だな、の演奏は」
マルコは瓶からコップへ酒を注ぎ、ぐいっと煽る。
フェラーリンは驚きを隠せずただの一挙一動を見ていた。
ぽろん、とピアノに優しく触れて音を出す。背中を向けて座っているが、前奏を始めると一瞬だけ振り向き、先ほどが出てきたドアを見る。丁度そこからジーナが出てきて、光が当てられた。
パチパチと拍手が聞こえた後、繊細なピアノの音楽とジーナの歌声が響き渡り皆うっとりと耳を澄ませた。
「はジーナに音楽を叩き込まれててな」
「ヴァイオリンなんかも弾いてたな、昔は」
少し拍子抜けしているフェラーリンに二人はこっそりとの昔話をしてくれる。
「あいつは昔から手先が器用だったよな」
「そうだな、飛行艇以外にもラジオや電話もバラしては組み立てやがったな」
「そんなこともできるのか……」
「のやつ飛行艇の整備士なんてやらずにジーナと店やるかって話も出ていたがマルコ追っかけて軍に来ちまったんだ」
フェラーリンは改めてがどれほどマルコを好きか実感した。
そんな話をしているうちに、歌は止みピアノの演奏がほんの少し流れて音は消える。いっせいに拍手が起こり、ジーナはにっこりと笑いは立ち上がって周りの客にぺこりと頭を下げてからジーナと握手をしていた。
挨拶代わりなのだろう、はジーナの手の甲にちゅっと口付けて微笑んだ。
ジーナもマルコたちも驚いていないが周りの客やフェラーリンはどよめいている。当の本人は気にせずジーナの腰を抱いてフェラーリンの居るテーブルまでまっすぐにやってきた。
「いらっしゃい、来てくれて嬉しいわ」
「マルコ!」
「ようジーナ、」
穏やかに笑うジーナと、子供らしさの残る笑顔でマルコに笑いかける、慣れた様子で微笑を浮かべるマルコたちを見ていて、フェラーリンは少し置いていかれた気持ちになった。
はマルコたちの前だといつも以上に子供らしくなる。敬語もつかわないし、いつもどおりの口調で話している様子をフェラーリンは見たことが無かった。
「フェ、フェラーリンさんも、来てたんですか!?」
フェラーリンの顔を見るなり手で口を押さえて驚きの表情を顔一杯に浮かべるに、フェラーリンは片方の眉を上げた。どういうことなのか分からないが、は恥ずかしいと顔を覆ってマルコの背中にしがみ付いた。
「軍でしか会わねえからな、フェラーリンは」
「マルコったらわざとフェラーリンを呼んだんでしょう、が恥ずかしがるってわかってて」
「まあな」
ジーナはくすりと笑って、の髪の毛を撫でる。が何故恥ずかしいと思っているのか分からないフェラーリンは良い演奏だったぞと顔の見えないに声をかけるが、より一層隠れてしまった。
「あながあったらはいりたい……」
「もう……、ったら」
「マルコのばか、何で意地悪するんだ」
マルコの背中からくぐもった声が聞こえ、ジーナは呆れつつ他の客に挨拶へ行ってしまった。
はマルコの首に手を回してぎゅうぎゅうと抱きついている。
以前スキンシップは嫌いではないと言っていた意味が何となく分かった。軍では控えているようだが、外ではいつもこうらしい。マルコの幼馴染が、またの駄々っ子タイムだ、とからかっている。
「、フェラーリンが気を悪くしちまうぜ」
「!す、すみません、フェラーリンさん」
マルコの言葉にはぱっと身体を離した。
仕事外だからかマルコに対する態度は全然違くてフェラーリンは少し羨ましいとさえ思った。何しろ自分は未だに敬語を使われている。使わなくて良いと言っていないのだから当たり前なのだが、正直つまらない。
「はよくここで弾いてるのか?」
「いや、二回目です。今日はジーナとの約束破った罰だったんです」
は苦笑いを浮かべながらマルコとフェラーリンの向かいの席に座った。
「罰?」
「今度食事を抜いて倒れたら店で働いてもらうって約束だったんだよな」
「そう、そうなんです」
首を傾げるフェラーリンにマルコが口を挟み、はがっくりと肩を落としながら頷く。人に聴かせられるほどの腕ではないから恥ずかしかったと呟くはまた少し顔を伏せてしまった。
「働くって、ずっとか?」
「いえ一回だけ……のはずです、けど」
次何かやらかしたら軍を辞めめさせられる予感、とは笑った。笑い事ではないとフェラーリンは思ったし、マルコは口に出しての頭をかき混ぜた。
「ちょ、マルコ、髪の毛今ワックスつけて……」
ぐしゃぐしゃにされながら抵抗もむなしく、すっきりと顔を出していた髪形はいつも以上にくるくるとカールしてあちこち飛び跳ねていた。
「あーあ、せっかくジーナがやってくれたのに」
「男前度が上がったぜ」
「ちげえねえ」
がははははと笑う幼馴染二人に頬を膨らませて拗ねるの表情は、すこしあどけない。
フェラーリンはその表情を斜め向かいから眺めて、すぐに目を逸らして酒を飲み下す。まるで、今まで見てきたが嘘みたいに見えてきてしまって、嫌だった。
やっと演奏させられました……。
仕事を終えて帰る直前、同僚のマルコが思い出したような顔をしてから話を振ってきた。特にこの後の予定は無い為頷くと、夕食に誘われる。つれてこられたのはジーナの店で、フェラーリンは何度か来たことがあるしジーナとも顔見知りだった。
「そういえば明日になれば面白いものが見られると言っていたが、何かあったか?」
「まあそう急かすな」
店のドアを開ける前、フェラーリンは昨日マルコとした話を思い出し尋ねるが、前を歩く本人は背中を揺らして小さく笑い、振り向かずにドアを開けて中に入っていく。
中に入るとすぐ階段があり、既に客は大勢テーブルを囲っており各々楽しげに食事をしていた。
ジーナの姿はまだないがフェラーリンの知っている顔はちらほら座っている。
「ようマルコ、お前も来たのか」
同じ空軍に在籍しているマルコの幼馴染の一人が片手をあげてマルコに声をかける。フェラーリンとマルコはそのまま彼の席に一緒に座った。
「ああ、昨日ジーナからに電話があったからな」
「やっぱりそういうことか……俺もジーナから連絡をもらっていてな……今日はも店に来るそうじゃねえか」
「ジーナとの間には約束事があったんでな」
マルコたちの会話の意味はあまりわからないが、というのはの愛称だったためが店に来るのだけは理解した。店の中を見渡してみるがの姿は見当たらずまだ来ていないのかと思ったところでマルコがだと呟いたためフェラーリンはマルコの視線の先をたどる。
外ではなく別室に繋がるドアから一人の青年が出てきた。ダークブラウンのスーツをぴしりと着こなし、髪の毛を少し上げて顔はすっきりと見せただった。普段の緩い服装や何もしていないふわふわの無造作な髪型からは連想ができないが、髪色も顔立ちもである。
何故スーツなんか着ているのかと思ったがは此方に目を向けることなく歩き、ピアノの前に座った。
「久々だな、の演奏は」
マルコは瓶からコップへ酒を注ぎ、ぐいっと煽る。
フェラーリンは驚きを隠せずただの一挙一動を見ていた。
ぽろん、とピアノに優しく触れて音を出す。背中を向けて座っているが、前奏を始めると一瞬だけ振り向き、先ほどが出てきたドアを見る。丁度そこからジーナが出てきて、光が当てられた。
パチパチと拍手が聞こえた後、繊細なピアノの音楽とジーナの歌声が響き渡り皆うっとりと耳を澄ませた。
「はジーナに音楽を叩き込まれててな」
「ヴァイオリンなんかも弾いてたな、昔は」
少し拍子抜けしているフェラーリンに二人はこっそりとの昔話をしてくれる。
「あいつは昔から手先が器用だったよな」
「そうだな、飛行艇以外にもラジオや電話もバラしては組み立てやがったな」
「そんなこともできるのか……」
「のやつ飛行艇の整備士なんてやらずにジーナと店やるかって話も出ていたがマルコ追っかけて軍に来ちまったんだ」
フェラーリンは改めてがどれほどマルコを好きか実感した。
そんな話をしているうちに、歌は止みピアノの演奏がほんの少し流れて音は消える。いっせいに拍手が起こり、ジーナはにっこりと笑いは立ち上がって周りの客にぺこりと頭を下げてからジーナと握手をしていた。
挨拶代わりなのだろう、はジーナの手の甲にちゅっと口付けて微笑んだ。
ジーナもマルコたちも驚いていないが周りの客やフェラーリンはどよめいている。当の本人は気にせずジーナの腰を抱いてフェラーリンの居るテーブルまでまっすぐにやってきた。
「いらっしゃい、来てくれて嬉しいわ」
「マルコ!」
「ようジーナ、」
穏やかに笑うジーナと、子供らしさの残る笑顔でマルコに笑いかける、慣れた様子で微笑を浮かべるマルコたちを見ていて、フェラーリンは少し置いていかれた気持ちになった。
はマルコたちの前だといつも以上に子供らしくなる。敬語もつかわないし、いつもどおりの口調で話している様子をフェラーリンは見たことが無かった。
「フェ、フェラーリンさんも、来てたんですか!?」
フェラーリンの顔を見るなり手で口を押さえて驚きの表情を顔一杯に浮かべるに、フェラーリンは片方の眉を上げた。どういうことなのか分からないが、は恥ずかしいと顔を覆ってマルコの背中にしがみ付いた。
「軍でしか会わねえからな、フェラーリンは」
「マルコったらわざとフェラーリンを呼んだんでしょう、が恥ずかしがるってわかってて」
「まあな」
ジーナはくすりと笑って、の髪の毛を撫でる。が何故恥ずかしいと思っているのか分からないフェラーリンは良い演奏だったぞと顔の見えないに声をかけるが、より一層隠れてしまった。
「あながあったらはいりたい……」
「もう……、ったら」
「マルコのばか、何で意地悪するんだ」
マルコの背中からくぐもった声が聞こえ、ジーナは呆れつつ他の客に挨拶へ行ってしまった。
はマルコの首に手を回してぎゅうぎゅうと抱きついている。
以前スキンシップは嫌いではないと言っていた意味が何となく分かった。軍では控えているようだが、外ではいつもこうらしい。マルコの幼馴染が、またの駄々っ子タイムだ、とからかっている。
「、フェラーリンが気を悪くしちまうぜ」
「!す、すみません、フェラーリンさん」
マルコの言葉にはぱっと身体を離した。
仕事外だからかマルコに対する態度は全然違くてフェラーリンは少し羨ましいとさえ思った。何しろ自分は未だに敬語を使われている。使わなくて良いと言っていないのだから当たり前なのだが、正直つまらない。
「はよくここで弾いてるのか?」
「いや、二回目です。今日はジーナとの約束破った罰だったんです」
は苦笑いを浮かべながらマルコとフェラーリンの向かいの席に座った。
「罰?」
「今度食事を抜いて倒れたら店で働いてもらうって約束だったんだよな」
「そう、そうなんです」
首を傾げるフェラーリンにマルコが口を挟み、はがっくりと肩を落としながら頷く。人に聴かせられるほどの腕ではないから恥ずかしかったと呟くはまた少し顔を伏せてしまった。
「働くって、ずっとか?」
「いえ一回だけ……のはずです、けど」
次何かやらかしたら軍を辞めめさせられる予感、とは笑った。笑い事ではないとフェラーリンは思ったし、マルコは口に出しての頭をかき混ぜた。
「ちょ、マルコ、髪の毛今ワックスつけて……」
ぐしゃぐしゃにされながら抵抗もむなしく、すっきりと顔を出していた髪形はいつも以上にくるくるとカールしてあちこち飛び跳ねていた。
「あーあ、せっかくジーナがやってくれたのに」
「男前度が上がったぜ」
「ちげえねえ」
がははははと笑う幼馴染二人に頬を膨らませて拗ねるの表情は、すこしあどけない。
フェラーリンはその表情を斜め向かいから眺めて、すぐに目を逸らして酒を飲み下す。まるで、今まで見てきたが嘘みたいに見えてきてしまって、嫌だった。
やっと演奏させられました……。
今更だけど幼馴染みの名前一人捏造くらいしとけってはなしですよね。
2012/04/12
Title
by
yaku 30
no uso