青色は光っている
元々不具合のあった飛行艇はカーチスとの勝負により大破した。
数日無人島で過ごし、飛行艇を持ち帰ったらまずは心配しているであろうジーナに連絡を取る。にはこれから会いに行くので良いだろうと思っていたが、暗くなってからたどりついたピッコロ社では車から降りたマルコに思い切り飛びついて来たので連絡を入れておけばよかったかと少しだけ後悔した。しかし、いくつになってもマルコに対して甘ったれな所は変わらないのを見て来たので、連絡したとしても飛びついて来たかもしれない。
「心配したか?」
「心配はしてない」
「じゃあどうした」
「ひさしぶりに会えて嬉しいだけ」
ふふっと豚の顔に頬ずりするに、ちょっとだけ呆れてため息をついた。
「、あなたも手伝って頂戴よ」
「え〜」
「後は頼んだぞ、フィオ、」
「ん、やっとく」
「はぁい」
ピッコロ社の社長である親父の孫娘であるフィオは、見た所よりも年下の所謂お嬢ちゃんではあったが、しっかりを叱りつけている。
「あとでな、」
「うん」
こくりと頷いたは、マルコの身体を放してフィオの元に駆け寄っていき、マルコは親父と共に中へ入って行く。
「息子共の姿が見えねえな、達者なのか」
マルコは親父に札束をごっそり持って行かれながら、ふと気になっていた事を問う。
に飛行艇製造会社を紹介してと言われて、ここを紹介する時に親父の息子のことを思い出しつつ言ったはずだった。
「三人とも出稼ぎだ」
「じゃあ設計は誰がやるんだ、か?」
「フィオがやるよ。にゃ別件に集中してもらおうと思ってな。なぁに、ちゃんと整備はにも見てもらうさ」
「フィオ!?さっきの娘か?」
「歳は若いがな、フィオには息子共にないものがあるよ」
マルコは立ち上がり、バッグに札束をしまう。
や親父がやるならともかく、さっきちらりと見た娘に大金を払おうとは思えなかったのだ。
「待って」
帰ろうとするマルコを止めたのは、毛布をもったフィオだった。後ろから心配そうな顔をしたもついて来て、小さな声で帰るの?と聞いて来る。
つかつかと歩み寄って来るフィオは、腰に手をあて、真面目な顔をして問う。女だからなのか、若すぎるのか。
両方とも不安なのだとマルコは答えた。
フィオは怒るでもなく、あっけからんとした態度で当然だと納得したが、後ろでがそんなことないよ、とフォローしていた。
どうやらフィオに懐いているらしい。先ほど見ていて思ったが、二人の関係が良好であることは喜ばしい。
「ん〜、ねえ、良いパイロットの第一条件を教えて?……経験?」
「いや、インスピレーションだな」
マルコは素直に答えた。
そしてフィオはよかったと笑う。
今度は、単独飛行について褒められる。それは17歳のときで、ちょうどフィオは同い年だと胸を張った。会話の最中で、マルコは抱えていた不安の種をゆっくりと解されて行くのが分かった。
「女を辞める訳にはいかないけど、やらせてくれない?前の図面もあるし。なんだったら、にもみてもらうわ」
「うん、見る。でもフィオは出来るよ」
「ありがと、上手くいかなかったらお金は要らないわ。ね、おじいちゃん」
「ワシの孫だ、上手くやるさ。ワシだって12のときにエンジンをバラしてたからな」
「僕が軍の整備士になったのは15のときだったよ、マルコ」
マルコは何も言えずに、フィオが渡した毛布を受け取った。
次の日の朝、マルコはフィオの図面を見て彼女に設計をやらせることを決めた。
「だがなお嬢さん、ひとつだけ条件がある。徹夜はするな、睡眠不足は良い仕事の敵だ。それに、美容にもよくねえ」
「ふふ、そうするわ」
得意気にウインクしたフィオは、マルコの後ろに視線をやった。ちょうど、がのんびりとした様子で起きて来たのだ。
「おはよう、二人とも」
「おはよう」
「お前も、徹夜はするんじゃないぞ、」
「わかってるよ、フィオは結構厳しいんだ。自分は時々するくせにね」
起き抜けにいきなり説教をされただが、昔からさんざん言われて来たあげく直さなかったので、肩をすくめながら弁解した。
昨日会った時に思ったが、しばらく会わないうちには随分健康的になった。隈は殆ど消えたようだし、貧血を起こしたという話をジーナからも聞いていない。
コーヒーを淹れて来る、と言ったフィオは部屋を出て行き、マルコとが部屋に残った。
「元気そうだな、」
「うん」
フィオの作った図面を二人で眺めながら、穏やかな会話をするのはどれくらいぶりだろうか。
三年程前、が軍を辞めたとジーナから連絡を貰った時、マルコは少し驚いた。
どんなに辛かろうが、フェラーリンの傍にいるだろうと思っていた。そしてフェラーリンはをずっと心配していたのだからしっかり支えてやるのではないか、と。
しかしホテルの部屋でふてくされていたをみて、見当違いだったかと肩を落とした。
「軍を辞めろって言われた」
さぞかしショックだっただろう、と察する。が軍に残ったのは、言葉にはされたことがないがフェラーリンの為だったはずで、その本人から示唆されたのは堪える。
「それで、おまえは何て言い返したんだ」
「…………そばに、いたい」
押し黙ったは、小さな声で、顔を真っ赤にして零した。
どうやらマルコが居ない間に自覚したらしい。サングラスの奥でほんの少し目を見開いたが、その後ににやりと笑う。
「でも、僕、出て来ちゃった」
「フェラーリンはそれを聞いて何も答えなかったのか?」
だとしたら、フェラーリンが悪いと思ったが、マルコはの次の言葉を待つ。
「傍に居て良いとは言わなかった」
「……」
の思考回路は子供だ。傍に居たいと言ったのに、居て良いと言ってくれないと困ってしまう。
それをフェラーリンは分かっていなかったのだ。
拒絶する事はなかったのだろうが、にとってはその反応よりも軍を辞めろと言われたことが大きくて、結局は逃げて来てしまった。そして、怯えてジーナの所に来たのだろう。
マルコはフェラーリンに何やってんだと怒りたい気持ちと、にもうちょっと踏ん張れと言いたい気持ちの板挟みになったが口に出すのはよした。
見事にすれ違っている二人だが、エドモンドが行方不明になったと報せを受けて憔悴したジーナと同様にのことも心配だったマルコは、軍を辞めて休む期間が作れたならそれで良いのではないかと思えたのだ。
現に今、はフェラーリンへの怒りと恐れと後悔で、様々な表情を見せている。泣けず、食えず、眠れず、ぼうっとしていたあの頃よりは良い。
ジーナの所に居れば少なくとも食事はとるし、生活も多少マシになるだろう。
「とにかく、今はゆっくり休め、」
「ん……」
軽く頭を撫でてやれば、ふわふわな髪の毛を揺らして微笑んだ。
「マルコ、来てくれてありがと」
「お前の一大事だろう」
「会えて嬉しい。ジーナが当分ここに居るなら、夜のお店に出てっていうからまた来てくれる?」
「ああ、また来る。のピアノ、楽しみにしてるぜ」
そうやって別れ、何度かが店でピアノを弾いてるのを見た。しかしジーナ曰く、フェラーリンも甲斐甲斐しく通っているようなので、はまた逃げ出す事にしたらしい。
「飛行艇製造会社紹介してっ!」
珍しく自分で飛行艇を運転してマルコのアジトにやってきたに、面食らう。
「なんだって急に」
「夜の店は、フェラーリンさんがやたら俺の様子を見に来るからしんどい」
「しんどいっておまえなあ」
呆れながら煙草に火をつける。
波打つ音と、ラジオの音はの声によりどこか遠くに聞こえた。
「いい加減、飛行艇にも触りたいし、ずっとジーナの所でピアノ引いてるのも向いてない気がする」
「確かにお前はメカニックのが向いてるかもしれねえが、睡眠と食事を疎かにするだろう」
「もう、そんなことしない」
「どうだかな」
「もう誰も、送り出さないじゃん」
服の腹の部分を強く握ったは、血管の浮き出る手をしていた。
「……」
「マルコが死んだら、すごく凹むけど……もう軍にいないし、ただの飛行艇製造会社なら大丈夫だよね?」
困った顔をしたに、マルコはまごつく。
「僕は健康にならないと、彼の傍に居られないんだ」
何も言わないマルコになんとか分かってもらいたいと思ったは、そう呟いた。
今にも泣き出しそうな、寂しそうな顔をしている。
可愛い弟分をこんな風にしたフェラーリンには、当分会わせてやらなくてもいいような気がした。
原作(?)突入したってところで時が遡ってごめんなさい。
数日無人島で過ごし、飛行艇を持ち帰ったらまずは心配しているであろうジーナに連絡を取る。にはこれから会いに行くので良いだろうと思っていたが、暗くなってからたどりついたピッコロ社では車から降りたマルコに思い切り飛びついて来たので連絡を入れておけばよかったかと少しだけ後悔した。しかし、いくつになってもマルコに対して甘ったれな所は変わらないのを見て来たので、連絡したとしても飛びついて来たかもしれない。
「心配したか?」
「心配はしてない」
「じゃあどうした」
「ひさしぶりに会えて嬉しいだけ」
ふふっと豚の顔に頬ずりするに、ちょっとだけ呆れてため息をついた。
「、あなたも手伝って頂戴よ」
「え〜」
「後は頼んだぞ、フィオ、」
「ん、やっとく」
「はぁい」
ピッコロ社の社長である親父の孫娘であるフィオは、見た所よりも年下の所謂お嬢ちゃんではあったが、しっかりを叱りつけている。
「あとでな、」
「うん」
こくりと頷いたは、マルコの身体を放してフィオの元に駆け寄っていき、マルコは親父と共に中へ入って行く。
「息子共の姿が見えねえな、達者なのか」
マルコは親父に札束をごっそり持って行かれながら、ふと気になっていた事を問う。
に飛行艇製造会社を紹介してと言われて、ここを紹介する時に親父の息子のことを思い出しつつ言ったはずだった。
「三人とも出稼ぎだ」
「じゃあ設計は誰がやるんだ、か?」
「フィオがやるよ。にゃ別件に集中してもらおうと思ってな。なぁに、ちゃんと整備はにも見てもらうさ」
「フィオ!?さっきの娘か?」
「歳は若いがな、フィオには息子共にないものがあるよ」
マルコは立ち上がり、バッグに札束をしまう。
や親父がやるならともかく、さっきちらりと見た娘に大金を払おうとは思えなかったのだ。
「待って」
帰ろうとするマルコを止めたのは、毛布をもったフィオだった。後ろから心配そうな顔をしたもついて来て、小さな声で帰るの?と聞いて来る。
つかつかと歩み寄って来るフィオは、腰に手をあて、真面目な顔をして問う。女だからなのか、若すぎるのか。
両方とも不安なのだとマルコは答えた。
フィオは怒るでもなく、あっけからんとした態度で当然だと納得したが、後ろでがそんなことないよ、とフォローしていた。
どうやらフィオに懐いているらしい。先ほど見ていて思ったが、二人の関係が良好であることは喜ばしい。
「ん〜、ねえ、良いパイロットの第一条件を教えて?……経験?」
「いや、インスピレーションだな」
マルコは素直に答えた。
そしてフィオはよかったと笑う。
今度は、単独飛行について褒められる。それは17歳のときで、ちょうどフィオは同い年だと胸を張った。会話の最中で、マルコは抱えていた不安の種をゆっくりと解されて行くのが分かった。
「女を辞める訳にはいかないけど、やらせてくれない?前の図面もあるし。なんだったら、にもみてもらうわ」
「うん、見る。でもフィオは出来るよ」
「ありがと、上手くいかなかったらお金は要らないわ。ね、おじいちゃん」
「ワシの孫だ、上手くやるさ。ワシだって12のときにエンジンをバラしてたからな」
「僕が軍の整備士になったのは15のときだったよ、マルコ」
マルコは何も言えずに、フィオが渡した毛布を受け取った。
次の日の朝、マルコはフィオの図面を見て彼女に設計をやらせることを決めた。
「だがなお嬢さん、ひとつだけ条件がある。徹夜はするな、睡眠不足は良い仕事の敵だ。それに、美容にもよくねえ」
「ふふ、そうするわ」
得意気にウインクしたフィオは、マルコの後ろに視線をやった。ちょうど、がのんびりとした様子で起きて来たのだ。
「おはよう、二人とも」
「おはよう」
「お前も、徹夜はするんじゃないぞ、」
「わかってるよ、フィオは結構厳しいんだ。自分は時々するくせにね」
起き抜けにいきなり説教をされただが、昔からさんざん言われて来たあげく直さなかったので、肩をすくめながら弁解した。
昨日会った時に思ったが、しばらく会わないうちには随分健康的になった。隈は殆ど消えたようだし、貧血を起こしたという話をジーナからも聞いていない。
コーヒーを淹れて来る、と言ったフィオは部屋を出て行き、マルコとが部屋に残った。
「元気そうだな、」
「うん」
フィオの作った図面を二人で眺めながら、穏やかな会話をするのはどれくらいぶりだろうか。
三年程前、が軍を辞めたとジーナから連絡を貰った時、マルコは少し驚いた。
どんなに辛かろうが、フェラーリンの傍にいるだろうと思っていた。そしてフェラーリンはをずっと心配していたのだからしっかり支えてやるのではないか、と。
しかしホテルの部屋でふてくされていたをみて、見当違いだったかと肩を落とした。
「軍を辞めろって言われた」
さぞかしショックだっただろう、と察する。が軍に残ったのは、言葉にはされたことがないがフェラーリンの為だったはずで、その本人から示唆されたのは堪える。
「それで、おまえは何て言い返したんだ」
「…………そばに、いたい」
押し黙ったは、小さな声で、顔を真っ赤にして零した。
どうやらマルコが居ない間に自覚したらしい。サングラスの奥でほんの少し目を見開いたが、その後ににやりと笑う。
「でも、僕、出て来ちゃった」
「フェラーリンはそれを聞いて何も答えなかったのか?」
だとしたら、フェラーリンが悪いと思ったが、マルコはの次の言葉を待つ。
「傍に居て良いとは言わなかった」
「……」
の思考回路は子供だ。傍に居たいと言ったのに、居て良いと言ってくれないと困ってしまう。
それをフェラーリンは分かっていなかったのだ。
拒絶する事はなかったのだろうが、にとってはその反応よりも軍を辞めろと言われたことが大きくて、結局は逃げて来てしまった。そして、怯えてジーナの所に来たのだろう。
マルコはフェラーリンに何やってんだと怒りたい気持ちと、にもうちょっと踏ん張れと言いたい気持ちの板挟みになったが口に出すのはよした。
見事にすれ違っている二人だが、エドモンドが行方不明になったと報せを受けて憔悴したジーナと同様にのことも心配だったマルコは、軍を辞めて休む期間が作れたならそれで良いのではないかと思えたのだ。
現に今、はフェラーリンへの怒りと恐れと後悔で、様々な表情を見せている。泣けず、食えず、眠れず、ぼうっとしていたあの頃よりは良い。
ジーナの所に居れば少なくとも食事はとるし、生活も多少マシになるだろう。
「とにかく、今はゆっくり休め、」
「ん……」
軽く頭を撫でてやれば、ふわふわな髪の毛を揺らして微笑んだ。
「マルコ、来てくれてありがと」
「お前の一大事だろう」
「会えて嬉しい。ジーナが当分ここに居るなら、夜のお店に出てっていうからまた来てくれる?」
「ああ、また来る。のピアノ、楽しみにしてるぜ」
そうやって別れ、何度かが店でピアノを弾いてるのを見た。しかしジーナ曰く、フェラーリンも甲斐甲斐しく通っているようなので、はまた逃げ出す事にしたらしい。
「飛行艇製造会社紹介してっ!」
珍しく自分で飛行艇を運転してマルコのアジトにやってきたに、面食らう。
「なんだって急に」
「夜の店は、フェラーリンさんがやたら俺の様子を見に来るからしんどい」
「しんどいっておまえなあ」
呆れながら煙草に火をつける。
波打つ音と、ラジオの音はの声によりどこか遠くに聞こえた。
「いい加減、飛行艇にも触りたいし、ずっとジーナの所でピアノ引いてるのも向いてない気がする」
「確かにお前はメカニックのが向いてるかもしれねえが、睡眠と食事を疎かにするだろう」
「もう、そんなことしない」
「どうだかな」
「もう誰も、送り出さないじゃん」
服の腹の部分を強く握ったは、血管の浮き出る手をしていた。
「……」
「マルコが死んだら、すごく凹むけど……もう軍にいないし、ただの飛行艇製造会社なら大丈夫だよね?」
困った顔をしたに、マルコはまごつく。
「僕は健康にならないと、彼の傍に居られないんだ」
何も言わないマルコになんとか分かってもらいたいと思ったは、そう呟いた。
今にも泣き出しそうな、寂しそうな顔をしている。
可愛い弟分をこんな風にしたフェラーリンには、当分会わせてやらなくてもいいような気がした。
原作(?)突入したってところで時が遡ってごめんなさい。
前話タイトルのみずみずしくあれ、っていうのは健康で健やかでいないといけないなって思ったことです。青色は光っているってのは今健康的になってきたってことで。
2016/05/20
Title
by
yaku 30
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