サクラ前線 04
服を着終えて、濡れた髪の毛のまま先生の前に座った。「風邪ひかない?」
「いつも少し放置してから乾かしてるから平気です」
律儀に心配をしてきたカカシ先生が面白くてぷっと笑ってしまう。
その様子を見て、カカシ先生はふ〜と息を吐いた。なんだよ、なんか変なことしたかよ。
「それで、えーと、家庭訪問ですか?お母さんに挨拶でもします?」
「それだったら玄関からくるデショ」
「確かに」
勝手に部屋に侵入したことはぶっちゃけどうでもよくて気にしてなかった。
先生が来たのは案の定女装に関する話だった。なんで女装してるのって聞かれても……うちの風習ですとしか言えないっていうか。
「別に今はしなくても良いんじゃないの?」
「してた方が得ですよ?油断されるし、受けが良いもん」
「はあ、なるほどね」
「依頼人によっては、女の子が居た方が打ち解けやすかったりするだろうし、敵がねらうのは依頼人か忍、だったら俺かな?弱そうだし。でも普通の女の子よりは俺強いと思うんで安心でしょ?」
俺はこれでも女装するメリットを考えてるんだぜ!と笑うと先生は少しだけ、何か考えてるんだろうけど考えているようには見えない沈黙を作ってから喋った。
「今日、なんで何もしなかたの?」
「えぇ?」
サスケもナルトも助けなかったけどちゃんと『様子見』して『警戒』してたつもりだし、先生の幻術だって解いたし体術だってやったし、ナルトにお弁当アーンだってしたのに。
「サクラは友達思いの面倒見が良い子って聞いてたからね。帰りだってナルトを迎えに行ってあげたでしょ」
「ははぁ」
なるほど、じゃあ逆に俺が何もしないのは変にうつったか。さすがカカシ先生だあ。「ね、なんで?」って聞かれたけどそれはもう自分で考えたら良いんじゃないかなあ。特に理由はないんだよな、だって、何もしなくてもお弁当あげれば解決するって思ってたし。
「皆に合わせてました。手助けは無用、自分のことは自分でやるっていう方針みたいだったので……俺が助けに行ったら二人とも邪魔だと思って」
まあ言い訳なんですけど。
チームワークに気づかないのも、鈴をとれないのも、先生に怒られるのも、あれは必要なことだったと思う。テストは鈴取り合戦じゃなくてお弁当を分けるか分けないかで、鈴取り合戦は準備運動、お叱りは授業だ。カカシ先生が先生なのだから、俺がナルト達を説得しても意味がなかった気がする。
「分からないし、気づけないなら、周りを見るしかないでしょ」
「ふーん、ま、わかったよ」
なんか納得はしてなさそう。
もしかしたら俺は仲間を見捨てられるクズなのかも、って思われてるんだろーか。それは嫌だな。
いや、周りに合わせたってことは分かってくれてるだろう。
「今の所一番忍に近いのはお前かねえ」
「いやいやいや、皆よりちょっぴり大人なだけですよ」
カカシ先生が忍に近いなんて言うとは思わなくてすぐに反論した。
私利私欲がない分俺は近いかもしれないけど、それは目標がないからだし、知ってるからだ。
「オンナノコは、同年代のオトコノコより一歩先をあるいているものなのです」
ぱちっとウインクして笑ったら「男の子でしょーが」と頭にチョップした後、軽くなでなでしてカカシ先生は消えた。
下忍任務はしばらく、しょぼいのが続いた。
リーさんと休日に任務の話を聞くけど、リーさん達の班は先輩なだけあってもう少し大変そうだ。俺は別に下積みがあったほうが安心できるからナルトやサスケみたいにストレスは感じてない。というか、まだまだ自分の力を信じられてないってのが強い。本当の敵にあったとき、俺はなにが出来るかわからない。ナルトやサスケみたいに、強い意志はないから。
「任務って怖い?」
「ボクも最初は怖かったですよ。でも仲間や先生を信じています。それから、修行を続けたボク自身を信じています」
「そっかあ」
「サクラさんはもう仲間や先生を信じているようですから、自分を信じてください。ボクがこれだけ、サクラさんががんばり屋さんなことを知っているのだから、サクラさん自身も気づいてる筈ですよ!」
やべえ、リーさんカッコいい。
太い眉も下睫毛もぱっと見シュールだけど、今はチャーミングに見える。
「おす!」
「押忍!」
励ましてもらえたと同時に癒されたので、アホ面で笑いながら返事をしたら、リーさんも同じように気合いを入れた相槌を打ってくれた。リーさんが信じてくれてる分の俺を、とりあえず信じる事にしよう。
でもとりあえず下積みって大事だよね、って思ってたら早速ナルトが駄々を捏ねた。……知ってた。
タズナさんが波の国まで帰って橋を完成させるまでの間護衛する任務が超始まった。超やべえやつじゃん。ナルトって引きが悪いっていうか良いっていうか。あー不安……。
「先生、忍者との任務は何ランクですか?」
波の国への道すがら、俺は質問を投げかける。波の国には忍者はいないって言うけど他の国には忍という軍事力が存在するって話している。なに、結局波の国には忍者はいない筈ってことでいいのね。
「ま……ということで、Cランクの任務で忍者対決なんてしやしないよ」
「ふーん」
「安心しろ、アハハハ」
って先生が笑った隙に水たまりを通り過ぎた。これ知ってるぅー!
カカシ先生から離れてナルトの方に足を速めたら、後ろから、ぴちゃっていう水の音が聞こえた。振り向いた瞬間にカカシ先生に向かって来る武器が見える。カカシ先生あっさりつかまった末にブッチブチにされちゃった。
「うわぁ」
緊張感のない声で反応してしまった。
変わり身の術って、幻術も使ってるのかな?
向かってくる忍者と動けないナルトはサスケに任せて、俺はタズナさんを常に背にして警戒する。
狙いはタズナさんなので最後に俺に向かって来たところで、サスケが前に立ってくれた。それに攻撃を往なす前にカカシ先生が出て来て捕まえてくれたので、俺はかすり傷ひとつおわずに済んだ。いえい。
「とりあえずサスケ、よくやった。サクラもな」
ナルトにちくっと嫌味さしたカカシ先生はサスケと俺をちょっぴり褒めた。
「怪我はねーかよ、ビビリ君」
「!」
「ナルト!喧嘩はあとだ。こいつの爪には毒が塗ってある。お前は早く毒ぬきをする必要がある」
サスケの一言に目を剥いたナルトを、カカシ先生は冷静に止めた。
忍者が出て来る任務は問答無用でBランク、下忍のしかもなりたてぺーぺーには荷が重い。にも関わらず、ナルトはサスケに助けられちゃったことを気にして任務続行を願い出た。んん、漫画でみてると男前だしここで帰っちゃ駄目なんだろうけど……いいのかそれで。ナルトじゃなかったら死ぬだろうなあ。まあ、ナルトだから良いか。
再不斬との戦闘中、相変わらず俺はタズナさんにくっついてるばかりだった。サスケとナルトが戦ってカカシ先生を助けられたのでほっとしつつ観戦してたら、再不斬があっさり追い忍とやらにやられてしまった。あれ生きてるんじゃなかったっけ。
「フー……さ!オレ達もタズナさんを家まで連れていかなきゃならない。元気よくいくぞ!」
って言った先生はあっさり倒れた。ありゃりゃー。
体格的にはタズナさんが良いだろうけど、護衛対象なわけだしって思って俺は変化で大人の男になってカカシ先生を負んぶした。もっとマッチョに化けられたら良いんだけど化けたとしても軽々負んぶはできない。俺の体はまだ子供だから。
あーカカシ先生重たい。
「サクラちゃんが男になったってばよ!?」
「ただの変化だろうが」
サスケはほぼ無反応で当然だけど、ナルトはなんでこんなに反応するんだ……お前全裸美女に変化するだろうが。
「わるいね、サクラ」
「しょーがないですよ」
えっちらおっちらタズナさんの家に向かい、布団を敷いてもらってそこに寝かせる。
「服着替えます?」
「いや、良いよ」
口布とってやろうかと手をわきわきさせて見下ろしたけど、先生はあっさり断った。
どうやら一週間くらいは動けないらしい。
「戦ってないのに疲れた……」
「ハハハハごめんね」
謝られることじゃあない気がするけど。
俺は苦笑するカカシ先生の布団をぺろっと捲っていそいそと隣に寝転んだ。
「サ、サクラちゃん?」
「ちょっとだけ、ちょっとだけ」
微妙に慌てた様子のカカシ先生に添い寝をすると、部屋に戻って来たサスケとナルトがひっどい顔でこっちを見下ろしてた。
「カカシ先生サイテーだってばよ!」
「このクズ」
動けない筈のカカシ先生がめっちゃ責められて、俺はナルトとサスケに布団から引きずり出された。
別に先生が添い寝を頼んできたわけじゃないんだよ……。
next.
何度も言いますが、私はカカシ先生が好きです。
あと、カカシ先生のマスクの下のホクロはずっこいと思います。カカシ先生は主人公の本名知ってるけどちゃんとサクラって呼ぶし、気まずいときとか困ったときとか吃驚したときは『サクラちゃん』って呼ぶのが可愛いと思います。
Nov 2015