Sakura-zensen


春のおまもり 18

お前はもうあの机行くの禁止、と滝川さんに言われた上に谷山さんが見張りについた。
いや、元から俺は谷山さんとペア行動してたけども。

「二人って、キョーダイ……じゃないんだよね?」
「ふえ?」
翌日、お昼に俺の作ったお弁当を食べてる谷山さんは、昼食を一緒にたべることになった笠井さんに聞かれて首をかしげた。
「似てる?」
「雰囲気なんとなく似てるのもあるけど、お弁当」
「これは食生活がよろしくないから見るに見かねて」
くんのご飯だってなんか寂しくない?こっちは美味しいけど」
同じの食べたらいいのに……と口を尖らせた谷山さん。
「俺のは精進潔斎。終わったら焼肉食べるもんね」
「へえ、ちゃんと霊能者なんだね」
「え、まあ、ハイ」
「普通の大学生くらいに見えるよね」
「普段は普通の大学生ですから」
谷山さんは何当たり前のことを……。
「春野さんは霊媒師なの?」
「えー……と」
くんって陰陽師なんでしょ?」
どう答えようか考えていたところ、谷山さんがお弁当箱を閉じながら首をかしげた。
「陰陽師……すごい」
「いやいや、なんで?」
「ヒトガタ作れるのは陰陽師って、綾子が言ってたよーな……ちがった?」
その判断の仕方どうかなと思う。そしてフワッフワだな。
「うーん、道教に詳しい人に色々と教わったことはあるな、知識としてだけだよ」
「そうなんだ。除霊はすすんでる?」
「あんまり。霊の姿が見あたらないんだ」
食後のお茶は俺が持ち込んだもので、笠井さんと谷山さんにふるまう。
おやつもあるのだけど、いつ出そうかしら。いまお腹いっぱいで食べれないだろうか。
「俺と霊媒の人しか見えないんだけど、どっちも同じ見解……」
「あんたは?」
「あ、あたしは雑用。そだ笠井さんって霊は見えないの?」
「あたし?だめだめ、ESPの能力ないもん」
女の子たちの会話を聞きながら、俺はおやつの入ったカバンを抱きしめてそわそわ。
どうやら産砂先生は超心理学オタクだったようだ。いやオタクとまでは言ってないけど。
そろりとおやつをテーブルの上に置いて、さりげなく食べてもらうことに成功した俺はほくほく顔で昼休憩を終えた。


その日の放課後、俺と谷山さんは会議室で事件相談のメモを見返して共通点や手がかりを探していた。学校を練り歩いてみる時もあったが、何にも遭遇しなくて本当にこまった。
やっぱり無差別じゃなくて、狙ってやってるんだろうか。
大勢の人間がいて、大勢被害にあってるから大きな何かが原因だと思ってたけど、もしかしたらひとつひとつに理由があるのかも。
「うーだめだ、わかんないよう」
「がんばれ、きっとなんかあるよ」
根気よく根気よく、と隣の谷山さんを励ます。
そろそろ除霊やってくれてるみんなも気疲れして戻ってくるころだし、休憩の準備でもしようかな。
そう思ってファイルをぱさりと置いたところで部屋の電気がふっと消えた。
谷山さんが不安げにえっと声を漏らす。

カタン、コト、と天井から音がする。
すうっと部屋の温度が下がった。
「───……く……ね、あれ、髪の毛?」
「ウン、はみ出てるな」
「……はみ……じゃなくて……」
あ、谷山さん本気で怖がってた。ごめんなさい。
とりあえず背中にかばう。
……お?案外髪長いな、顔が出てこない。
「落ち着いて、大丈夫だ」
片腕だけを後ろに回して、きつく俺の服を握る谷山さんの手に触れた。
一応霊から目を離さずにいると、ようやく顔はお出ました。つむっていた目をビカっと開いて、ニタリと笑う。
う〜ん、アメリカン凶霊、スカーレットお嬢様のが怖いし可愛いし強いなー。というかんじ。

よそ事を考えてる俺と、とっさに手を握ったがそれ以上動けなくなってる谷山さん、そして目を限界以上に開いてる霊、それぞれの気持ちは誰とも交差することはなく、飛び込んで来た滝川さんのマントラにより消え去った。

「なんだ今の!?」
谷山さんは俺の手を握ったままぺたんとした。あやや……。
うなだれる彼女の頭は滝川さんが撫でてくれている。
「悪霊だなあ……なるほど」
「なにがなるほどよ」
俺の言い方がおかしかったのか、滝川さんがちょっとお疲れ気味に聞き返してくる。
「床は冷たいし、とりあえず椅子にでも……だっこ?」
「おお麻衣〜、立てるか〜」
「───あれ、くんを狙ってるんだ」
腰は抜けたが、怯えではなく戦慄して震えていた谷山さんは呆然と呟く。
「うん、それは俺も思った」
「あたしのこと、一度も見なかったもん」
「だな」
足腰がフラフラだけど、なんとか立ち上がった谷山さんを椅子に座らせた。
「この部屋じゃなくてくんに現れたんだよ、くんがあぶない!」
「ま、それは大丈夫だ」
必死に訴えてくれるのは俺の身を案じてのことだろう。落ち着かせるために頭を撫でて、ついでに目を隠す。するとふっと声がやんで、息を吐けたようだった。

「普通の人間の霊だったらもっとよくわかるんだ」
「あん?」
滝川さんが招集すると全員が集まってきたので、さっきの状況が共有された。
原さんがちょっとしゅんとしてるのは霊をあてることができなかったからかもしれない。が、俺だってそうだ。しょうがない、こういう時もある。
「魔物とか、精霊みたいなの」
「……にしたって、なんで今まで気づかなかったんだ?学校中見て回ったってのに」
「───目的のために現れて、また消える。使役されてるからな」
「目的って?しかも使役ってことは……」
「俺に害をなすためかな?厭魅だよ」
目をつけられようと色々行動しようとして、ほぼ阻止されたが、果たして何が引き金になったのかな。
「呪詛で霊をけしかけるなんてありえる?」
「そういう呪詛があるらしいんだ」
俺も正式な文献で見たわけじゃなく、遠い知識としてうっすらあるだけなんだけど。
「厭魅っていうのは人を呪い殺すこと、手法の総称。森羅万象に神が宿るという思想のもと───昔は人型のものには魂が宿ると言われていて、それを憎い相手に見立てて念を送ると相手に届く、と考えられた」
この手法をおこなうことによって、悪霊や精霊を招び使役することになるとも言われているし、人型に宿った魂というものが怨念を浴び悪霊となり呪う相手に向かったとも言われてる。
結局悪霊も霊も人が視認し、害をこうむり、恐れたことによって存在が確立するので、根本的な解明がとてもむずかしい。
「じゃあ今学校で起こってることも、誰かが故意に呪ったゆうことですか」
「うん、それと多分、噂が立って影響を受けたりとかね」
「神経質なお人やったら影響をうけてしまいますね……」
「そう、そしてさらに広がっていくというわけだ、おしまい」
「おしまいって……あんた」
「あ、うそ、皆さんにはこれからヒトガタを探していただきますので帰らないでください」
ぺこりと頭を下げて引き止めたらそうじゃなくてと言われた。



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原作では桃太郎さんスカーレットちゃんお会いしてないし、こっちでも鬼灯編でそこまでかけてないけど繋がりあったら面白いなって思って書きました。いずれナルにアメリカのテイラー邸しってる?って聞いて目ん玉ひん剥いてあの屋敷に入ったのか!?!?って言われたいマン。

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