Sakura-zensen


春のおまもり 28

「それで?勝手に単独行動をとった成果は出ているんだろうな?」
ほどなくして、全員がベースに大集合したが、不機嫌そうな、いやいつもこんな顔だった気がするような、よくわからない表情のナルが怖くて、半分ほど安原くんの後ろに隠れた。
「成果というか、まず確認がしたいんだけど」
「どうぞ、ご自由に」
ふうとため息をつかれた。
前もそうだけど、人と一緒に調査とかってあんまりしたことないから、報告とか情報共有って難しいなあと両手を開いて指先を合わせ、人差し指だけをくるくるさせる。
「ヲリキリ様という遊びが流行っていると聞いたけど、その調査はどこまで進んでいる?」
「あれってこっくりさんでしょ?」
「単なる降霊術にここまでの効力はないと思うんだが」
谷山さんとナルが順番に不思議そうにした。
「じゃ耳に入れただけ……という感じか。紙を見たりはしてないの?俺もまだ見てなくて……ここにあるかと思ってきたんだけど」
「ないな、ぼーさん覚えているか?」
「教室で見たとき、生徒叱った勢いで捨てちまったな」
「なるほどー……じゃあみるのは、あとでいっかなー」
ぽりぽり、と頭を掻く。
松崎さんと原さんが、そんな俺を見ておずおずと口を開いた。
「それより、真砂子が気になってた霊の子どうしちゃったのよ」
「先ほど、昇っていくのがわかりましたわ」
「あ、そうそう坂内くんね。ここにいたら喰われてしまいそうだから、早めに昇ってもらったんだ。もともと迎えは来てたし」
安原くんは終始、不思議そうにしていたが口を開くことはない。ここは専門分野の人たちが集まってるので非常に居心地が悪いだろうに。
「喰われる……?」
「そう、ここは悪い気配でいっぱいで───それが全て、いわゆる悪霊というか怨念みたいになって蠢いてるわけなんだけど。この空間で徐々に喰い合いを始めて強くなったみたい。だから凶悪なものがいくつか校舎内にあって」
眉を顰めたナルに肯定する。
そしてホワイトボードを見て、特に注意とされているところを人差し指でなぞって確認した。印刷室、保健室……、大きいのは4つだったかな、それから中くらいのが2、3あって、あとは無数に───。
とつ、とつ、と突いて、除霊したしてないのメモも確認していく。
「とくに、この辺は刺激しないほうがいい。なんだったら他のも……除霊の衝撃で逃げたことによって悪化しそうだしな。どちらにせよ消えてなくなることがない」
「それは、なぜ?ここにいる霊能者にその腕がないと?」
「ちがうちがう」
俺が慌てて両手をふる。滝川さんや松崎さんがむうっと顔をしかめたからだ。
確かこの人たち、最近は大人しかったけどすぐ喧嘩するのを思い出す。
「ここで行われているのが降霊術ではなくて───呪詛だから」
「呪、詛……って」
谷山さんは前回俺が呪われたことに怯えていたので顔を真っ青にする。
リンさんとナルも目を見張り、少し体を強張らせた。
「前みたいな、ヒトガタがいっぱいあるの?」
「そうじゃない。今回は呪符が使われていると思われる───さっきいったよね、ヲリキリ様って」
「まさか、ヲリキリ様とは……」
谷山さんに否定して結論をいうとリンさんが立ち上がる。
「ヲン、ヲリキリテイ、メイリテイ、メイワヤシマレイ……ソワカという呪文をつかうなら」
「つ、かいます……それです」
安原くんにちらりと視線をやると、肯定された。つまり、これが呪詛をするときの呪文である。
彼は慌てて、ヲリキリ様で使う紙を持って来ますと会議室を出ていく。

「現在呪いは蠱毒の様相をもって進んでる───それが一つになってしまえばもう呪詛返しすらできないほどに強力になる」
このとき、滝川さんが蠱毒ってなんじゃいと声をあげた。
蟲の壺詰め3分クッキングの時間です。アレンジ方法の中には呪詛に使われるものがあってですねと解説をすると滝川さん眉をへたっとさせた。
「はーこりゃ、とんでもないな」
「そうね、今でさえ、こんな風に周囲に悪意を撒き散らしているんだもの」
「普通の生徒さんが無意識に行ったからここまで大きなことになった、ゆうのもなんややりきれまへん……」
みんな小さく、ウン……と頷いた。
そして安原くんがヲリキリ様の紙をもって入って来た。
リンさんと一緒に覗き込めばもう一目瞭然で「呪符ですね」と声を揃えるほどのもの。
「これを十字路にうめれば人を狂わせ、神社の下にうめれば人を殺す……」
「呪詛を行ったのが素人でよかったですね、私や春野さんがやれば1枚で殺せます」
非常に物騒なことを言うリンさんだが、事実なのでなんとも言えない。
「打ち破る方法はないのか」
「ありません」
「だが、返せるだろう」
「うん、まだ今なら返せると思う」
「返していいのですか?」
そこで、ストップをかけたのが滝川さんだ。怒涛の発覚で色々と申し訳ない。
そもそも彼らは誰が呪われているのかもわかっていない。
リンさんは呪符を滝川さんに渡し、梵字は読めるかと問う。本来は漢字で書いても良いのだけど、降霊術と称して普及させるにあたって、わかりにくい梵字にしたのだろう。それとはまた別で、今度は漢字で年齢が書いてある。これもまた、生年月日が良いのだけど、それだとちょっと違和感が生じる、もしくは日付と認識されて当日に変えられる恐れがあったため年齢を書いたんだと思う。
「安原さん、お聞きになっていた通りです」
「このままでは松山は死ぬということですか」
先生って聞いてたんだけどな、誰も先生っていわないな。俺の記憶違いかな。
ナルは"依頼人"としては校長ではなく安原くんを優先しているようで判断を委ねたのは彼だった。
呪いの効果を問われて、視線が俺に集まったので素直に返答する。
「死ぬ……それも、おそらくひどい目にあって」
「だから呪詛は返さなければならない」
誰に返すの、と誰かが声をあげる。
生徒がほぼ全員無意識でやってることで、誰がというのは考えづらいが、つまり、そのとおりほぼ全員の生徒が呪いをかけた人間です。
「この呪符に呪文を唱え、神社に埋めに行った人が呪いを行った人ということになる」
「つまり僕たち……生徒に、ですよね」
「そうです」
「やめて、やめてよナル、くんも……!」
「でもこのままでは松山という人物は死ぬ。生徒たちは知らなくても、人を殺す手助けをした罪がある。呪いをしたものは、返されてもなんの文句も言えない」
おそらく、ここにいる安原くんだって、このヲリキリ様をしたんだろう。話に聞いてたとおり学校は校則が厳しくて、教師も職員もあまり人格者がいないように見受けられる。
そのため、谷山さんは素直に生徒の境遇を知って同じく辛い思いをしたのかもしれない。
彼女は俺にすがりつくようにして、呪詛返しをやめてと懇願した。今にも泣き出しそうな顔は必死で、少し怒ってた。



next.

主人公も当然のように呪いは返すっていう判断をすると思う。
あと松山先生とはまだあってないし……いやあってても"呪われる"というのはなんというか、世の理に反するというか、無視できないので返すのが当然だと判断すると思います。
呪符の年齢の部分、本当は生年月日がいい、のくだりは私の解釈でそうしたんだけど、わりとそうじゃない?そうなんじゃない?と思っています。年齢を書いたら、松山先生が年齢が変わった時効力失いそう……。でも生年月日ではアレンジしやすさがあるので、それで呪いの効力減るくらいなら、この1年にかけるぜ!!!みたいな。

Jan 2021

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