Sakura-zensen


春のおまもり 43


あの世でのジーンの処遇を聞いてくるのを忘れていたことを思い出す。
イギリスのあの世へ行ったのか、日本のあの世で俺を待つのかは定かではない。お供たちか、白澤様あたりならそのうち会うから聞いてみようと思ってる。白澤様は教えてくれるかわからないけど。
黙祷を終えたらふつふつと、疑問ややることが思い浮かび整理されていく。

ジーンの供養の後は、近場で依頼を受けていた。廃校になった小学校を調べてほしいというものだ。
あらかじめ俺が湖で供養させてほしいと役場に電話をしたことがきっかけで、どうにも要領を得ない内容だったが行ってみるついでに見てこようかという軽い気持ちでナルをも巻き込んだ。
しかし、実際依頼人の町長たちに会ってみると、口にするのも憚れる内容が次々と出てくる。電話ではきっと言いづらかったのだろうと思うが、だからって秘匿しすぎだろうとも思う。

町長たちが帰った後、滝川さんの車は女性3人とブラウンさんを乗せて買い出しへ、俺は安原くんと町に出て調べものをすることにした。
リンさんとナルはお留守番。町長たちからもらった資料もあるしミーティングでもしてるだろう。
俺は過去の行方不明者と、山津波、その後に続いた不審死や自殺について、安原くんは近隣住民の口からきく噂話を調べた。

5年前、ドライブウェイの上に突如として崖から土砂が崩れ落ちた。雨か何かで地盤が緩んでいたのだろう。
トンネルの真上から前後の抜けるあたりのところを大量の土砂が覆った。また、トンネルよりも下にあった民家にまでそれがなだれ込み、たくさんの死者、重傷者を出したと連日ワイドショーでやっていたのを思い出す。
件の廃校になった小学校は、当時の在校生18名をバスに乗せて遠足に出かけていた。
その生徒18名と引率の教師1名が死亡したことにより、学校は全校生徒を失った。
また、事故からひと月あまりのころから、3~4カ月に1人の失踪者が出ている。被害者は子供で、しかも、発見場所は大まかな住所と『山中』という言葉でぼかしているが小学校の所在地だろう。
しかし一昨年のころから行方不明者が死体となって発見されたという記事は出ていない。
止んだのかと思ったが、どうもそうではない様子だ。見つけることができなくなったと町長たちが言っていたがそれはおそらく、───探すのを辞めたんじゃないだろうか。
ほんの少し、後ろ暗いところを見つけてしまい立ちすくむ。
調べれば調べるほど、町長の話していた奇妙な点が浮き彫りになる。
それから矛盾や誇張が見つかって、真相はあっけないほど簡単にわかった。
彼らは自分の口からこれを、俺たちにきちんと語ればよかったのに。
とはいえ、すべて曝け出すのには勇気が要ったのだろう。

安原くんと合流し、彼が聞き得た情報をもってロッジへ帰ると買い出し組がもう、お昼ご飯を作って待っていた。
そういえばもうこんな時間かと、松崎さんが主に腕をふるってくれた手料理をいただく。
はこれでいい?」
「あ、ありがとう」
松崎さんは丁寧に肉類を避けて簡単なものを出してくれた。
前回の調査でナルやリンさんも一緒にそうしてると分かったから、量もあるし分けてくれたのだろう。
「夜は手伝うね」
「助かるわー。麻衣も真砂子も全然料理しないみたいで」
「うんと簡単なのならできるってば」
「今まで作る機会がなかったのですもの」
谷山さんは少し口をとがらせ、原さんはそっと顔をそむけた。

食事が終わると滝川さんは情報はどうだいと早々に問いかけてくる。
今回は情報が必要となる調査なので気になるのだろう。町長さんの説明は少しぎこちないものだったから。
ナルやリンさんも気になっていたようで俺たちをじっとみた。
まず俺が小学校が廃校になった理由でもあり、原因と考えられている子供たちの死亡事故について説明した。
5年前に日本にいなかった、ブラウンさん、ナル、リンさんを除く皆はこの事故のことが記憶にあるようで話を聞いているときの表情は違った。
そのあとにも立て続く不審死と、自殺、それから失踪者に表情を曇らせる。
「一昨年から死者を発見しないことにしたのか」
ナルはすぐ、このことに行き当たったみたいだった。
「僕も話を聞いていて変だなと思ったんですが、まず最初に小学校が廃校になった時にダムができる為、人が大勢転居することになったからと主張していたじゃないですか。でもあれって、事故後廃校になるよりももっとずっと前のことなんですよね───だから町長たちは最初在校生がすべて死んだことも隠し、春野さんに電話した通りの内容で僕たちを調査に行かせたかったのではないでしょうか」
「失踪者のほとんどが外から来た観光客だったから?」
「おそらく。最初の2、3人だけは地元の子供だったりするようですが、あとはほとんどが観光客みたいです」
「客足に響くだろうな」
松崎さんと滝川さんがわかった風に頷く。
「つまり詮索もされたくない、ことを大きくしたくもない───しきりに、内密にと言っていたな……調査の依頼するタイミングだってたまたま、がここにきてもいいかと問い合わせたときに縋りつくくらいだ。よほど困窮していたんだろう」
あのタイミングでまさか俺みたいな怪しい電話の人に相談してくるのは変だし、ナルも俺もなんでだろうなって思ってはいたのだ。
「せやけど、ボクたちが来てから、多少の事情は話してはりましたね」
「ええ、嘘が下手すぎてボロをだしたみたいでしたが」
「最初からちゃんと話せってんだ」
「おおかたを前にして嘘が吐けなくなったんだろう」
「ええ、春野さんを前に嘘はつけませんね」
男性陣の視線がいつの間にか俺に集まり、つられて女性陣が横目に俺を見て、あーと納得の声を上げた。
「え、何の話……?」
俺は食後のお茶に口をつけるにつけられず、右往左往してしまった。


お昼ご飯の後、一度小学校に機材を設置するために車を出した。
ごろごろと土や小石を踏む音とともに、校庭のような広い場所に、無造作に車を停めた。
まずは校舎の中には入らず、外からマイクやカメラを突っ込んで様子を見るらしい。
「懐かしいな」
「んー?」
「何がですか?」
窓の外からマイクを建てる作業を手伝っていると、滝川さんがぽつりとつぶやく。谷山さんと安原くんが返事をしている間に、俺はふと思い当たって同意するように笑う。
「谷山さんとこの旧校舎?」
谷山さんはあっと声を上げて俺と、滝川さんを見る。安原くんにもわかるように、俺たちが初めて会ったのは彼女の通う学校の旧校舎の調査だったのだと軽く説明した。
「スゴかったよな、あのころから」
「……スゴかったね」
2人はちらちらと俺を見てうなずく。なんだよう。
「春野さんが除霊?浄霊?されたんですか?」
「いや、霊はいなかったよ。怖い噂はあったけど全部単なる事故とか事件で、生徒たちが噂して面白がってただけみたいだし……しいて言うなら、地盤沈下しててさあ、俺たちが帰って数日後に校舎が倒壊したんだよね」
「それはすごい……調査が長引いていたら巻き込まれてたかも」
ほのぼの安原くんと話していると滝川さんと谷山さんは、言いたいことと違うみたいな顔をする。
俺そんなに変なことしてないと思うんだけどナ……。
よくわからないので、いそいそとマイクスタンドを伸ばす。
割れた窓のところまではちょびっと届かなくて、どうしようかなーと悩んでいたところで、滝川さんもそれに気づいてありゃまと声を上げる。
窓ガラスの下の方を割ってしまおうという話になったが、高さ的に手を伸ばして安全に割れそうもないので、離れたところから石を投げて割ることにした。
谷山さんがわくわく、とやりたがっていたので彼女に委ね少し離れたところに男3人で座って眺める。
「ピッチャー、振りかぶって、投げました!───ボール」
ふんっと投げたところで、1投目は壁に当たるだけで石は遠くへ転がって行ってしまった。
安原くんはすかさず設置するためのマイクをもって遊んでいる。
「あれえ?」
「今の投球、いかがでした?滝川さん」
「だめですねえ、肩に力が入ってます」
2、3回目もなかなか思ったところへ飛ばず、谷山さんはぜいぜいと息を吐いている。疲労というよりは、多分外野がうるさくて何かを言いたくて息が上がってるのだろう。
「落ち着いてー、いつもの投球思い出してこ~」
俺は何役なのか定かではないが、チームメイトのふりをして谷山さんにエールを送る。
谷山さんは俺の暢気な応援に笑って答えて、ちょっと力が抜けたようでうまい具合に窓ガラスを割ることに成功。
安原くんはいつのまにか野球からプロレスにシフトチェンジしたらしく、ボールとガラスはもんどりうって地面に倒れ、ボンバー谷山が勝利する結末をたたえていたので、俺はレフェリーに転職して谷山さんの片腕をつかんで上げといた。


next.

町長さんたちは主人公の背後に安西先生のスタンドが見えたんですわ()
でも三井寿度が足りなくてすべてを言うまでには至らずですね。
Oct 2021

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