Sakura-zensen


春のおまもり 47


脅かすんじゃない!としこたま怒られた俺は、自分の責任ではない気がするのだけど謝罪した。
肩をぽんってしたのは俺だしな……。
松崎さんはどうやら、この場に不釣り合いな子供の人影を見た気がしたらしいが、一子さんと二子さんの姿を明瞭にとらえることはできていないもよう。


とにかく、松崎さんと合流できたということは希望の光が見えてきたぞ。
「それにしても、どこ行ってたのよ皆して……麻衣たちは?」
「あれから、皆一人ずつはぐれてっちゃってねー」
松崎さんとリンさんがはぐれてから、子供たちの霊が接触してきたらしいことと、それから順繰りに別行動を取らされ、子供にとってかわられたこと、今は滝川さんとナルと谷山さんが霊の説得に当たっていることを説明する。
「麻衣に説得ぅ?無茶よ」
「そうかな。除霊にあたるよりは刺激しないだろ?」
頭が痛い……といいたげに、松崎さんは額を爪先で抑えて目をつむる。
「まあ、今は麻衣みたいなんでも使わないとね……」
と、納得してくれたらしい。

俺たちは今のうちに合流しておかなければならないので、手当たり次第に教室を覗き込んでいく。
ある時急に、一子さんと二子さんが走り出した。あっと視線をやれば、二人はぱたぱたと足音を立てて少し先の教室へ入った。
「今足音しなかった?しかも複数の……」
「あー……したね」
「ちょっと、どこいくのよ……?」
俺は松崎さんを促し足早に、2人が入っていった教室に向かった。
そしてドアを開けようとしたその時、教室の方からドアが開けられ、安原くんと目が合った。
お互いわっと声を上げて、ぶつかりそうになって肩や腕をつかみあう。
「春野さんか……びっくりした……っていうか今までどこ行ってたんですか?あれ、松崎さんもいる」
すっごく驚いたみたいだけど、安原くんはすぐに平静を取り戻した。
なにやら物音がしまくって怖かったらしく、脅かさないでくださいよーと俺が責められた。2回目のごめんなさいをした。

このあとも、行方不明になった人たちと俺をいかにかち合わせるかという桃太郎チャレンジに味を占めたいたずらっ子は先をゆく。次々と見つけては自分たちの存在を餌にして気を引き、見えそうなところで俺のせいにして驚かせた。
子供の霊に分散された皆は、子供の妖怪に合流させられたのだった。

原さんは神妙な顔をして周囲を警戒していたところを、俺が出てきたものだから、小さく悲鳴を上げた。そのことを恥ずかしそうにしてふくれていた。
ブラウンさんには聖水をかけられ、リンさんには式を放たれた。
2人ともめちゃくちゃ謝ってくれた横で、一子さんと二子さんは大興奮して喜んでいた。特にリンさんの指笛がかっこよかったらしい。
「あー……リンさんごめん、式大丈夫かな?」
「問題ありません、そのうち戻ってくるでしょう」
水は特に害はないし避けようもないので被ったが、式は咄嗟に手で退けた。
滅殺してしまったわけではないようなのでほっと安心してリンさんにもう一度ごめんなさいをした。
「それにしても、春野さんよく僕らを見つけられましたね」
「ああ、うん……助っ人がいるので」
安原くんはにこにこと話を変えてくれた。元々俺にはみんなの姿が見えていたのもあるけど、今回気づくきっかけをつくってくれたのは座敷童さんなのでそれとなく褒めておくことにする。
「また神様呼んだとか言わないわよね」
「神様ではない」
「では、ない」
ブラウンさんが日本語の繊細な使い方に注目をする。勉強熱心ですね。
俺はあはっと笑ってあいまいに表現した。
どうやら皆、子供らしき人影を見たり、着物の端っこを見たり、うっすらかわゆい声を聞いたそうなのだが、姿をはっきりと見てはいないのだそう。

ちゃん、これで全部?」
「まだ探す?」
くいくい、と俺の服を引っ張る2人はやっぱり、ちょっと憎めない。
遊ばれていたが結果的に助かったわけだし。
「どうしようかな、ここまでくると今度は谷山さんたちが心配だから行こうか」
誰にでもなく言うと、皆同意するようだった。
多分、谷山さんたちは霊に接触するべく動いたはず。
どこにいるのかは俺には判断しかねるので、また座敷童さんたちの力をかりた方が楽かもしれない。

2人は楽しそうに通りゃんせを歌いながら導いてくれた。
正直その歌のチョイスは怖いです。

子供特有の声と、抑揚のない音頭に、俺もつられて口ずさむ。
一子さんと二子さんが俺の両手を引いて廊下を歩くと、なんだか昔を思い出す。
思えばこの子たちは小さい俺の初めてのお友達だったなーなんて。

「浄化の光が見えます……」
「へえ」
原さんの声に、松崎さんが反応する。
ああ俺にもなんとなくわかるかもしれない。
多分職員室とされていただろう部屋に入ると、谷山さんたちの後姿が目に入る。
そして明るい光と、もっと明るい人魂のような何か。
「私たちもそろそろ帰ろうか」
「楽しかったよ」
とおりゃんせの歌が途切れて、俺の両手から小さな手が外れる。
一子さんと二子さんは、成仏していく霊たちをすべて引き連れていくように光の中へ吸い込まれていった。

ここじゃなければもっと遊んでもよかったけど、と思いつつ帰るときは笑顔で見送ると決めてるのでにこにこ手を振っていたら谷山さんが振り向いて、おずおずと話しかけてきた。
「さっきのうた、くんだよね……?」
「へ、うた……?ああ、うんうたったー」
ちょっと照れ臭くなってきた。みんなにはそういえば俺の声しか聞こえないんだったや。
リンさんたちもだまって俺の後をついてきてくれていたが、つまり一人で歌ってる俺の後ろにいたわけでして。
「どうだった?霊とは話せた?」
「ううん、あんまり」
話を変えるようにして谷山さんに話題を振る。
ナルや滝川さんは、合流できた皆に絡まれていた。
「そっか。でもこっちに気をやられなくて、良かった良かった」
「……くんはすごいね」
「へ?」
皆がさっさと校舎から出るぞーとドヤドヤ歩いている後ろをゆっくり追う。
谷山さんはどうやら、俺に任せられた説得に、重きをおいていたらしく落ち込み気味だ。
「あたし、桐島先生に何も言えなかった」
「……」
どうやら、一度はコンタクトがとれたようだ。
当時の事故現場に意識が飛び、死にゆく悲痛な声と、先生の絶望の感情に呑まれそうになったらしい。引き留めようとしたけど学校に戻っていく先生や子供たちに谷山さんの声は届かなかった。
「そりゃそうだ、人は簡単に救われたりしない」
「へ……でも、感情がつられるって」
俺は笑いながら後頭部を軽くたたいて、前を向かせる。
「性質はな。でもぽっと出の人間に、ちょっと声をかけられて優しくされて、前を向けるポジティブな奴はハナからここでこんなことしてないだろ」
「そう……だよね」
「上手く教えてやれなくてごめん」
ううん、と首を振った谷山さんは、きっと自分で助けたいと思ったんだろう。
俺が言ったからというのもあるけど、たぶん、子供たちに会って、先生に会って、死の恐怖を味わって。
「もし自分が助けたいと思ったなら、何度でも言葉を重ねるしかない」
慰めるように頭をぽんぽんすると、谷山さんは少し考えるような目をしていた。でももう、落ち込んではいないみたい。


next.

傍から見ると通りゃんせをひとりでに歌いだした主人公です。
綾子たちが座敷童さんに気を引かれていたのは霊的な存在に敏感になっていたからで、主人公に気が付けたのは霊の力が及ばなくなって(主人公の力のほうが影響力が強くなって)きたから。
浄化の光は座敷童さんがおうち帰る為に呼んだのに霊が巻き込まれただけ。つまり強制送還。
主人公はまさかそうなるとは思ってなかったというか、頼もうとは思ってたけど、なんだったら全員揃ったところで力いっぱい()除霊するつもりでした。

麻衣が活躍するようなところを匂わせておいてアレなんですけど、ここで説得に成功するだけの経験がまだ麻衣には足りてない気がしてやめました。全話通して、だいたいももたろーが片づけてしまっているので。
でも徐々にわかり始めていて、才能も少しずつ開花されてってると思っています……。

Dec 2021

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