Sakura-zensen


春と走る 01

気づいたらゴスロリ趣味のお母さんと、嗅覚が犬並みのお父さんと、同じく嗅覚の良い弟に囲まれていた俺は、可愛いゴスロリ服を着せられていた。
弟には「大分可哀相だけど兄さんのお陰で僕は着なくて済む」と感謝されてる。妙なところで兄の尊厳は保たれてた。
新しい家族にはちょっと驚きだったけど、二年で慣れた。いや、むしろ二年かかった事が驚きなんだけどな。お母さんのゴスロリ趣味とお父さんの犬っぽさと、……自分の研ぎすまされしそれに。
いやーおどろいた。お父さんも弟も嗅覚犬並みじゃんって思ってたけどまさか俺までそうとは。
感じる事もそうだけど、臭いを覚えてしまうこともあって、しばらくは慣れなかった。

同級生の前でおかしな発言をすることはなかったんだけど、数日前にすれ違ったコンビニ強盗のシンデレラと再会してしまったのでぽろっと口に出たこともあった。またしてもコンビニにいた所為でついつい。
未発達な身体をした俺は、男に腕をひっぱられて店から引きずり出される。身体が軽いってこまるよね、こういう時。
外に出たら防衛はさせてもらおうと思ったんだけど、一応か弱い一般市民を装って声をあげていたので、通りすがりのおじさんに助けてもらえた。
おじさんはどうやら警察関係者だったらしく、すみやかに通報され、事情聴取をうけることになった。シンデレラはコンビニ強盗犯でまちがいないから良いんだけど…俺はどう説明したら良いのやら……。
困ったけど警察の人に嘘をつくのもなーと思ってシンデレラが落として行ったくちゃい靴の臭いを覚えていたと、一歩間違えたら変態みたいな事を宣った。信じてもらえなくて警察官の人には怒られかけたんだけど、助けてくれたおじさんが再び現れて庇ってくれた。
「君、刑事になったら?」
ぱゆんぱゆんツインテールをさせられている俺に……そんなことを言ってくれるなんて……!
この見た目で女の子扱いとか、ワンコ扱いが多かったのでぐじゅっと鼻水出て来た。
「刑事になったらそのすばらしい鼻がとても役に立つよ、悪い人をいっぱい捕まえてきっと大活躍だ。———刑事になりなさい」
「かんばりましゅ……!」
ぎうっとおじさんの手を握ってふええんと咽び泣いた。ぱゆんぱゆんツインテールの頭を撫でてもらって、そのあと警察官のおじさんたちに家まで送ってもらった。


そんなこんなで、俺は警察官を目指し、無事刑事になった。よく考えたら、医者になるよか鼻の使い道があるかもしれない。警察犬と勝負した事は無いけど、そこそこ良い所まで行けると思うんだよなあ俺。
幸いにも同期や先輩には恵まれていて、俺の嗅覚の事を認めてくれてたんだけど、この度配属が本庁になったのでまた人間関係やり直しだ。
「本日付けで捜査一課強行犯6班に配属になりました、花森巡査であります、宜しくお願いします!」
上司からは私服でいいって聞いてたし、なんか6班に花欲しいっていうし、お母さんが未だに俺の私服自由解放宣言を認めてくれないし、俺が私服になったら弟に被害が行くので弟にも泣かれ、…結果ゴスロリは健在である。ぱゆんぱゆんツインテールだけは合戦し、天下統一をなしえたので……ポニーテールになりました。泣いてなんかねえやい。
ぽかーんとした皆の目線にも、照れたら負けだと思ってるのでノーリアクションで応じる。開き直れば段々認めてくれるって俺知ってる。似合うものなら3分見つめれば慣れるわってファンションリーダーもゆってた。悲しい事に似合うのだ。
「……課長、冗談でしょ?」
「いんにゃ大真面目よ。部長の決定だ。こういう新人が加われば6班も少しはお上品な捜査をするだろうってな」
班長と思しき人が引きつった顔で聞いてる。
なんなの、6班はお下品なの?
「で、でも課長!!うちに女性は無理ですよ!!」
「それも、こんなっ……まだガキじゃないですか!!」
「だいたい何だその格好は!そんなピラピラで刑事が勤まると思ってんのか!!」
え、やっぱ駄目なんじゃん。
みんな、いつもの花森で行ってよしって言うからきたのに。
「こう見えて警察手帳も手錠も拳銃も持ち歩ける作りになってます」
お母さんの配慮です、とは言わないでおく。
「あと女じゃないです」
一人チャラチャラした人が寝こけてるし、そんなに問題にもならなそうな。いや、問題児程度で終わりそうな。
「は!?……なんでそんな格好をしてるんだ?趣味か?」
「親の趣味です。この格好を辞めてしまったら年頃の弟に被害が行くのでやめられません!弟はまだ高校生なんです!!」
まあ俺は中学も高校も可愛い格好で通ったがな。
「む……そうか、まそれはそれでよしとしよう」
班長はついていけないからもうどうでもいいやって思ったのか納得したけど、若い人がいいんですかと驚いていた。
ついでとばかりに課長は、去年俺が警視総監賞をもらっているって情報を付け加える。皆してこのフリフリちんちくりんが!?って顔で固まってしまい二の句がつげなくなり問答は終わった。

課長が俺をおいてったあと、皆はじっとりとこっちの様子を伺っているようだった。
とりあえず俺はシャッターの隙間から外を見るってやつをやってみた。西日が足りない。終了。
見た目と違って頭切れるのか、すごーく強いのか、たまたまじゃねーか、と様々噂をされているのは聞こえてる。頭はそんな悪くないし、強さは健在だし……警視総監賞はたまたまなのでまあ全部本当。
ふいに、ぐうすか寝こけてた人から血の臭いがした。
「怪我してるんですか?血の匂いがするんですけど」
「ん?怪我?してないよ、怪我させたの、容疑者ボコって」
「ああ、なるほど」
柳さんは親切に答えてくれたあと、誰が俺とペアを組むのかと言う実践的な話題をだしてくれた。……多分こんなのと組んだら死ぬとか思われてるんだろうなー。妙な顔をしているみんなに向かって、にへっと笑って敬礼をしてみる。
俺としては最初は班長とか重村さんあたりと組みたい。どうみてもベテランだし。
「班長、桐島はどうです?」
頭が良さそうな柳さんは、もっともらしい理由をつけて班長に提言した。やだ〜ブチ切れる人と組みたくな〜いって思ったけど無理そうだ。
重村さんに3年ついてたってんなら、じゃあ俺のペア重村さんが良いのでは……。
「今度は俺が重さんにたたきこまれる番です!重さんは俺のものです!」
そう思ってたら、多分俺の次に新人らしい小松原さんにとられた。
く、くやちい!じゃあ班長……と指をくわえてみてたのに、目線をあわせてくれない。
俺は!見た目程!厄介じゃ!ないぞ!!

なし崩し的に、3年先輩の桐島さんとやらにペアが決まった。
ちょうど出動命令がはいっちゃったから、どさくさ紛れすぎる。
これ誰ですか?からの花森、今日からお前の相棒だ、っていうあっさりとした紹介がなされ、俺はあわてて敬礼をつくる。
「花森であります!桐島さん、宜しくお願いします」
「はあ………………はあっっ!?」
きゃぴっと笑うしか無かった。



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漫画沿いです。ドラマはキャラクターの設定が違うらしい(みてない)ので、ドラマだけ観てた人が読むとンン???ってなると思います。
Mar. 2017

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