春と走る 06
女性の飛び降り自殺と思しき事件に呼ばれてとあるマンションへ行った。通報した時に大家さんがはやとちりして、人が刺されてるって言ったから俺達が出動してしまった。その大家さんは強面だったけどちびっちゃくて、なよっちい性格のおじさんだった。なんか面白い。
ほぼ自殺かなーってところで意見が固まりつつあったので、捜査はするが6班は解散と言われて警視庁に戻った。
久々に定時にあがれるとあって、桐島さんはご機嫌だった。デートですかって小松原さんが聞くと普通に肯定される。
「ふえ〜っキリさん彼女居たんだー。柳先輩知ってました?」
「ああ、彼女高校の同級生らしいぞ」
「それじゃ、付き合い長いんですね」
「いや、今年同窓会で再会してからだってさ」
いそいそと仕事を片付け和田さんに報告をしている桐島さんを眺めながら、小松原さんと柳さんの会話に耳を傾ける。
どんな顔してデートとかしてんだろ、想像できない、となんとも失礼なことをいう小松原さんだけど、俺は柳さんの方をじーっと見る。
「なに?」
「柳さんと桐島さんって恋バナとかするんですね」
「二人仲良いんだよ。……ワンコはいるの?」
小松原さんが笑いながら聞いて来た。
「どっちだと思います?」
「……女……いや、あえての男」
恋人の性別の話にまで戻ってしまった。柳さんが笑っている。
「じゃーな、しょんべんたれども、君たちは早く帰って飯食って風呂入ってクソして寝なさいねっ」
歯も磨けよ、とまで付け足す調子こいてる桐島さんを見送ったが、班長に大家さんの所に行けと仕事をいいつけられて固まった。ごきげんざまあ!って思ってたら俺も一緒に行く事になった。そういえば俺この人とペアだったな。
3回目のドタキャンやべえ……とヘコんでる桐島さんが可哀相になってきた俺って良い子すぎないか?
恐がりな大家さんとおしゃべりしてくるくらい一人で出来るしなあ。
「方角も一緒だし、ちょっと寄るだけですから。デート行っちゃってください」
「マジで?」
最初はそーゆーわけにはいかねーと言ったけれど、俺が再度言うと桐島さんは嬉しそうにこっちを見た。いいとこあるじゃねーかって言われたけど、俺は元々いいとこばかりじゃねーか?まあいいか。
「今度飯おごるぞ、飯!」
「行ってらっしゃーい」
手を振られたので振り返し、彼女の元に走る先輩を見送った。うむ、なかなか好青年ではないか。
ところが不肖花森、一生の不覚をとりました……。
大家さんと仲良く話してるところまではよかった。なんだかんだ22時までおしゃべりしてしまったけど、電車あるし全然帰れるなーって思ってた。ところが転落死現場に人がうずくまっていたのを発見したのだ。元彼が泣いてるのかと思って声を掛けてみたんだけど、様子がおかしい。友人かって聞いてみたら違うって言う。でも、遺体や部屋には、この人の臭いがあった。
俺はその人物を追うことにして、タクシー捕まえて尾行してたんだけど、なんかの拍子に見つかったらしく倉庫の中に閉じ込められてしまった。
倉庫ぶっこわしたら……駄目かな?そうだ桐島さんに電話を……!と思ったがデート中だ。
班長に報告したら……うーん、桐島さんどやされそう。いや、桐島さんと別れたあとの話ってことにすれば……でも桐島さん呼び戻されてバレるか。あの人も班長に下手な嘘はつかないだろう。
ひとまず様子を見ることにした。どうせ犯人は現場に戻って来て俺をどうにかするんだろうし。明日の朝一番に桐島さんに連絡して出して貰えばいっか。
つまらないことに、何にも無く一晩経ってしまった。携帯は持っていたので家族に連絡は入れたんだけど……そう考えると俺を閉じ込めた男は馬鹿なのかもしれない……。
現場に戻る犯人、慌てる、嘘をつく、逃げる、閉じ込めるっていうなんともセオリー通りの事をやらかしていたし。これで、ついカッとなって殺したとかだったら本当……。
まあセオリー通りに閉じ込められてる俺もアレなんだけど。唸っちゃう?右腕唸っちゃう?
……とりあえず電話しよ。
『もしもし?……どーした』
「おはよーございます、もう出勤しました?」
『んなわけあるか、今何時だと思ってんだ……』
朝5時ですとも。
桐島さんはわりとしっかり電話に出てはくれたけど、案の定ちょびっと怒られた。
「昨日、ポカっちゃいまして」
『は?あの大家が犯人だったとかいわないよな』
「いえ、大家さんは超良い人でした……22時までおしゃべりしてしまうくらいに」
『……んで?』
ため息と一緒に、もぞもぞする音がした。多分今起きたんだろうなあ。
申し訳ないんだけど迎えに来て欲しいなーとしょぼしょぼした声で言ってみる。電話口では驚いた声がして、早口で大家さんちから出た後怪しい男見っけて尾行しちゃった、見つかっちゃった、閉じ込められちゃったという失敗三連続を報告した。
『ばっ……っかかお前は』
「あい……」
きゅうんきゅうん泣きながら場所を伝えると、しょうがねーから行ってやるって言ってくれた。
『っつかなんでオレなんだよ……しかも一晩って。さては寝てたな?』
「やだーさすがに寝てないですう。戻って来るかもしれないじゃないですか。桐島さんデート中だと思ったし……他の人に言ったら一人で大家さんのところ行ったことバレちゃうし……」
『……クソ』
きゃわん……、怒って電話を切られた。
「うんぎゃあ、なんで柳さんまで……!」
「不満そうだな?花森」
倉庫に迎えに来てくれたのはそれから二時間後だった。思ってたよりおせえなって思ってたらまさか柳さん連れて来るとはな!!
「めっそうもございま……アレェ!?ほっぺ腫れてるじゃないですか!」
怒られるうってびくびくしてたが、柳さんの後ろでばつのわるそーな顔をしている桐島さんが目に入る。誰に殴られたの……柳さん殴らないし。まさか犯人ともみ合ったか……いや、柳さんと一緒ってことは班長も知ってるのかな。つまり班長に殴られたってことか。
「あちゃー……バレちゃいました?」
「当たり前だ。っていうか、自分で白状したよ。───揃いも揃ってお前らは…」
「うひ……」
どうやら桐島さんは、一緒に大家さんの所に行かなかった所からちゃんと説明したらしい。終わりよければ全て良し、身体も張っちゃうゾっていう俺とはまた違うというか……。けじめつけたのかよ男前すぎる……俺も帰ったら殴られよう。
とりあえずむっすり黙ってる桐島さんに、ごめんなさいと謝る。
何か言いたげな顔してたけど、文句はとんでこなかった。
俺の身の安全を確保したと、柳さんは班長に報告をしている。向こうでは、俺が尾行してたと思われる男が確保されたらしい。
俺は班長に、馬鹿野郎と頭にごっつんこされた。もっとこう、顔面殴ってくれても良いのだけども……。
「俺はキリに行けと言ったんだ。お前みたいなぺーぺーが一人で行ってどうする!」
「すみません」
「キリの為を思うのは普段なら良いが、こんなことになってちゃ意味ねーだろうが」
「刑事の仕事が優先だ!なんですぐ報告しねえ!?テメーも仕事舐めてる証拠だぞ」
班長に続いて、重村さんと和田さんにもお叱りを頂いた。
桐島さんはもっと怒られたようだ。小松原さんがちょろっと教えてくれた。
柳さんと桐島さんは取り調べを見ているらしいので、俺はもう一度謝りに行こうと覗き込む。
「なーにが好きだっただ!バカヤローが。……あ、花森」
「取り調べどうですか?」
「どうもこうもない、まあ概ね予想通りだな」
「ふうん……」
「お前はどうしてここに来たんだ?叱られて来るって言ってただろう」
柳さんはマジックミラーの方を一瞥してから、桐島さんと一緒に部屋を出て来た。
「それは、おわりました」
「早……みんなお前には甘ぇよな」
「そうですか?」
桐島さんは不満げだ。
甘やかされてる自覚はなかったんだけど。
「花森は基本的に従順で聞き分けがいいから、そんなに叱る必要はないだけだろ」
「は?でも俺だって反抗的じゃないでしょ!?くそー……贔屓だ」
桐島さんは早歩きでどっかいってしまって、俺は追いかけようとしたんだけど首根っこを掴まれ阻止された。
「もう一回謝るならやめとけ」
「へ……なんでですか?」
「まず新人の後輩を一人で行かせたキリが悪い。しかもそんな後輩にめちゃくちゃ庇われたんだ。そんなに謝ったら惨めだろ」
「でもそれは、俺が勝手にやったことだし……」
「ならもうやるな。今度からすぐに桐島や……俺でも誰でもいいから報告しろ」
「はい」
襟をつかんでいた手ははなされ、頭部をとんとんされた。
その後俺は桐島さんにちっっっさい声で一人で行かせて悪かったと言われたので、飯奢ってください飯!っておねだりをして一緒にちょっと遅い朝ご飯を食べに行った。
next.
名前出すタイミングがあんまりなかったし出さなくても良かったけど、今後出すと思うので今回もちらっと出してみました。
Mar. 2017