Sakura-zensen


春の旋風 05

緑陵高校の調査は初日から犬のお化けが現れて大騒ぎになった。危害を加えられるくせに、消えられるってズルくない?いや、忍もそれくらいできたわ。ナルトの影分身は攻撃できるくせに攻撃されたら消えて本体無傷だもん。いや、痛みはあるんだっけ?とにかく死にはしないんだよな。
足をけがした女の子をひょいっと抱っこしたら安原さんや女の子にぎょっと驚かれる。あ、お姫様抱っこは恥ずかしいかな。
「あの、わたし重いから……!」
まあ、普通俺の体型じゃ軽々抱っこできないか。
「重くないよ、大丈夫。ほら掴まって。安原さん保健室はどっち?」
安心させる為に笑ってから安原さんを見ると、感心したように俺を見てる。男として憧れちゃう?どうぞどうぞ!

保健室から戻ってきたら事情聴取が始まり、異臭のする教室の様子を見に行く。その時コックリさん、別名ヲリキリ様の紙を見せてもらったけどまったくわからんかった。この模様にはどんな意味があるんだろ。普通鳥居だよね?暗号?ヒトガタの横も字みたいなのもあるし、當歳伍拾参というのは今年五十三歳になるって意味だ。えーと、どういうこっちゃ。
考えてるうちにぼーさんにとられて、ぐしゃっと握りつぶして捨てられた。なんだよ捨てるなよ。

綾子とリンさんがやってきて、安原さんも泊まり込みで手伝うって言うんで俺達は夜の学校を歩き回ってたんだけど、なにかがつけてきてた気配がして廊下で足を止めた。
「どうしました?」
明らかに人の気配ではなかった。だからといって忍でも無さそうだし、多分……忍なんていないだろう。あ、ちょっと寂しくなって来た。
「なんかいたな」
「まさか幽霊ですか?谷山さん見える人?」
「見た事無い訳じゃないけど……」
「さっきもESPがあるって言ってましたけど、それとは違うんですか?」
安原さんが首を傾げて明るい声で話す。なんか緊張感がないっていうか平常心すぎて落ち着くわ、この人。
「ん〜わかんなーい」
素人の浅知恵を披露すると渋谷大先生から盛大に馬鹿にされるので、俺は説明は遠慮させてもらった。すでに気配が消えてたからまた機材の設置を続け、安原さんと二人で緊張感のない会話をしてからベースに戻る。
眠っている最中は案の定変な夢の中にいて、学校中に人魂がふわふわ浮いているのを見た。おまけに夏服の男の子まで出て来て、あららこれって坂内くんなのでは……と冷や汗を垂らす。
「楽しそう、だね」
「これ以上ゆかいな気分なんてないくらいだよ」
うああ、俺、幽霊としゃべっちゃった……。

自殺したと聞いてたけど、なんか楽しそう。しかも悪意がある。殺気ってほど覇気はないけど、憎悪は感じた。
次の日は原さんがやってきて、坂内くんはすごく学校に思い入れがあるって聞いて確信を得た。なんか企んでるんじゃないだろうなああの子。
優しい渋谷さんは邪悪だから帰った方が良いとかいうし、今回の所は危険そうだ。退魔法を教わるように言われて返事をしたところで起きると安原さんが俺の顔をじっと眺めていた。悪趣味。

「坂内くんって、どんな子だったかな」
「うーん……僕も亡くなってから知ったから。……普通の子だったと思うけど」
「いじめとかはなかったんだね?」
「どちらかというと、教師の弾圧の方が強かったんじゃないかな……こんな学校ですからね」
安原さんはコーヒーを飲みながら呻く。お恥ずかしい限りです、と生徒に言わせる学校って……。
坂内くんはゴーストハントに興味があったし、死んで人魂が見えるようになってあんな風に喜んでたのかな?でも、あれは純粋に嬉しい顔じゃなかった。今起こってる事件を喜んで皮肉げに笑ってた。
「学校の先生に……今年五十三歳になる人はいる?」
「───え、さあ……?先生の年齢なんて細かく知ろうとしたことなかったな……」
「そうだよね」
俺も最初カカシ先生の年齢とか詳しく知らなかったなあ。あ、イルカ先生にも年齢聞いた事ないや。二十代そこそことしか思ってなかった。
「どうして五十三歳なんです?」
「ヲリキリ様の紙に、五十三歳って文字が見えたから。それにすごい流行ってるでしょう?」
それから少しヲリキリ様の話をしていたけど、情報は少なすぎてどうしてあんなに流行っているのかとか、だれから広まったのかとかは分からなかった。
「───そういえば、きょうだね」
特に話が進まなかったので、安原さんが話題を変えた。なんのこったい。
「十二日目。また更衣室で火事がある」
「……きょうは更衣室じゃないかもしれないけどね」
俺は夢の事を思い出して苦笑する。
そういえばあのとき綾子がお祓いをして、人魂が放送室に移動してた。しかも食われて、邪悪な色を醸し出していた。
丁度帰って来たぼーさんたちと雑談を交わしていたので話は途切れたけど、急に引き戻されて俺の話題になった。安原さんがぽろっと俺が言いかけてた事を言ったので放送室かもーって答えたら寝ろって言われる。さっき目が覚めて元気になっちゃったから無理そうだなあ。
「あ、そういえば退魔法ってどうやるの?教えて」
「は?なんだって急に」
「心の師匠がお告げをだな……退魔法を、オボエルノデス……って」
「なんじゃそりゃ」
ぼーさんにお願いしたら、呆れた顔をしつつもしっかり教えてくれた。変な呪文……覚えられるかな。いや、仮にも忍ですし?このくらい覚えますけど??

折角覚えた退魔法はわりかしすぐに使う機会が訪れた。ホルマリンのガスを吸わされたけど、なんとか耐えて、退魔法をとなえたら教室のドアが開くようになった。んおおお退魔法すごい!
頭くらくらしながらベースに戻ったけど、どちゃっと座り込んでしまった。きもちわる……。
「どうした?」
「おしょわりぇた」
襲われたって言いたかったけど駄目だ、舌まわんない、俺かわいい……。
それでもお前忍か、時には毒だって吸うぜ!とほっぺをばちばち叩いて正気に戻る。頭は痛いけど、なんとか意識は整った。
渋谷さんに事情を説明すると、たしかにさっきまで俺が居た所は温度が低くて、映像も無いって言われた。
「保健室に行くか?」
「ほけんしつはやだ……」
どっへぇってなってる俺を一応心配してくれているらしい。
確かに泊まってる部屋よりは近いけど、保健室の人魂はでっかいって言ったじゃんか。いきたくないよう。
「ごふん、ここで寝させて」
ごとん、と机に頭を預けると渋谷さんのため息が降って来た。

夢の中の俺は神社に居て、お決まりの渋谷さんがやってきた。神社ってことは、なに?ヲリキリさまが関係してるのか?
もう大きい塊が四つもできてて、誰も手は出せないし出したら危険だって渋谷さんが言う。そんなおおきい塊の所に、安原さんとジョンが行こうとしているのが見えて、俺は急いで起きた。
「あ、……ぁ〜」
起き上がった所為で頭が痛む。リンさんと渋谷さんがぎょっとしてこっちを見てたけど、俺はなんとかバタバタ走ってジョンたちのいる印刷室に向かった。俺の様子がおかしいと思った渋谷さんがついて来てたけど、ごめん本気で走ったから俺おいてった。
印刷室の廊下の前には何かに構えている二人の姿があって、俺は足を速めて彼らの前に出る。霊は倒せないけど、物理的に攻撃して来るなら俺の方が対応できる。
無数に伸びて来た手をぱしぱし弾いて二人を庇い、ジョンが聖水をぴしゃっとかけたら怯んだので俺はその隙に教室のドアを閉めた。あっぶねー。手を出そうとした訳じゃないのに襲って来るって結構ヤバそうだなあ。
ベースに戻って皆でやばくね?って話していると、さっきの夢を思い出す。孵化した……って言葉が不穏な響きで、怖かった。
あの神社も変だし……。
「あ、そうだ、ヲリキリ様だ」
「あん?」
神社のことでヲリキリ様関係あるんだろうなって思ってたんだった。
そんな俺をぼーさんが怪訝そうに見た。
「さっき、神社に居る夢を見たんだよ。神社って言ったら、ヲリキリ様の紙を捨てに行く所じゃない?」
「そうですね。───そういえば、僕谷山さんが気にしてたから調べてみたんですけど、今年五十三歳になる先生、居ましたよ」
「なんだぁ?五十三歳って」
「へえ、誰?」
「松山です」
「うんわ、それっぽい先生が当たったなあ」
俺は松山が坂内くんのことを非常に馬鹿にしていた事を思い出して頭を掻く。渋谷さんやぼーさんが訳分からないからちゃんと話せって顔でこっちを見ているので肩をすくめる。
「一度、ヲリキリ様の紙を見たときに當歳伍拾参という数字が目に入って……なんで年齢なんて書くんだろうって思ってたんだよ」
古い言い回しだけど、疑問に思えばすぐに気づけるというか……職業柄疑う所為なのかな。
「こっくりさんに年齢があるとは思えなかったし、で、ヲリキリ様は坂内くんが考案した説もある。───本人もこの状況を楽しそうに見てて……こりゃなにかあるなと」
「それで、ヲリキリ様と松山先生にどういった関係が?」
渋谷さんが厳しい顔をしてる。
「関係なんか知らんけど、あるのはあるんだろ。松山先生と、ヲリキリ様と、坂内くんと、神社……っていう勘」
ホワイトボードに、當歳伍拾参と書いて、棒人間を書く。その反対側には覚えてる限りの変な文字を書いたら横で見ていたぼーさんが「お前さん、梵字が書けるのか?」と言った。梵字のことはよくわからないけど、これは梵字という種類のものだったらしい。
「梵字は知らないけど、ヲリキリ様の紙に書いてあったのを思い出して書いてる」
「オイオイ……じゃあ、まさしく松山秀晴って書いてあったわけか」
あのとき紙を同じように見ていたぼーさんが頭を抱える。
真ん中の部分が出来たから横に格子をかいて、下にあいうえおって書いてあとは略して線を引く。それから上の真ん中に変な模様を書き入れた。
そのとき、リンさんが血相を変えて立ち上がる。
極めつけに鬼という文字で囲んで行くのを、俺の横に来たリンさんは真剣な顔で見ていた。



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私は主人公格好良く書きたいマンなので、最初はアホという設定だった筈なのに、つい見せ場を作ってしまいます。サクラの能力付けた時点であれなんですが。
女の子をひょいっとね?姫抱っこしてほしかったんです。少女漫画に出て来る系男子というイメージですこの人は。
忍なので記憶力……というか注意力?も鍛えられてると思ってヲリキリ様の紙は凝視して覚えてたというチートです。
Mar 2016