Sakura-zensen


春の旋風 11

「戻って来たら一度連絡くれる?私物は多分置いてってないだろうけど確認もしたいし」
ぱんぱん、とナルの腕を叩いたはくるりと俺の方を振り向いて「よろしく、ぼーさん」と笑った。

安原が地図を見て案内をしてくれるので、は後ろに乗り込む。綾子と真砂子とジョンはバンガローに荷物を運んで場を整える為にを送ることは出来なかったが、皆物言いたげだった。しかし、に対して返答は期待できないと踏んだのか口を噤み、俺達を見送った。
俺たちは何を聞いたら良いのか、何を言ったらいいのか、分からないまま車を走らせる。ナルには疑問がいっぱいあったが、それをなんとか紐解きつつある。けれど、の場合はわからないことがわからなくて不思議だ。両親のいない孤児であることは知っているし、学校に通っていて氏名がはっきりしている。ナルに雇われてるわけだから、怪しい奴ってこともないだろう。過去、医療やら格闘技やらを教え込まれて、修行なんつー古風なことをしてきたっぽい時点で謎なんだが、人柄ってのがいまいち分からん。ふつー、ナルのこと気になるだろ。
「ねえねえ、なんで皆残ったの?渋谷さんの用事、別に皆が見てても楽しいもんじゃないと思うけど」
考え倦ねていた俺をよそに、は後ろから少し身を乗り出しながら尋ねた。
「谷山さんは、渋谷さんの用事を知ってるんですか?」
「うん?うん。でも勝手には言えないよ?プライベートなことだし」
「ってことは、はナルの素性を知ってるわけか?」
安原に続いて俺もに質問を返した。けれど、素性は知らないと宣う。
「は……知らねーの!?」
「前見ろ前見ろ」
思わず後ろを向いちまって、に怒られる。
「え……渋谷さんって世を忍ぶなんかアレなの……?」
「いや、えーと、何て言うんですかねえ……あはは」
安原はなんと説明したらいいのか、乾いた笑い声をもらしている。男連中でボソボソ推理をしていたが、そういえばは綾子と真砂子にせっせと世話を焼かれていたから会話に混ざったことがなかったのだ。
どうせ帰っちまうわけだし、むしろのが人をよく見てる所があるから話しても良いかと考えて、俺達の見解を話した。自身、心霊関係には疎いんで、オリヴァー・デイヴィスの名前を覚えているかもちょっと怪しいが、さすがに何度も話題に出てれば覚えているようで、うんうんと頷いていた。
「えー、渋谷さん外人さんなの?あ、でもたしかにそっかー」
がそう言いながら座席に身体を戻したのをミラー越しに確認する。

結局ナルが何をしたいのか、は教えてくれなかった。
仕事の部分はすごいきっちりしてて、箝口令がしかれた情報も絶対に喋らないイメージがあったが本当にその通りな奴だと思う。
「渋谷さんにも会えなくなりかねないけど、谷山さんにも会えなくなってしまうのかもしれませんね」
「……だな」
バンガローに戻る車の中で安原が言った言葉に、俺は肯定するしかなかった。
ナルのやつは雇い主ってことで連絡先を把握してたようだが、俺達は誰一人としての連絡先を知らない。学校は知ってるが、住所は聞いたこともないし、プライベートで会うこともなかった。
もともとは、俺達のような特殊なのとは違う気がしていて、ノリが良く人懐っこい奴だったのに遊びに行こうとか誘ったこともなかった。歳が離れてるってのもあったが、には他の友達が沢山いるような気がしてたからだ。
驚異的な力を持ってるって点では、こっち側に足を突っ込んでるかもと思うところだが、結局わからないまま、本人もさほど明かしてはくれないまま、去って行った。
もしかしたら今後、都内で見かけることもあるのかもしれないが、俺達はに声を掛けていいのかわからない。
が「あれ〜久しぶりじゃーん」とか言いながら寄って来てくれることを願うばかりだ。


があっさり帰った後、湖を捜索し始めたナル達の噂をキャンプ場に来ていた客たちから聞いた。
『遺体をさがしているらしい』という言葉を聞いてきた綾子は暗い顔をしながら俺達に報告し、が引き下がった意味がわかった。プライベートだと言っていたことから、仕事ではなく知人や身内の可能性が高い。
またもや綾子が、ナルは兄の遺体を探していると聞き出したらしく、俺達はナルと思しき人物、オリヴァー・デイヴィスの兄、ユージン・デイヴィスの死を推察した。
何度ナルに対話を申し込んでみても、取り合ってはくれず、確かめる術は無い。
諦めかけ、やることが無いなと思っていた矢先、俺達の噂を聞きつけた村長たちが、廃校になった小学校の調査を依頼してきた。がせっせと機材を運んでくれるわけじゃないのでいつもより手間がかかった気がする。
しかも、困ったことになった。
俺達は人数を徐々に減らされ、学校の中に閉じ込められた。頼みの綱の真砂子は早い段階ではぐれていたし、残った俺とナルもとうとう別れた。独鈷杵を投げて渡したんで居場所と生存くらいは分かるだろうが、俺の方から行方不明になった連中を見つけることはできない。
出来ることと言ったら経を読み、闇雲に辺りを祓うことだけだ。自分を律する為にも、霊からの接触を断つためにも、とりあえず腰を落ち着けて読経を続けた。
───ナルのやつ、PKをぶっ放してないと良いんだが。

外はすっかり暗く、大分時間が経ったころ急に人の足音や声が聞こえ始めた。はっとして窓を蹴破ってみると、あっさりと落ちて行った。
「お、おお?」
誰か除霊に成功したか、真砂子が説得に成功したか、と思って外に顔を出すと何人かが同じようにちらほらと顔を出した。綾子と安原と軽く会話をしていると、玄関のところからリンやナルが出て来る。それから真砂子とジョンが出て来て皆無事に校庭に集合した。
「そんで?だれがなにをやったんだ?」
「と、聞く所をみると、滝川さんじゃないんですね」
「……少年じゃねえのはたしかだな」
「それだとみなさんの立つ瀬がないでしょう。渋谷さん……ということもないですよね、無事に立って歩いてるし」
「あたくしも違います。リンさんでもブラウンさんでもないと思いますわ。除霊ではなくて浄霊でしたもの」
薄暗いなか皆で集まって、話し合う。
「さいです、ボクはなにもでけへんかったです」
「ってことは───」
「あ、アタシ!?ち、ちがうわよ!この近くにはおすがりできるような木はないもん」
最後の綾子でもない。
「あのーすいません、これは何の集まりなんだか聞いても?」
「!?」
全員の視線が綾子に移っていた時、急に聞き慣れない男の声が入って来た。
いつのまにか俺の隣にいたらしい。
マスクをした、俺と同年代くらいの少し姿勢の悪い男だ。暗闇とはいっても月のあかりがあるんで一緒にいたならすぐに分かっていた筈なのに、誰もがこの男の存在に気がつけなかった。
「あなたはどなたですか?いつからここに?」
「はあ、気がついたら校舎の中にいましてねえ、いやーアハハ出られないんでびっくりしましたよ」
ナルの問いに軽い調子で答えるが、片目にある大きな傷が第一印象からしてまず怪しい。
くすんだ色の髪の毛も無造作で、目元が見え難いから余計に。
「あ、私の名前ははたけカカシです」
男が名乗ったユニークな名前は到底本名とは思えず、俺達は顔を引きつらせた。
もうちょっと素性を知ってから説明するか否か考えようと思っていた所に、ガラガラと古い窓が開く音を聞いた。まさかまだ人が、と思って校舎を見上げると、三階からが顔を出していた。

「……?」
思わずの名を呼ぶと、隣にいた男は尋ねるようにの名を呟いて、同じように校舎を見上げた。
なぜかは三階からわたわたと動いて何かを言おうとしたうえ、窓枠に足をかけた。
「な、おい、、危な───」
「せんせー!!!」
「は?」
はものすごく上手に三階から着地して、声を上げて走ってきた。
そして俺とナルの間に居る謎の男に、勢い良く飛びついた。



next.
予告した方が良かったのかもしれないんですが、予告したらつまらないかなって思って予告しませんでした。カカシ先生登場です。注意書きに”ナルトのキャラや世界観の描写有り”って書いてたのはこれも含んでますよね??(詐欺)
ぼーさんは安原さんのことを安原とも呼ぶので、地の文では安原呼びです。原作読んでるときですら違和感(個人的な感想です)があったので、書いてる時も微妙な気分でした。
Apr 2016

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