春の旋風 12
渋谷さんから唐突に解散を言い渡されて困った。まあいきなり道端に置いてく程酷くはないだろうと駅まで車で送ってもらえるようにお願いしたらリンさんじゃなくてぼーさんが引き受けてくれた。まあ俺はどっちだっていいんだけどさ。俺は渋谷さんがお兄さんの遺体を捜索することを知っていたので、ぼーさんたちと残るとは言えなかった。俺が立ち入っていい部分じゃないと思ったし。
男連中はなんだか、渋谷さんの正体が気になってるようで、俺はその見解を聞きながら納得した。もう会えないかもしれないなら、確認したいっていう気持ちもわかる。俺だってそこまでドライじゃないし、お兄さんの事情を知らなかったら多分ぼーさんたちにも付き合っただろう。
まあ、もし渋谷さんがオリヴァーさんだったなら、あとで安原さんが教えてくれるかなと思いながら車から降りて駅に向かった。
東京について一夜明けた次の日は、いつも通りの生活をした。
夕方頃、俺はなぜだか暗闇の中にいて、山道のような所を歩いていることに気がついた。いつの間にか眠っていて、夢を見てるらしい。
古い学校の校舎の前にたどり着いた。そこには、リンさんとぼーさんの車がある。
辺りを見回して渋谷さんのお兄さんを探すと、案の定出て来て彼は校舎を指さした。
「みんなが閉じ込められてしまった」
透けた校舎内のどこかの教室に、渋谷さんとぼーさんとジョンと原さんと安原さんが集まってるのが見える。リンさんと綾子は見当たらなくて他の教室や廊下を歩いている。どうやら二人は逸れ、互いに互いを見つけられないようにされてるらしい。
「あ、れ?」
「知り合い?」
もう一つ人影が見えて、俺は思わず声を上げる。目が離せない。
髪色や格好が違うけどその人物はカカシ先生によく似ていた。マスクをして顔半分が見えないけど、左目のところに傷があるのは大きな特徴だし、目つきとか姿勢とかはそっくりだ。
お兄さんにとっては知らない一般人のようで、俺の知っている人だってことに意外そうにしていた。
「彼も閉じ込められたうちの一人なんだ」
「なんで、こんな所に……」
「さあ、誰かを探しにきたのかな」
俺の言っている本当の意味は理解していないだろうお兄さんは、仮定しながら首を傾げる。
「とにかく、そっち行くよ。場所はわかる?」
「詳しい所在地はわからない。でもキャンプ場のすぐそばだよ」
「りょうかい」
笑いかけると、ありがとうと言ってお兄さんは消えた。
目をさました俺は、ベッドに寝転がっていた。
三時間くらいかけてやってきたはいいけど、俺は幽霊に対して有効的な手段を持ってないことを思い出した。俺のちゃちな退魔法が効くならぼーさんがとっくにやっつけてるよな。
おじゃましまぁ〜すしてみたけど、人の気配は全く感じない。皆が閉じ込められたって言ってた通り、俺も閉じ込められて、思い切り壁を殴ってみても壊れなかった。うわあ、凄い。
一階から順番に教室から順に見回り、三階の端教室まで来ても、結局誰にも会わなかった。とりあえず俺にできることはないなって思ったので、渋谷さんのお兄さんに会うために座って眠る体勢をとった。案の定すぐに意識を引っ張ってくれたんで、対処法の相談ができる。
「せ、説得ぅ?」
「そう」
お兄さんは、ここには土砂崩れで亡くなった多くの小学生と、一人の教員の霊がいて人を集めているってことを教えてくれた。死んだこと、家族に会えないこと、寂しいこと、いろんな思いが渦巻いて鬱々しい気持ちでいるから、幸せな気持ちを吹き込んであげてほしいそうです。はい。
戦争孤児になった子供とかの面倒は見ていたけど、今度は逆に亡くなった子かあ。こういうのってどっちかっていうとナルトの方が上手そうな気がする。奴は里で一番ぽかぽかした男だ。
「俺にできるかなあ」
「きっと」
そういって、勇気づけるように手を握ったお兄さんはすっと消えて行った。
トランスってやつに入る方法を教えてもらったので、現実に戻って来てからもう一度むむむっと試してみると自分の身体が見えた。ひえぇ、ゆうたいりだつしてる。
同情でもあわれみでもいけなくて、純粋に優しい気分で相手に語りかけるっていうお兄さんの言葉を胸に、俺は子供達の話ではなくて自分の話を多くした。俺はもう昔の友達に会えなくなってしまったけど、ここにカカシ先生が居たかもしれないことを思い出す。
「俺もね、大好きな先生がいるんだよ」
「そうなの?」
俺の手を握っていた小さな女の子がふわっと笑った。
「いろんなことを教えてくれたし、守ってくれた。時々かっこわるくてっさ、笑っちゃうんだよ」
「桐島先生と一緒だね!」
「そうそう」
男の子が桐島先生をちらっと見てから笑う。
笑顔の戻った教室をみて、桐島先生はほっとしたような顔をした。
「ひょっとしたら僕は大変な幸せ者かもしれないですね」
瞬間、教室のドアが開いて、向こうには青空と草原が広がった。薄暗い教室に暖かい日差しが差し込む。あっちは完全に別世界っぽいから、俺も行けばナルトとかに会えるのかなって思ったけど、別世界どころじゃなく『あの世』なので足を踏み出そうとは思わなかった。それに、カカシ先生がここにいるかもしれないし。
桐島先生と生徒達は手を振ってあっちにいった。俺はそれを見送って、真っ暗な教室の中で目を覚ました。急に夏の夜の気温や古くさい教室の匂いを感じ始めて、現実に戻って来たのだと理解する。
「なんか、超疲れた……」
ぼそりと呟くと、身体が心なし重たくなった。移動とか幽体離脱とか説得とかしてたから、本当に疲れたんだろう。
ごろりと身体を傾け、床に耳を付けて人の気配や物音を探した。誰かが窓ガラスを叩いたり開けたりする音、ぼーさんと安原さんと綾子の声、がやがやと人が出て集まって行く気配。
「───無事終わったのかぁ」
いや、俺はこれからカカシ先生が本物なのか確かめなきゃいけないけど。
十中八九本物である可能性は高い。たとえば俺が誰かの手にかかっている状態で今騙されている可能性を考えたら偽物かなってなるけど、幻術にかかってるのかないのかくらい、判断できる。
カカシ先生が皆に名前を名乗ったのが聞こえた。
本当にカカシ先生が来てるんだと思うと、嬉しかった。起き上がって、窓を開けたら皆が一様にこっちを見上げる。ぼーさんが俺の名前を呼んだら、カカシ先生は俺とぼーさんを交互に見てから確かめるように「……?」と尋ねた。
カカシ先生も、ちゃんと俺を知っている。
窓枠に足をかけて飛び出すとぼーさんたちが慌ててたけど、俺は上手に着地して、駆け寄った。傷のある方の目までぱっちりと開いた先生は、やっぱり反射神経が良いのでぎょっとしている皆よりいち早く俺に対応するように身体を動かした。
そっと手を開くその身体に、俺は遠慮なく突っ込む。
「せんせー!!!」
「は?」
カカシ先生と俺の両脇のぼーさんと渋谷さんが声を漏らしたけどそれどころじゃない。
先生若返ってる!いや俺もだけど。
「先生なんでここいるの!?」
「って、本当にあの?」
「春野くんですよ」
確かめるようにすりすりした。
カカシ先生は戸惑いながらも俺を支えて、顔を覗き込んで来る。そして確認するように俺の前髪を持ち上げて百豪の印を見た。
髪と目の色違うから、分かり辛かったかな。
「あのー、それで、?こちらのお兄さんは知り合いか?」
「そう、俺の先生!」
ほぼ全員がぽかんとして置いてけぼり状態なのに気がついてようやく足をおろすと、覇気のない声でぼーさんが尋ねる。俺はにこにこしながらカカシ先生だよって紹介した。多分何人かはそれ本名なんだ!?って思ってるに違いない。
「何の先生だよ……っつーかは帰ったんじゃなかったのか?なんでここに」
「渋谷さんから連絡貰ったから戻って来た」
「ナルが?」
ぼーさんとか綾子が渋谷さんの方を見るけど、話を合わせてるんだか、察してるんだか、とにかく渋谷さんは無言だ。俺はこっちの渋谷さんじゃなくてあっちの渋谷さんに連絡をテレパシー的な感じで貰ったんだけど、嘘はついてない。
「はー、まあいいか、はどうすんだ?俺達のバンガローに泊まるか?今日の所は」
「どうしよ」
「いえ、は私の部屋に泊めますんで」
迷っていたら、カカシ先生が俺を引寄せながら皆に言った。よかったー、カカシ先生と話したかったんだ。
「うん、じゃあそうする。みんなおつかれさまでした〜」
ばいばいと手を振って、カカシ先生とさくさくフェードアウトをはかった。
next.
カカシ先生が保護者面っていうかもう彼氏面()
主人公の説得は省略です。皆さん脳内で納得のいく説得を捏造してください。
Apr 2016