Sakura-zensen


春の旋風 13

カカシ先生は半年くらい前から現代で過ごしていたらしい。最初はなんらかの術中に嵌ったかと思ったそうだけど一向に戻れる気配もなく、とりあえず警戒しつつも観察、普通に過ごすことに決めたらしい。髪色が違うことと若返っていること以外はほぼ元の通りの身体と実力らしく、忍術も使えるし、パックン達は健在らしい。超会いたいけど疲れるからって出してくれなかった。残念。
とにかく色々苦労したんだろうってことはわかった。俺と違って現代の人じゃないわけだし。
学校に来てみたのは、人が消えるっていう噂を町の人から聞いたから元の世界に戻れるかと思って来てみたらしいけど、コレいわば幽霊屋敷だから全然違うし、もっとよく話を聞いてから来るべきだと思う……と俺の方が珍しく説教した。
世界がかわるとこうも世間知らずになっちゃうのか、危ないなあ。
「で、はどうしてたわけ」
「俺は一年ちょっとかな。それに学校に通うだけだから流されてりゃ平気だったよ。あれ、そういえば先生仕事は?生きていけてる?」
「舐めないでちょーだいよ。ま、まともな職は難しいんで、夜のお店で裏方とかね」
忍の適応力すげえ、とこっそり感心しつつ出してもらったお茶をずずっと啜る。
は今どこに住んでるんだ?」
「東京」
「───って、たしか、中心部だっけ?」
すごいすごいよく覚えたな、と思いながら頷く。
「ここからだと、うーん、頻繁には行けないな。引っ越そうかな」
「え?引っ越しまですんの?」
「もし帰ることになったら近くにいた方が都合いいでしょ」
「たしかに。でも仕事あるんじゃないの」
「そんなのまた探せば良いから」
カカシ先生がいる時点であっちに戻る可能性も出て来たわけで、近くにいてくれるのはそりゃ心強いし、じゃあ一緒にいるべきだなってのは分かる。でも仕事してるカカシ先生の生活を崩すのは忍びないし、だからといって俺も転校って手はとりづらい。
東京の方が賃金高くていろいろ職はありそうだけど、家賃も物価も高いんだよなあ。
「あ、そうだ、じゃあ一緒に住む?」
「え?」
俺の提案に、今度はカカシ先生が驚く番だった。
今の部屋でいいんなら狭いけど、学校が用意してくれたアパートなので家賃要らなくて、まあバレたら怒られるだろうけど隠れるのなんてお茶の子さいさいだろう。でも、先生は微妙な顔をした。あープライベートほしかったかな、やっぱ。卒業まで一年半だしそれより早く戻るかもしれないとはいえ、ワンルームで同居はきついか。
「それとも、二人で住める部屋探す?」
俺も引っ越して二人でシェアすれば普通に住むよりは安くなると思う。
渋谷さんの所は解雇になるけどバイトはまた探せば良いし、奨学金とかで一応は自活できる。
「いやいや、良いよ、うん、が良いならそれで」
心なし疲れた感じでカカシ先生は頷いた。
「言い出しっぺなんだから良いんだってば俺は。カカシ先生無理しないでいいよ?やっぱ一人の時間欲しいよね?」
「そういう訳じゃないよ。くんと一緒に住みたいな〜先生は」
ほんとかよ。


次の日、昼前に携帯がめちゃくちゃ鳴ってるってカカシ先生に起こされるまでぐうぐう寝ていた。
アラームなんてかけてないので、電話だと気づいて慌ててとる。
電話の相手は渋谷さんで、ぼーさんたちが鬱陶しいから説明しておけって話だった。
「出掛けるの?」
「渋谷さんたちんとこ。顔出さないとね、一応」
カカシ先生は既に荷物の片付けに入っていて、元々ほとんどものの無かった部屋なので、結構がらんとしている。
待ち合わせはともかく仕事は早い性分みたいでカカシ先生は今もせっせと動き回っていた。
「俺も行った方が良い?」
「別に良いんじゃない?てきとーに誤摩化して来る」
「お前のてきとーは本当にてきとーだから心配なんだけど」
「そんなことないない」

俺はキャンプ場の敷地内をうろうろしていた。
ぼーさんたちがどの部屋だかは渋谷さん教えてくれなかった。というか、知らないって言われたのだ。
渋谷さんのバンガローもそういえば聞いてねーや。ぼーさんの連絡先くらい、聞いとけばよかったな。うーん、でもオフィスは閉鎖だから今聞いても意味ないか。
ブッチされるの承知で渋谷さんに電話をかけようかと思ったところで、目に付いたバンガローからジョンが出て来るのが見えて携帯をポケットにしまった。
「ジョーン!」
「?あ、さん」
走って行くと、ドアを開けたままのジョンの後ろからぼーさんと安原さんも顔を出した。
「おう、お前さん今まで寝てたのか?」
「あたり」
えへっと笑って、ぼーさんに答える。
「お茶いれますよ、谷山さん。どうぞ」
「おじゃましますよー。ジョンは何か用があったのかな?ごめんね引き止めて」
「あ、いえ」
「ジョン、綾子と真砂子も呼んできてくれるか」
「はいです」
快く返事をしたジョンは俺に会釈してから出て行く、おまけに今度は安原さんが渋谷さんとリンさんを見つけたもんだから引き止めにいっちゃって、よくわかんないうちに部屋に全員が集合した。
渋谷さんは昨日は何がどうなってたのかは聞きたかっただけのようで、部屋のすみで不機嫌そうに立ってる。
「んで、昨日の先生って誰なんだ?なんだってあんな所にいたんだ」
「カカシ先生は俺が小さい頃に勉強を見ててくれた人で、今はこの辺に住んでるんだけど、知らない内に迷い込んじゃったらしいよ」
「噂は聞いていなかったのか?」
「住んでるっていっても、ここ数ヶ月っていってたから、噂もなにもなあ。っていうか俺もそんなに今回のことは事情知らないんだよね」
「ナルから聞いてないのか?」
「……山津波で亡くなった子供達と先生が人を連れ込んでるってのは聞いたよ」
ちらっと渋谷さんの方を見てから、お兄さんに聞いた簡単な経緯を話す。
カカシ先生はたまたまあの場所にいて、幽霊に拐かされたってことにしよう。噂を聞いてわざわざやってきたってのはさすがに言いにくい。
「あの時、携帯使えたんですか?」
「たまたま電波が入ったんだ」
ほぼ全員、機械は使えなくなっていたらしいので、渋谷さんがさらっとカバーしてくれる。安原さん目聡い。
幸いにもはぐれちゃっていたので、なんとかごまかしもきくだろう。あ、でも一人になってから俺に連絡したんでは到着が遅れるか?もし聞かれたらメールってことにしちゃおう。少しくらいいじくってただろう。そうじゃなかったらまあその時考える。
「それで、はこれからどーすんの?とんぼ返りするわけ?」
綾子にきかれて少し考える。
暫く先生の所に泊まって、皆が帰る時に車でって手もあるけど、むしろ先生も一緒に東京に帰れそうならそうするし。
「んーと、先生んとこいるから、気にしないで良いよ」
「そう」
一番身近な保護者っぽいのがいるもんだから、皆はそれ以上心配できないようだ。
さて帰るかーと思いながら立ち上がると、渋谷さんも壁に寄りかかっていた背中を浮かせた。あれ、さっき安原さんが渋谷さんにも用あるって言ってなかったっけ。あんたも帰るんかい。
ところがどっこい、ぼーさんがまあ待てと俺の腕を掴み、安原さんがお上手な口で渋谷さんを引き止めた。え?俺もなの?

ぼーさんに前聞かされた推測を更にスマートにした推理が展開され、渋谷さんがオリヴァーさんなのではという問いがとうとう本人になげかけられた。
とくに名前に関してはひっかかりが多かった。リンさんが渋谷さんのことをナルって呼んでるのは、改めて聞くと変な話だ。ぼーさん曰く「ナルって言い出した本人のですら普段は使ってないんだぜ?」だそうで、なんで俺を引き合いにしたのかな?うん?
結局渋谷さんは答えてくれずに出て行っちゃって、リンさんが苦笑しながら肯定してくれた。
「へえ、じゃあお兄さんはユージンなんだ」
俺はようやく、お兄さんの名前を知ったのでしみじみ呟く。ぼーさんは一瞬呆れた顔をしたけど、何か考えるようにしながらうんうん頷いた。
「いや、そうか、お前さんはナルが兄貴を捜していたのは知ってたんだっけか?そりゃまた、なんで」
「お兄さんに会ったことがあるから」
正体がばれたんだし、霊媒ということで有名ならいいのかなっと思いつつ、リンさんをちらっと見ると小さく頷いたので包み隠さず話すことにした。



next.
いっしょにすもっか?って言ってほしかったんです。
別にBとLな関係ではないです。現状。
渋谷さんから事情を聞いたとはぐらかしたけど、わずか数分のうちに嘘だったことが判明していますね。
Apr 2016

PAGE TOP