Sakura-zensen


春をつれて 03

午後から除霊をしてまわるという霊能者たちに司ちゃんもついて行くことになった。
俺は学校の様子が少し見たいので、ひっそり司ちゃんに断って離れる。
これは通りすがりの人間に手をだすものじゃないので大丈夫だと思うんだ。

話に聞いていて探しやすいのは陸上部の部室かな。あとは特定の席でクラスはええとええと……。思い出せないので学校全体をみちゃおう。
そうすると、簡単に席がわかったので教室へ行く。どうやら今の時間は教室には誰もいないらしい。
机を覗き込むとあらまあ、あっさり呪具見つけちゃった。
どうしよ、とっちゃう?と思ってたところで人の足音がした。
これは生徒じゃなくて、俺の知ってる気配だ。
俺が勝手にとってしまったら、この机を調べた時に何の手がかりもでてこなくなっちゃうのでダメだよなって思ってたけど、この机から出てくるところを見せれば良い訳だよな?
そう思いたったので人に化ける。今は件の席に座った状態にみえるはずだ。
「あれ」
「あん?」
開けっ放しの教室のドアのところから、二人の男性がこっちを見て声を上げた。わかってたけどちょっとドキドキして、ゆっくりそっちを見る。
大成功、俺の姿が見えてるようだ。
二人の男性───ブラウンさんと、滝川さん───は教室に足を踏み入れる。
「おうい、授業行かなくて良いのかい」
この席について何も言うことはなく、ただ一人でぽつんと座ってる俺に声をかけるていのようだ。具合が悪いんですか、とブラウンさんが心配そうに俺を見た。
「この席呪われてるんでしょう?」
「……は」
「座ったらどうなるのかと思って」
ゆっくり微笑みを浮かべながら答えると、きょとんとしてた滝川さんはみるみるうちに呆れた顔になる。
「おまえさんなあ、遊びでそういうことをするんじゃ」
「あ」
「へ?」
空っぽの机の中に両手を突っ込んでぽんぽこ叩くそぶりをした。それからぱかっと口をあけて驚いてみる。
「なんかある」
「なんかって?」
「机の裏にくっついてる……お札でもあるのかなあ。ん、とれた」
「まて、ちょっ」
俺をどかそうとした滝川さんに肩をぐっと掴まれて机から引き離される。残念ながら呪具のヒトガタはもうぺりぺりしちゃったのであーる。
ブラウンさんが終始アワアワしてたので、ちょっと申し訳ない気分だが、俺は呪いなんて知りません、ちょっとふざけてますという顔でにこにこした。
「───おい、これ。ジョン見ろ」
「ヒトガタ……?」
焦っていた二人は真剣な顔をして俺が剥がしたヒトガタを見つめた。その隙に俺はする〜っと二人を通り抜けて姿を消す。ミッションコンプリートだ。
おーっほっほっほ!これで司ちゃんのお手伝いになったよね!と廊下をるんるん歩いていると、いつのまにかその先に男の子がぽつんと立っていた。

まっくろくろすけの格好をした少年は、人間じゃない方の渋谷さんだった。
滝川さんたちに深く追求されたらめんどうだと思ったので、もう姿は消している。そりゃあ、霊だったのなら、俺の姿も見え……いや、普通の浮遊霊だったとしても俺のことわかる奴は滅多にいないはずだ。
「あなたは誰?」
俺のセリフを取られた。
「ずっとここにいるんですか?」
なんて答えようかなと思ったら、さらに問いかけられた。どうやらセリフからして、俺が生きた人間ではないことがわかっているらしい。
首を振りながら変化を解くと、彼ははっとした。
余談だけど、俺は姿を変えてから可視不可視を調節してるので、まだ女子高生の振りをしたままだったわけだ。
「森下家にいた式神の。ああ、たしか彼女、飯嶋さん」
肯定の意味を込めてうなずき、笑いかけた。
「司ちゃんは主人の姪なんだ」
「今回は彼女の護衛ですか?」
「そんなところ。ここで起こってるのは呪詛だから、犯人を見つけないといけないね」
渋谷さんは息をのむ。
悪意のある鬼火がいたるところに見える、とまでは感知できるようだけど、それがどう言う因果のものなのかは彼にはわからなかったらしい。
「あれ、多分霊を使役するものだと思う、見つけたヒトガタにはそういう気配があった」
「それは、厭魅ですね」
生きた渋谷さん同様詳しいらしいので、どういったものなのかを教えてもらった。
俺はいつも見る専門だし、なんとなく覚えてるだけなので勉強になります。開さんは低級な妖魔を捕まえて式にすることもあるけど、大抵はお使いに使う程度の契約なので、人に害を与える命令はしないしな。
「じゃあ除霊をするよりも、ヒトガタの捜索と犯人の特定だね」
「うん……」
「ヒトガタはまあ、見つけられないこともないんだけど、犯人が何人いるんだか……」
人でないもの同士で校舎内を歩き、ベースへ向かう。司ちゃんは今そっちにいるみたいなんだ。
「あれは普通の人に簡単にできるものでは」
「でも、数が多くないか?一人でやっているのだとしたら、そうとう精神が摩耗していると思うけどな───あ」
「え?」
ベースに近づいてくるとわかる。厭魅……というか悪霊の気配だ。
それは中にいる、司ちゃんに向かっている。
「やってくれたな」
「!……まさか」
周囲の温度が下がったのがわかる。
走り出した俺に、彼も付いてきた。


「ッ、イヤーーー!!!!」


司ちゃんが持っていたバインダーでフルスイングしたのが目に入った。
「お、ナイスショット!」
「えっ!?」
今日は鳥たちも呼んで宴会にしよう、と内心思いながら賞賛した。
隣の渋谷さんは俺をぎょっとして振り向いてるけど知らん、説明する暇はない。
司ちゃんの悪霊退散は飯嶋家の中で三本の指に入るくらいには強いんだぞう。
「呪詛が打ち破られた、主人の元へ返るぞ」
「……!」
俺は渋谷さんの手を引いて、飛び出していった悪霊を追った。
途中で走ってきた滝川さんたちとすれ違う。

校舎を風のようにかけぬけて、女だと思われる長い黒髪が人をすり抜けて消える。
すり抜けられた人は悪霊も俺たちの姿も見えていなかっただろうけれど、ふっと顔色が変わり、その場に倒れた。運が悪く階段の上だったものだから意識を失ったその人はごろごろと転がっていく。
さすがにかわいそうと思い体を止めて横たえたけど、顔色は真っ青になっていた。

周囲には人がいたので、階段から急に落ちてしまった人───女性のおそらく教員───はすぐに救急車で運ばれていった。
その人は笠井さんがよく口にしていた、産砂先生だった。


next



ファー!(危険です)
ぼーさんとジョンは、ヒトガタを見つけてくれた女子生徒は普通の子だと思っています。
ジーン的には、なんか神々しいというか、高位の方なのかなって思って敬語使ってる。
May 2018

PAGE TOP