sakura-zensen

サクラ前線

01話

桜色の髪に翡翠の瞳、白い肌、ほっぺと唇はぷるっとしてて赤々してる。
鏡を見ながら、なんだこの美少女はと思ったのも記憶に新しい。いや、美少女なのは要素だけで顔を見てみれば自分である。───生まれ変わる前の、現代日本に生きていたころの俺だ。
驚くべきは、生前の記憶があることでも、こんなトンチキなカラーリングになってることでもなく、今生きているのが火の国木の葉隠れの里であること。───つまりここは、少年漫画NARUTOの世界だ。
ちなみに、俺の名前は春野、れっきとした男の子である。
そして春野と言えばヒロインであるサクラちゃんの苗字だ。
この髪も目も親から遺伝した色素であるので、もしやサクラちゃんがいるのでは?とソワソワしたのも記憶に新しい。
だがどうやら、サクラは居ない───ていうか、俺がサクラだった。

俺が俺であることを思い出す前のちいちゃい頃、とても体の弱い子供だった。
その為、性別を偽り名を隠すという風習で育てられ、春野サクラという名の女の子は存在した。
……日本とか地球とかそう言う概念でもないとはいえ、文化的には似通った世界観なので、そういうこともあろうな……と思ったが、俺が春野サクラであるならこの先どうするんだ、と頭を抱えた。
しかし時すでに遅し。春野サクラはアカデミーに入学していた。

本来の名前も性別も教員は知っているが、特例として認められているらしい。本当に特例の生徒がいるのに、俺の特例って何だってんだ。
親や先生は何を考えてるのか、と思ったけども、サクラがいることで世界の均衡が保たれる……という完全に保身に走った結果、俺はそのままサクラとして通うことにした。




大人しく過ごすことにして早数年。俺は当然クラスでも特別目立たない女の子という立ち位置にいた。
だけどせっかく少年漫画の世界にいるなら、自分が現代にいたころとどれだけかけ離れたことができるのだろうとコソ練をした。忍術とか体術とか勉強とか、現代にいた時とは違う事を学ぶのは楽しかった。あとやっぱり若いってイイ。
前の記憶にある俺の認識もまだギリ二十代というところだったけど、十代前半の身体は活力にみなぎっていた。
そして何より、これから待ち受けてるとんでもない未来を、自力で生き延びなければならないと言う現実。春野サクラが俺なら、サスケとナルトと組む可能性は高い。そうじゃなくたって、現代人やってた俺が忍者になるにはそれなりの努力と覚悟が必要で、早いうちに自分が異端であることを思い出せたのは本当によかった。

「サクラ、組手の練習はこっちに混ざれ」

ある日、俺の事情をもちろん知ってるイルカ先生が、組手の授業でそう言い出した。こっち、と言っている場所は男子の居る方。つまり、男子と組手をするってことだ。
この年代だと体格的には女子の方がまだ大きかったりするけど、それを抜きにしても体術は俺の方が"巧い"。だから女子とイルカ先生だけは男子の中でやれると分かっていた。
「え〜女子とやんの?」
女子の方は俺と組手やらなくて済んでほっとしてるけど、男子はブーブー言ってるが、俺はもう手加減しなくて良いんだと思うと嬉しくてたまらない。
男子にしてみたら冴えない女子なので、たとえ女子の組手一位だろうとそんなに興味がないらしい。だけど、そうやって油断してる奴を伸すのが気持ちいいんじゃないか!

「───う、うわぁ!」
「あは、油断大敵」

開始直後にくるんっと回されてあっけなく転がされた男子は、状況を理解できずに俺を見上げていた。なんだ、まだまだ手加減が要るレベルだな、この辺は。
「サクラの言う通りだ。女子だからって油断していたからこうなったんだぞ。気を引き締めろ!」
相手の手をひっぱって立たせていると、俺の横にイルカ先生が並んで軽くお説教してくれた。次からはもっとやりがいのある相手で頼んます。

和解の印を結んだ後、順番待ちをする人の中に戻って座った。
すると、ナルトが俺の隣に来ていて、ニコニコ笑いながら話しかけてくる。
「ね、ね、サクラちゃん、さっきのすごかったってばよ!」
「ありがと」
汗かいて前髪が貼り付いたので前髪をちょっとかきわけつつはにかむと、ナルトもふへへっと嬉しそうに笑う。ナルトは女子の大半に嫌われてる……っていうか邪険にされてて、ヒナタみたいに大人しい子は優しくしてくれるけど、普通に接するのは俺くらいなのでよく懐いてると思う。
というか、ナルトってサクラ好きなんだっけ。俺、漫画はサスケが里抜けするまでしか読んでなくて、大人になってからナルトがヒナタ、サクラはサスケと結婚したと聞いたんだったけど。そもそもサスケはいつ里戻ったんだ……そしてサクラとくっつくんか……って思った。しかしこの世界じゃどうあがいても無理なので、考えるのはやめた。
「あとさ、なんかさ、カッコよかった……へへ!」
「じゃあさ、ナルト、あとでやる?」
「えぇ!?サクラちゃんと!?怪我させらんねーってば」
「ドベのお前がサクラに怪我おわせられるわけねーだろ」
俺の反対隣にいた、さっき俺に転がされた子がナルトに言った。……正直同感である。
そんな風に俺たちがああだこうだ言っていても、結局はイルカ先生が組手の相手を決めて指示をするので、無駄なんだがな。
「───次、サスケとナルト!」
この通り。

サスケはかったるそうに立って、ナルトは意気込んで向かってった。
しかしナルトは速攻ぶっとばされた。お、おお……。
余りの瞬殺っぷりに、顔が左右に振られる。
「サクラ、相手しろ」
「え」
ナルトをあちゃ〜って眺めてた俺に影がかかる。いつのまにか目の前にサスケが来ていて、俺を見下ろしていた。
「いいだろう、次、サクラとサスケ」
普段ならきゃ~サスケくぅん!てなる女子ですらイルカ先生の許可には驚いてる。
何故ならサスケは男子の中で断トツ一位を誇る男だ。今まで女の子の中でしかやったことない俺がどの程度通用するかはわからない。
「急な話だなあ……」
まあ、イルカ先生が指示するんじゃ仕方ない。ぼやきながら立ち上がると、サスケがふんっと息を吐いた。すっ、すかしてる~!
「ねえイノちゃん、ちょっとの間ゴムかしてくれない?」
「え?ああ、いいけど」
サスケに目がハートになってたイノちゃんに声をかけると、ポニーテールを解いてゴムをかしてくれた。
俺はそのゴムを借りて長い桜色の髪の毛を結び、ついでに他の女子が貸してくれたピンで長めの前髪をとめた。
俺が本気出す準備をし始めた所為か、どよっとされるけど、まあサスケ相手はガチで挑まないと損だと思うのだ。

対立の印を結んだ後はもうすごかった。
サスケの素早く繰り出される拳や蹴りを必死で避ける。予測できる攻撃なんて少ししかなくて、ほぼ反射だ。
時々かするとぴりっと痛み、気が引き締まると同時に高揚する。
疲れるし緊張するし怖いし、───楽しい。
張り付いていた唇を、ペロリと舐めてこじ開けた。は、っと大きく息を吐き出すと、呼吸が楽になって少し俺にも余裕ができ始めた。

渾身の蹴りは片手のみで防がれたけど、隙をついた突きはちゃんとサスケに当たった。
が、最終的にサスケの蹴りでぶっとばされて、ナルト程ではないけどべちゃっと転んだあたりでイルカ先生の終了の声が入る。
「いてて、しっぱいしたぁ」
「サクラちゃん!」
「サクラ!大丈夫!?」
咄嗟に後ろに飛んだけど、倒れて肘を地面に擦られてしまった。
駆け寄ってくるのはナルトとイノちゃん。いくらサスケフリークでも、吹っ飛ばされたクラスメイトを心配してくれたらしい。これがナルトとの人徳差かな、フフン。まあ、一番俺の事を心配してくれたのはナルトなんだけど。

もっと受け身の練習もしないと駄目だな、と痛みをこらえて立ち上がって、サスケと和解の印を結んだ。




男子と組手をしてからか、少し目立つようになった気がする。
女子の中では目立たないというよりは、単純にそこまで仲が良い子がいなかっただけなのだが、最近はなんというかこう……男子が俺を認識するようになったとでも言おうか。
「───盲点だったわ、サクラ!」
「へ?」
一人でお昼を食べてたら、イノちゃんが突然俺の前に来て頭を押さえてそんなことを言う。なんだなんだ、と驚いてる俺のことなど気にせず、話を続けた。
「あんたが強いことくらい知ってたけど、まさかサスケくんとやりあえるとは思ってなかった」
「そ……そお?」
じっとり睨まれて、俺は引き気味に返事をする。
イノちゃんはいわゆる女子のリーダー格だから、その注目と言い様に何かが起こるのかと内心ひやひやした。卒業までもう少しなので、出来れば静かに過ごしたかったが。
「今までは大人しくて自己主張しないタイプだと思ってたけど、……そこそこ可愛いし、とんだダークホースよ」
そこそこ可愛いのか、俺。頬にソッと手を当ててみる。多分この髪や目の色が成せる技のような気がするが……。
イノちゃんは俺をギンッと睨んで「まさかサスケくんが好きとか言わないわよね!?」って言うので速攻「ないない」って答えた。
「イルカ先生の方が好き」
担任の先生を好きになる女の子は一定数いるはずなのでそう言うと、教室の一画でドターンと大きな音が鳴ったが多分ナルトが俺にハートブレイクしたのだろうと放っておく。


この作品を初めて書いたのが2015年11月だったと知って戦慄……。
当初は同主人公で派生するものの一部程度……戦闘力がある主人公が書きたいと思って始めました。
NARUTO知識は昔ジャンプ読んでた系。
Jan 2025 加筆修正