sakura-zensen
サクラ前線
02話
ある日、俺はリーさんという一つ上の先輩に出会った。
正直に言って、サスケより身体裁きが洗練されている。この人こそ体術の先輩だ───と、感動した。
彼はまだ下忍になったばかりだというけど、担当上忍の先生が体術を熱心に教えてくれてるそうで、ガイ先生というのだとか。
……い、いいなあ!熱血って、嫌いじゃない。俺、ブルース・リーとか好きだったし。
組手の授業でサスケとやりあう為には、サスケとばかりやってたら駄目な気がして、俺はリーさんに教えを乞うことにした。
「リーさん、体術教えてくれませんか」
「ボ、ボクがですか!?」
「はい!もしくは、相手をしてほしくて」
両手をぎゅっと握って下睫毛をじいっと見つめてたら、ガタガタ震え出した。あれ、リーさんって女の子苦手だっけ?
念のため手を離してみたららその震えは落ち着いてくれた。
リーさんは結局人に教えられるレベルではない、と謙遜していたが相手ならいつでもできると快く受け入れてくれたので、俺は犬のように懐いて彼に相手をしてもらうようになった。
身体の鍛え方、動かし方、そしてアツい心構えなど様々な事を教わる。
最近ではサスケの攻撃を避けるのに余裕が出て来たし、攻撃のスピードも上がったと思う。パワーの方はどうも、筋力が足りずに威力はいまいちだけど……そう思い悩んでいたところ、リーさんは自分にはやはり『教える』力はないと泣かれてしまった。いや泣かんといて……?
だがそのことで俺は思い出す。リーさんがずば抜けて体術に特化しているのは、他の物を全て排除して途方もない努力をした結果───俺には、とてもそこまでできっこない。だから、俺の出来ることをすればいいのだ。
思えばかなり序盤で、ナルトたちはチャクラのコントロールについてを学ぶ。アカデミーでもやっていたが、単純に忍術の行使に使用する程度にしか使わない。
いくつかの○○の術を使う練習、といった感じで実践はするが、本来の実践とは程遠く根本的に理解はできていないことを思い出した。
「君がリーの言っていたサクラか!」
「ほわ!」
リーさんとの約束に時間があるから、木陰で精神鍛錬っぽく瞑想してたら急に声をかけられて木の幹に頭をぶつけた。さすが忍……気配がないぜ。
「む、すまん」
頭を抑える俺を見下ろしたのはリーさんと似た太マユのガイ先生だ。
「大丈夫ですか!?サクラさん!」
「あ、だ、大丈夫です。リーさんこんにちは、ガイ先生も」
「おお、オレのことを知っていたか!」
「お噂はかねがね~」
俺は立ち上がって二人に挨拶する。
どうやらリーさんはガイ先生に俺の事を話してくれたらしく、今日は一緒に修行をさせてもらうことになった。やったー。
「なかなか見所がある!しかしやはり、威力に欠けるな……」
「そう思って、チャクラを使った体術も考えてるんですけど」
「なるほど、それは良い手だな」
あっさり蹴りも拳も弾かれた俺はガイ先生と、今後についての相談中だ。ちなみにリーさんはランニングに行った。
チャクラコントロールってぶっちゃけどうやったら良いのかわからないし、サクラちゃんはたしか木登りをしていたのだったなと思い出してやってみたが、あれはサクラちゃんだから出来たのであって、俺はナルトたちみたいにどっしんどっしん木から落っこちた。
「なんかコツってありますかね」
「考えるんじゃない……感じるんだ!」
「も、燃えよドラゴン……!」
「ん?ドラゴン?」
「えっと、ガンバリマス!」
まさかガイ先生から素面でそれが聞けるとは思わなかった。リーさんじゃないんだ。いや、まあ良いけど。
感じろって言われたけどぶっちゃけ考えないと駄目だよねって思って、結局自己流で練習した。
俺には特別な力がないので、画期的な変化は起きない。だけど、そもそも普通の人間だった俺からすればチャクラを使うこと自体が画期的な変化ともいえる。
考えて、試して、続けて───そうして、少しずつ体術が上達していった。
するといつしか俺は、サスケが気にかけるレベルにはなっているらしく、放課後になって声をかけられた。
……流れで一緒に帰ることになったけど、イノちゃんたちに見られてませんよーに。
「お前、普段どんな練習してるんだよ」
「え?えーとね」
別に秘密特訓でもないから自主練のメニューと、先輩と上忍に知り合いがいて相手してもらってることを教えたら納得された。
でも、木登りの練習はカカシ先生にいつか教わるだろうから言わないでおこう。サスケが出来るようになったらナルトがおいてけぼりになっちゃうし。あとは、この時くらい、俺に旨味があったっていいよな。
「先輩も先生もすっごい強いんだ。勉強になるよ」
「……オレより強ぇのか」
「そうだね、強いと思う」
リーさんの方が攻撃素早いし、力も強かった。忍術を使えるサスケの方が総合的には強いかもしれないけど、体術の極めっぷりからしたら多分リーさんのが上だと思う。
そう思って答えると、不機嫌そうにしたサスケは「どんなやつだよ」って聞いて来る。サスケは常日頃から憚りなく復讐を誓ってるので、強くなりたいという意思は強いようだ。
しかし、どんなやつと言われてもな。
「シタ、シタマツゲ……マユゲ……サ、サワヤカ???」
「は?」
「……下忍だから、卒業したら会う事になると思うよ!リーさんもガイ先生も」
「リーと、ガイ」
「うん。あ、じゃあこっちだから。ばいばーい」
分かれ道にきたのでサスケに手を振って別れた。
卒業試験を受ける頃には、木に登れるようになった。でもまだ攻撃を受ける所にチャクラを密集させられるほどの反射はできてない。まあ、それなりに上手に使えるようになったと思う。忍術の精度だって上がった気がする。
多重影分身の術は出来ないけど単純な分身の術なら数名なら出来るし、変化したまま忍術も使える程度にはなった。あとはサクラちゃんは怪力という噂があったけど、落ち着いてチャクラコントロールしればある程度の壁ならヒビを入れられる。
これでやっと、スタートラインに立っただろうか───先は長い。ゴールとか知らんけど。
そんな遠い目をしながら、俺は説明会に来て下忍の組分けを言い渡されるのを待っていた。
まだ先生が来ないのでぼけーっとしていると、サスケが無言で俺の隣にどかっと座った。俺の反対隣に既に座ってたナルトがゲッて顔をしたけど、俺はお前らの喧嘩は仲裁しないからな。
頬杖をついたまま、ナルトがサスケの顔をガン見しに行くのを眺めていると、何がどうなったのかわからんけど突然のKISS───。なんでだよ。俺は大笑いをした。
「わ、笑い事じゃねーってばよ!オレ!オレってば……初めてのキスはサクラちゃんとって……!」
「てめ、ナルト!殺すぞ!!」
さりげなく愛の告白という名の妄言が入ったけど無視して、震える腹筋を抑える。いつまでも笑っている俺をサスケがじっとり睨んできたので、いい加減怒られるかなって思って咳払いして顔を背けた。
「チィ……ッ」
クソデカイ舌打ちいただきました。
少しするとイルカ先生がやってきて班を発表して、俺はやっぱりサスケとナルトの班になった。
「!うわー」
「イルカ先生!!よりによって優秀なこのオレが!なんでコイツと同じ班なんだってばよ!!」
同時に立ち上がったナルトによって、俺のうわーの声は目立たなくなった。
「フン……せいぜいオレの足ひっぱってくれるなよ、ドベ!」
ナルトとサスケがまたしても喧嘩し始めて、解散って言われたので俺はすかさずイルカ先生を追いかけようとするけど、腕をぐっと掴まれて阻まれた。
「え?」
「なにが不満なんだよ」
「あ、不満っていうか、聞きたい事があって」
俺が若干嫌がったのをばっちり覚えていたらしいサスケが、不満そうにしてる。自分が嫌がるのはともかく、人に嫌がられるのは気に入らないクンか。
笑って誤摩化してサスケの手から逃れ、俺はイルカ先生を追った。
聞くところによると、俺とナルトとサスケのスリーマンセルは、全体の人数と成績の関係でこうなったそうだ。
成績的にナルトとサスケがドベとトップ、俺は女子クラスにいたが総合成績では上位らしい。つまりナルトという問題児をカバーするのに程よく成績がよくて素行のよろしい子と考えて選ばれたのだろう。大人の事情を察した。
良いんだけどさ、……そうなるような気はしてたけどさ……。
「上忍の先生にはちゃんと『』の話はしてあるから、心配するな!」
ぱしんっと背中を叩かれて、えほっと咳込んだ。
ナルトとサスケのKISS……おめでと。 Jan 2025 加筆修正