sakura-zensen

サクラ前線

03話

現れたカカシ先生は一見やる気無さそうなお兄ちゃんだった。
ナルトの罠にひっかかるし、自己紹介のときに殆ど情報をしゃべらないし、この先ちゃんと仲良くなれるか微妙に不安である。
まあでも良い先生であるということは知ってるので、それを信じて待つことにした。

「よし……じゃ最後、………………女の子」

カカシ先生は一応、俺を女の子と呼んだ。
「───春野サクラです」
特に性別を隠したいわけではないのだが、だからって別にサクラが嫌だと言う訳でもないので、俺はまだこの流れに身を任せることにする。
「好きなのは……犬?嫌いなのはウーンしいたけ?……将来は未定、しいていうなら強くなりたいです!趣味は読書ですかね」
これといって好き嫌いがあるわけじゃなく、思いついたものを言っただけだったりする。趣味なんかねーよ、読書も好きってわけじゃなくて普通に読むくらいだ。むしろ日課に筋トレが入ってるからそっちが趣味だろう。
最近はもはや自分がどこまでやれるのか見たいな思考が出来上がってきている。
───何はともあれ、なんか口にする野望の大それた二人を前に、俺はそつのない自己紹介を終えた。



翌日はサバイバル演習があって、俺は朝飯を食べてから行った。
吐くことになると脅されていたけどそんなことにはならないだろう。

「やっとお前らを好きになれそうだ……じゃ、始めるぞ!!」

カカシ先生の説明とナルトの大口の所為で俺が口を挟む余地もなく、サバイバル演習は開始された。
このサバイバル演習は三人に対して二つの鈴をカカシ先生から奪い取り、一人がアカデミーに戻されるという、体術や忍術だけでなく心理的にも試される演習なのだが、ここで俺が一人物分かりが良く「アカデミーに戻っても良いよ」と犠牲者になったとして、二人の思考は変わらない。
結末を知っているからからこその舐めた思考だが、そうでもしないと今のところナルトやサスケの間でうまく生きていける気がしないのだ。

目まぐるしく始まってしまったサバイバル演習にため息を一つ吐く。
仕方なくその場を離れて隠れ、気配を消した。ナルトは広いところで堂々と立ってたんだけど。何だあいつ一番舐めてんな。

カカシ先生はとんでもなく強かった。ナルトは勿論、サスケなんかメじゃないし、……ガイ先生も全然本気じゃなかったから、ああいうのは始めて見たかも。
ナルトがあっけなく気に吊るされて終わったところ、サスケが攻撃をしかけてきて、カカシ先生が移動したから頑張って探したんだけど見つからないのでサスケの方を探す。
「サークラ」
「わ!」
サスケ見つかんねえ~~と木に背中を預けてたら、カカシ先生ががさっと木の上から顔を出した。
とりあえず捕まえようと思って手を伸ばしたけど、ぶわりと葉が押し寄せて来て意識が少し遠のく。まさかこれ幻術……?

「サクラ……」

ふいに、サスケの声が俺を呼ぶ。
少し先にある木の影から、クナイと手裏剣が沢山つきささって血を流してるサスケが出て来た。幻術だからこそリアルなので、顔が引きつる。グロ耐性や幻術破りは今後鍛えて行かないとだ。
これが本気の幻術だったらやばいけど、カカシ先生が俺にかける程度の術なら、自発的に解けるので一瞬で現実に意識を戻す。まあ、かけられた時点で情けないような気がするが、俺はまだ忍者歴が浅いので仕方がない。
はっと目を覚ましたところで、俺はあっさりカカシ先生において行かれたことに気づいて若干の遣る瀬無さを感じた。情けな……。

さすがに何もしてないのは恥ずかしいので、カカシ先生を探そうと周囲を探す。するとちょうど良くサスケが火を噴いたので場所が知れたけど、様子見に行ったらサスケは地面に埋まってた。……なんかシュール。
「先生は?……えと、助けた方がいいよね?」
「情けなんてかけるんじゃねえっ、……行けよ」
地面に座って、手でほじほじと土を掻いてみたがサスケに思いっきり睨まれて拒絶されたので手が止まる。
「良い奴気取って試験に落ちたら世話ねえよ、それとも俺に助けてもらわねぇとあいつから鈴取れないとでもいうつもりか?」
「……」
普通に考えてそうだけども。
俺はぐっと言葉を飲み込んだ。俺が何かを言って届くだろうかと考えてしまったからだ。
サスケはもう一度強く「行け!」と俺に言うので、その迫力に追いやられるようにして立ち上がりその場から離れた。


「うーん、ガイが言ってた通り、体術はよく出来てる。チャクラコントロールも勉強してるんだってね?エライエライ」

相対したカカシ先生は、イチャパラは相変わらず手に持ったまま俺に応じた。
イルカ先生が俺のがんばりを伝えたなら分かるが、ガイ先生が俺のことをカカシ先生に話すってなんだ、いつの間に……?という驚きはあるものの、褒められたのでエヘっと笑う。
「どー、も!」
面白いくらい避けてくれるから、ちょっと打ち込むのが楽しい。
「……あのね、遊んでんじゃないんだよ?」
「わかって、ます、けど、先生は遊んでるようなもんで、しょ!」
「分かってるじゃないか」
に〜っこり笑ったカカシ先生。何されるのかな、忍術かな、千年殺しかな、あれは勘弁。
喋ってる間も打ち込みはやめないけど、結局鈴にも触れない。やっぱり俺はサスケには劣るようだ。
「───そろそろ時間切れだな。良い線行ってたんだけどね」
不意にカカシ先生の声が近くでしたと思ったら、とんっと首を突かれる。その衝撃が痺れるようにして全身に廻って、身体の自由を奪う。
完全に意識を失う程ではないが、ほとんど動けなくなった俺は、あろうことかカカシ先生に抱っこをされて集合場所まで連れて行かれた。



昼、タイムリミットを告げる合図が鳴った後、カカシ先生は縛ったナルトと、自力で這い出て来たサスケ、そして抱っこから降ろした俺を前にして言う。
「三人とも、忍者をやめろ」と。
知ってたけど、実際言われるのは身につまされるものがある。こうなること、今後のことをわかっていても、自分が何もしなかったのは事実で、少しだけ後悔が滲みだした。
だけど俺は顔に出すことすらできず、どこか遠い場所の出来事のように目の前のことをを眺めた。
飛び込んで行ったサスケはカカシ先生に踏まれているのに。
「サクラ、ナルトを殺せ。さもなくばサスケを殺す───こういわれたらどうする?」
「……、」
言われて、ピクリと手が動いた。
でもそれだけだ。俺はまだ覚悟が出来ていなかった。

「お前らと来たら……サクラ、お前はナルトのこともサスケのことも見ているだけで、思うことがあるのに口に出さない。ナルトは何も考えずに独走、サスケは最初から周りを役立たずだと見捨てた───どうしようもないな」
カカシ先生の総評には、耳が痛い……。
三人でかかってくれば鈴はとれたはずだと言われて、二人の雰囲気が変わるのを感じる。たいしてカカシ先生は俺をじっと見ていた。何故俺がそれを提案しなかったのかを探っているかのように。

先生は午後にもう一度チャンスをやると話を終わらせた。だが、ナルトには弁当を食わすなといって不機嫌な様子で去って行く。
ところがカカシ先生の気配が消えるなり、サスケはすぐにナルトに弁当食えって声かけた。
午後は三人でやるから、ドベでも元気がないと困るとのこと。本当はカカシ先生がどこかで気配を消して見ているのだろうけど、俺はこの流れにほっと安心して自分の弁当も持ちあげた。卵焼きをアーンしてやろうと。
だがその瞬間、カカシ先生がすんごい迫力で走ってきた。超怖い。最終的ににっこりわらって合格貰ったけど……。

「ま、これにて演習終わり、全員合格!よぉーしぃ!第七班は明日より任務開始だぁ!!」

カカシ先生は良い話をした後そう切り上げて、ぴっと親指を立てた後「帰るぞ」と踵を返した。ナルトは後ろで縛られたまま。

「───サ、サクラちゃぁぁあぁん!!!!」
「はいはい……」

これは置いて行くシーンだろって思ったけど、ナルトって縄脱けできなさそうだし、指名受けちゃったので、俺は二人から離れてナルトの所に戻るのだった。




予定より早い俺の帰宅に母は驚いていたけど、身体が汚れているからとシャワーを勧めてくれた。
それに頷きシャワーを浴びてから、タオルを腰に巻いて部屋に戻ったんだけど、床にカカシ先生が寝そべっていた。
「おかえり〜」
「……変態???」
ドアのところで固まり、先生を見下ろす。
「いや、違うから!違うからね!?」
一応今日が初対面なのに、タオル一枚のところで自室に勝手に入り込まれていたのはちょっと引く。目の前でエロ本読まれてるときより引く。……まだ俺、パンツすらはいてないし。
「で、何のご用です?」
「あー、とりあえず服着てくれる?」
「勝手に入ってきておいて???……もー目ぇ瞑っててください。パンツが入ってる引き出し知られたくないので」
「知りたくないよ……」
先生は俺に背を向けて、ベッドに顔を埋めた。
ちょっと翻弄されてるのが面白かったので、パンツ履いてバスタオル肩にかけた状態で「匂い嗅がないだりしてない?」って言ったらカカシ先生は「嗅ぐか!」と言い返して振り向いた


私はカカシ先生が好きだ……。
Jan 2025 加筆修正