sakura-zensen

サクラ前線

04話

服を着終えて、濡れた髪の毛のまま先生の前に座ると、カカシ先生は首を傾げた。
「風邪ひかない?」
「いつも少し放置してから乾かしてるから平気です」
俺は女の子よろしく長い髪をしているので、乾かすのに時間がかかる為今はいいやと放っておいたのだ。先生を前に身だしなみが、というのはもはや今更。何度も言うが突然来た先生が悪いと思う。
「それで、えーと、家庭訪問ですか?お母さんに挨拶でもします?」
「だったら玄関からくるでしょうが」
「確かに」
勝手に部屋に侵入したのはそれなりの理由があったんだろうか。そう思っていると、先生には女装の理由を聞かれた。そんなの……うちの風習ですとしか言えないっていうか。
「別に今はしなくても良いんじゃないの?」
「…………可愛いでしょ?」
「あ、ウン、……ウン?」
特に俺がこの格好をしている理由はない……というか、春野サクラという立場でいた方が良いという短絡的な考えだったので、表向きにもしょうもない理由をでっち上げた。
イノちゃんの言葉を借りると俺はそこそこ可愛いので。

「それで───今日、なんで何もしなかった?」
「えぇ?」

女装に関する話はもう諦めたのか、先生は今度、俺が演習で二人に協力を要請しなかった理由を聞いて来た。
「サクラは友達思いの面倒見が良い子って聞いてたからね。帰りだってナルトを迎えに行ってあげたでしょ」
「ははぁ」
なるほど、じゃあ逆に俺が何もしないのは変にうつったか。
チームワークに気づかないのも、鈴をとれないのも、先生に怒られるのも、あれは必要なことだったと思っていた。カカシ先生が先生なのだから、俺がナルト達を説得しても意味がなかった気がする。なんていうのは、浅ましい言い訳だろうか……。

「……俺の言葉が二人に届かないと思って」

ぽつりと呟いたのは思いのほか弱い声だった。
流れを知っていたから諦めたけど、それでも自分で何もしなかったのは自信がなかったからだ。
春野サクラでいることに、この先に、あの二人に対して、俺は。

「───これからはこの四人で任務にあたるんだ。そんな簡単に仲間のことを諦めるな」
カカシ先生は何か考えたようだけど、特に怒られも、深く理由を聞かれることもなく、ぽすり頭を撫でられて個人授業は終わった。

いくら身体を鍛えても、先のことを知っていても、俺は勇気を振り絞らなければいけないと実感した。



下忍任務はしばらく、しょぼいのが続いた。
リーさんと休日に任務の話を聞くけど、彼らの班は先輩なだけあってもう少し難易度は高いものだった。
俺は別に下積みがあったほうが安心できるからナルトやサスケみたいにストレスは感じてない……というか、まだまだ自分の力を信じられてないってのが強い。本当の敵にあったとき、俺はなにが出来るかわからない。
ナルトやサスケみたいに、強い意志はないから。
「リーさんは───任務を怖いと思うことある?」
「ボクも最初は怖かったですよ。でも仲間や先生を信じています。それから、修行を続けたボク自身を信じています」
「そっかあ」
「サクラさんも、もっと自分を信じてください。ボクがこれだけ、サクラさんががんばり屋さんなことを知っているのだから、サクラさん自身も気づいてる筈ですよ!」
やば、リーさんカッコいい。
太い眉も下睫毛もぱっと見シュールだけど、今はチャーミングに見える。
「おす!」
「押忍!」
励ましてもらえたと同時に癒されたので、アホ面で笑いながら返事をしたら、リーさんも同じように気合いを入れた相槌を打ってくれた。
リーさんが信じてくれてる分の俺を、とりあえず信じる事にしよう。
でもやっぱり下積みって大事だよね、って思ってたら早速ナルトが駄々を捏ねた。……知ってた。


タズナさんが波の国まで帰って橋を完成させるまでの間護衛する任務が超始まった。超やべえやつだと言うことは俺だけが知っている。ナルトって引きが悪いっていうか良いっていうかさ……。

「先生、忍者との任務は何ランクですか?」

波の国への道すがら、俺は質問を投げかける。波の国には忍者はいないって言うけど他の国には忍者という軍事力が存在するって話している。なに?結局、波の国には忍者はいない筈ってことでいい?
「ま……ということで、Cランクの任務で忍者対決なんてしやしないよ」
「ふーん」
「安心しろ、アハハハ」
って先生が笑った隙に水たまりを通り過ぎた。───少なくとも近日中に雨なんて降ってない事を俺は知っている。
カカシ先生から離れてナルトの方に足を進めたら、後ろからぴちゃっていう水の音が聞こえた。
振り向いた瞬間、カカシ先生に向かって来る武器が見える。カカシ先生はあっさりつかまった末に身体をブッチブチに千切られちゃった。
「うわ」
カカシ先生があの程度でやられるわけがないと分かっていたので、単純にグロいもん見たと声を漏らす。……まだ慣れてない。
変わり身の術に加えて、幻術も使ってるのかな……?

突如現れこちらに向かってくる忍者。動けないナルトはサスケに任せて、俺はタズナさんを常に背にして警戒する。
やっぱり狙いはタズナさんのようで、忍者が俺に向かって来たところで、サスケが前に立ってくれた。しかしサスケが攻撃を往なす前にカカシ先生が出て来て、相手を捕まえてくれたので俺はかすり傷ひとつおわずに済んだ。
「とりあえずサスケ、よくやった。サクラもな」
ナルトにちくっと嫌味さしたカカシ先生は、反してサスケと俺をちょっぴり褒めた。
するとサスケが得意げにナルトに声をかける。
「怪我はねーかよ、ビビリ君」
「!」
「ナルト!喧嘩はあとだ。こいつの爪には毒が塗ってある。お前は早く毒ぬきをする必要がある」
サスケの言葉にムキになりかけたナルトを、カカシ先生は冷静に止める。
二人の喧嘩より、問題はこの任務のランクにある。───忍者が出て来る任務は問答無用でBランク、下忍なりたてぺーぺーには荷が重いからだ。
にも関わらず、ナルトはサスケに助けられたことが我慢ならないのか、名誉挽回のために任務続行を願い出た。
ナルトに成長の見込みがあるとはいえ、実際同じ班にいる場合たまったものではない───が、もう今更だ。本当に、そろそろ腹をくくるべきだろう。



突如襲い来る忍者───再不斬との戦闘中、相変わらず俺はタズナさんの警護に徹した。
今はまだ身の丈に合う自分に出来ることをするしかないからだ。
途中カカシ先生が水牢に捕らわれるというピンチもあったが、それは無事にサスケとナルトが戦って現状を打破した。しかしカカシ先生が反撃に出ようとしたところで、再不斬は追い忍にやられてしまう。まあ奴らがグルで、再不斬は生きていることは知ってるが、むしろ今はこのままどこかへ行ってもらった方がありがたいと見送る。
なにせ、カカシ先生は電池切れだ。
「フー……さ!オレ達もタズナさんを家まで連れていかなきゃならない。元気よくいくぞ!」
って言った先生はその後、べちゃっと倒れてしまった。

タズナさんが詫びにカカシ先生を背負うと言ってくれたが、彼は護衛対象なわけだし断る。そして俺が変化の術で大人の男の姿をとると、四人とも目を見開いた。
「サクラちゃんが男になったってばよ!?」
「ただの変化だろうが」
特にナルトは何故驚く。……お前のおいろけの術と似たようなものだぞ。
「カカシ先生、おんぶでいい?しがみ付ける?」
「わるいねえ、サクラ」
「いえいえ」
背中を向けて屈むと、タズナさんとナルト、そしてサスケがカカシ先生の身体を支えながら俺に乗せた。大きな衝撃を受けてチャクラが乱れない限りは、何とかカカシ先生の身体を持ち上げる程度のガタイや筋力を維持できるはず。

そんなこんなで、えっちらおっちらタズナさんの家に向かい、布団を敷いてもらってそこに寝かせることには成功した。
なんだかこれが初めて忍術を鍛えてきた成果かも、と達成感に嬉しくなる。
「フウ、これで一安心ですかね」
「ありがとね、サクラ」
先生にはお礼を言われたついでに、もっとお手伝いしようかと両手をワキワキさせた。あわよくば口布をとった素顔も見れるかな、という期待もあって。
「服は着替えます?手伝う?」
「いや、良い……」
だが、あっさり断られてしまった。
え、一週間は動けないってさっき言ってたのに??フケツじゃなあい……?
そう思ってジト……と見下ろすと、俺の気持ちを察知したのか「後で自分で着替えるくらいは出来るから」と言われる。
「ふうん、先生が俺に顔と身体見せるの恥ずかしいっていうならしょうがないな」
「うーん……ま、そういうことだ」
あながち嘘でもなさそうなので、俺は先生の服だとかを剥くのは諦めた。無理強いはよくないし素顔も、まあそのうち見ることにはなるだろう。……多分。
そういうわけで、俺が剥いたのはカカシ先生の掛け布団のみだ。
「サ、サクラちゃん?」
「ちょっとだけ休ませて」
もぞもぞと隣に身体を差し入れて寝転ぶと、慌てたカカシ先生が身じろぎをする。
夕食の時間までゆっくりしていて、とタズナさんの家族には言われていたし、ナルトとサスケがタズナさんの相手をしている今俺は気楽に休みたかった。
「俺もカカシ先生運ぶのにチャクラつかったんで、疲れちゃった」
「待て待て」
カカシ先生は必死で俺を停めてくるが、いいじゃんか別に俺の身体はまだチビこいのだし。そう思って布団の中に潜り込むと、部屋の戸が勢いよく開けられた。
「サクラちゃ───あぁ?」
「はぁ?」
ナルトとサスケが、多分いつまでも戻ってこない俺を見に来たのだろう。俺がカカシ先生に添い寝してるのを見下ろすと、ドン引きした顔をした。

「カカシ先生、サイテーだってばよ」
「このクズ」

俺は布団から引きずり出され、カカシ先生の名誉は死んだ。


私はカカシ先生が好きだ……(何度も言う)
忍術の解釈間違ってたらごめんなさい。
Jan 2025 加筆修正