sakura-zensen

サクラ前線

06話

波の国の任務が終わり、一瞬まとまりかけたチームワークがまた乱れ始めた頃、里に外部の人間がちらほらみられるようになった。目立つ見た目は確か砂の三きょうだい。
木の葉丸たちチビに絡んだと思えばナルトが出てきて、それを止めるべく現れたサスケに対して末っ子のヤバい奴が興味を示す。
そんなシーンを見つつ───そうか、そろそろ中忍試験があるんだっけ、と思い出した。



「あなたがサクラ?」
「ああ、リーが最近可愛がってる犬コロ」
情報収集がてらリーさんに会いにいったら初めて彼の班員に遭遇した。
テンテンさんとネジさんは、リーさんとガイ先生からちょっと聞いてたのか、俺の名前を知っているらしい。
……え、今俺のこと犬コロって言った???
「中忍試験───五年ぶりにルーキーが出て来るようですね」
「上忍の意地の張り合いかなんかでしょ……」
くるくるクナイを回すテンテンさんは俺を横目で意味深に見る。
「でも、あのカカシの部隊ですよ、サクラさんは」
「へぇ」
「面白いな……それ」
興味ありげに眉をあげたテンテンさんに続いて、ネジさんが口を開く。「まあいずれにしても、可哀相な話だがな」と言われたので決して友好的ではないだろう。
なんだろうなあ、試験で対立することはあるだろうけど、同じ里の忍者なら味方だと思うんだけど。いや、でも、ライバルでもあるのか。
俺にはそう言う気持ちがよくわからないので、気を取り直してリーさんに立ち向かう。
「リーさん今日も宜しくお願いします!」
「押忍!」

波の国の一件以降、任務と自主練ばっかりでリーさんと手合わせはしてなかったから久々だった。
自主練は一人でやるか、時々サスケにひっぱって連れてかれるか、運が良いときはカカシ先生を捕まえてやってたから。
自分より強い相手とやるのはやっぱり、楽しい。相手を倒せないのに焦れる気持ちもあるが、今はまだその人たちが俺の同期、先生、先輩であるから絶望の理由にはならない。
任務で里の外に出た時に、俺は再不斬やお面ちゃんことハクと直接戦うことはなかったし、本気の殺意を持った攻撃を受けたことはないから言えることだろう。

「───サクラさん、強くなっていますね!」
「ほんと?」
手合わせを終えて汗を拭いてると、ちょっと興奮した感じのリーさんが言った。
「威力も上がっていますし、防御も早くなっています。身のこなしなんか見違える様でした」
「カカシ先生捕まえて相手してもらった甲斐があったかなあ」
「なるほど、なら上達も頷けますね」
テンテンさんとネジさんもふむふむと頷いて見学していて、ちょっと緊張する。
「あなた、得意武器はなに?」
「得意?とくには……体術と忍術の方が得意です」
「あら、駄目よ、武器も使えないと」
「テンテンさんは……」
俺は的に大量の苦無が刺さっているのをちらりと見る。彼女は得意げに笑った。
……ネジさんはなー、日向の『白眼』があるから厄介なんだよな。体術も忍術も見破られると聞くし、あと柔拳とかいうやつもすごいらしい。やってみたい気もするけど、やってみたくない気もする。
「動きは良い……が、チャクラコントロールがまだまだだな」
「うっ」
やっぱり俺の動きを"見て"いたらしいネジさんが、嫌味のようなアドバイスのようなことを言ってくれた。
折角チャクラっていうのがあるんだから、もっと上手に使えるようにはなりたい……。俺はその言葉を今の自分に与えられた貴重で正当な評価だと胸に抱いた。
「ありがとうネジさん、頑張るね!」
多分本人的には嫌味にしたかったんだろうけど俺はペカペカ笑ったので、彼は気分を害したようで眉を顰めてそっぽ向いてしまった。
サスケより人当たり悪ぅい。なおこれは俺の考えうる最大限の悪口である。


中忍試験の当日、待ち合わせ場所である301教室に向かう俺は、再びリーさんたちに会った。
人混みの中心でリーさんが知らないお兄さんたちにボコられているところで、困惑してしまう。
え??リーさんめっちゃ強いのに、何でだろう。
「だいじょうぶ?」
「はい」
サスケとお兄さんが話してる間に俺はリーさんの顔を覗き込む。余裕そうに笑ってるので、多分わざとなんだろう。
テンテンさんにもちらっと視線をやると手を軽く上げて振り、平気なことを知らせてくれた。
「───オレは三階に用があるんでな」
「ああ、ここ、二階だもんな」
サスケが俺に意味ありげな視線をやってくるので俺が頷くと、幻術が解かれる。
「でも、見破っただけじゃあ……、ねぇっ!!」
お兄さんはサスケに攻撃をしかけ、サスケも足を上げて応じようとした。けど、リーさんが一瞬にしてどちらも往なしてしまった。
さっきまではわざと負けていたのに、どういう風のふきまわしだろ。
「おい、お前約束が違うじゃないか、下手に注目されて警戒されたくないと言ったのはお前だぞ」
「……サクラさんの前で情けない姿は晒せません!」
「これだわ……」
ネジさんとテンテンさんは呆れていた。
どうやら彼は俺という後輩にイイトコを見せたかったようだ。
「ははは、リーさんかっこいいよ」
「リー……?」
俺が声をかけた横でサスケがぼそっと呟く。多分俺が前に体術教えてもらってる先輩の名前教えたから聞き覚えがあったんだろう。
でもネジさんがサスケに名乗れって絡んでるので、リーさんと話すことなく俺達は別れた。……いやでも、行くとこ同じじゃない?

三人で三階に行こうとしてたら、今度はリーさんが改めて俺達に声を掛けて来た。いつの間にかネジさん達とは別行動をとっていたらしく、一人である。聞けば、サスケと手合わせをしたいらしい。
彼は、『うちは』一族に自分の技が通用するかを気にしている。
「それに……」
「??……ん」
ふと話を切った彼は、ぱちっと俺にウインクしてきたので、俺も少し遅れてウインクを返しておく。
「はう!……天使だ、君は!」
「やっぱり、テメーがサクラの言ってたヤロウか……」
俺リーさんの天使だったのか……と今更思ったけど見てるうちにどんどん話が飛躍してて、どういうわけか構ってもらえてなかったナルトがリーさんにつっかかっていって伸され、その後にサスケとの手合わせが始まった。
どいつもこいつも、中忍試験がこれからだってことを忘れてないか。場外戦で体力を削るんじゃねえ……。

「───そこまでだ、リー」

戦いの最中、リーさんの手の包帯を風車で壁に縫い付けたのはガイ先生だ。といっても、亀しか見えないけど。
俺はその間、宙に投げ出されて落ちてくるサスケが受け身を取ろうとしないので、なんとかキャッチしたけど、重たい。
「ったぁ〜……」
動揺したサスケは、受け止めてやった俺には目もくれない。まあ別に良いですけどね、感謝されなくたって。
「まったく!青春してるなー!お前らーっ!!」
「ガイ先生ー!!」
俺は合いの手のごとく名前を叫んだ。あの濃さにサスケとナルトはぎゃんっとショックを受けてるけど、俺はもう見慣れてるんでな。
ぶん殴られたリーさんは涙を流し、ガイ先生も同じように滝の用な涙で応じ、抱きしめ合っていた。


リーのウインクにウインク返しをする、そんなおちゃめで可愛いサクラが書きたいっていうのが今作を書いた一番の理由です。
なので本編はここまでで力尽きています……。次回はオマケ。
Jan 2025 加筆修正