EndlessSeventeen


小さな王 03(主人公視点)



合宿は奥村先生と燐くんの住む高等部男子寮の旧館で、一般の男子寮よりもたいへんにボロい作りをしていた。
ちなみに俺は一般男子寮の寮生という事になっているけど、一軒家と繋がる鍵を持っていてそちらから行き来している。そうしないとと一緒に暮らせないし、夜に任務が入った時にいちいち届け出をだしたり同室者に理由を取り繕うのは面倒だ。

「佐藤さん、どうですか?ついていけてますか」
「あーはい、なんとか」
合宿初日、俺達は夜遅くまで勉強をしていた。燐くんは勉強のし過ぎなのかクラクラしながら夜風にあたりにゆき、他の皆もそこそこ疲れた顔をして気を抜いていた。そんな中最近転入して来たばかりの俺を気遣ってくれたのは奥村先生である。
筆記用具をしまいながら答えると、奥村先生は小さく頷く。
「テストを見ているかぎり理解度も高いし、よく勉強してきているようですね」
「まあ、うちにいっぱい本があったので、予習には困らないですねえ」
俺達の会話をよそに女子はお風呂に入りに行き、志摩くんが男子高校生らしいことを言い出したので奥村先生がぴしゃりと牽制した。
「教師いうたってアンタ結局高1やろ?ムリしなはんな?」
「僕は無謀な冒険はしない主義なんで」
「せや、佐藤さんは?」
「え」
俺は急に志摩くんが期待するような目でこっちを見たのでびっくりした。
一つしか違わないのに、何をそんなに期待するような顔をしてるんだろう。
「いや、指輪してはりますやん?それに、こないだそこにキスしてはったから、恋人おんねやろ?ん?」
「指輪いうても小指やろが」
勝呂くんが冷静に突っ込んでる。それにキスしたのは召還前だ。
「これはお守りみたいなもので、キスしたのはお祈りのような……ほら、ロザリオにキスするのと同じね」
「なんや〜つまらん」
「ごめんね」
「いや、謝らんでええんですよ」
子猫丸くんが苦笑した。
その後悲鳴と何かが倒れるような音が響き、和やかな合宿は終了した。
俺達がかけつけても結局奥村先生がどうにかしてくれたので、俺達は特にやることがなかった。

その後は少し様子のおかしい神木さんがいつも以上に勝呂くんにつっかかってて、何故だか連帯責任で三時間囀石を膝に乗せられ正座することになった。
「わあ、どうする、しりとりでもする?」
腕時計を確認してから隣にいた宝くんをちらっと見たけど無視された。それから、杜山さんは重たいのか青い顔をしていて俺に答えるどころじゃない。
「よう笑えますね佐藤さん」
志摩くんがかろうじて俺に反応してくれたけど、結局勝呂くんと神木さんがまた喧嘩を始めてしまって、三時間仲良く謹慎はできそうにない。
不意に襲われて一悶着あったけれど実は仕組まれたもので、どうやら候補生の為の試験だった。
処置をうけて、皆が自分の行動を省みている間俺も一緒になってこっそり見直してみるけど、特に何もしてない。俺の仕事は生徒として燐くんの監視と護衛をすることで、ああいった風に燐くんが個人行動にでてしまったら動けないのだ。そこを上手く動くのが俺の仕事と言われればそうなのかもしれないけど、そこまでしろと言うならばむしろ教員としての籍を用意するか本当にいつも屋根裏部屋にいさせてほしいものだ。だから俺は勝手に生徒として出来る範囲でしかやらないと決めている。
フェレス卿に今までお叱りを受けたこともないので、多分この方針で大丈夫だろう。
夜にネイガウス先生が燐くんを襲っていたのはちゃんとこっそり観察していたけど、どうやらあれはフェレス卿の役目と私情によるもののようだ。
『くだらない……さっさと帰ろ』
隣にいたが興味無さそうにふんと息を吐き俺の手を握って姿くらましをした。

ある日の昼休み、学食へ行こうとしていた俺は調理室の扉に貼り紙がしてあるのが見えた。
「う……うンチ五百円?」
思わずまじまじと見て、ぽろっとこぼす。うんち五百円ってなんだ……高いな……いや、安いのかな。
ちょっと興味が沸いたので覗いてみたら奥村兄弟がいた。
「あれ、二人してなにやってるの」
「お、佐藤!」
「佐藤さん……まさか来るとは」
燐くんは嬉しそうに立ち上がり、雪男くんは愕然としていた。
「食うか?」
「いや、冷やかしに来ただけ。…………スカトロの趣味は無いので」
「うわあぁぁ」
燐くんはしょんぼりしていて最後のは聞いてないけど、雪男くんは両手で顔をおさえてしまった。
「あの、需要はあまり無いと思うよ?ここ……学校だし」
「わかってますよ!」
気遣うように燐くんを見てから、こっそり雪男くんに助言したらちょっと怒られた。
「ところで、誰のなの?もしかして貴重な悪魔の……」
「もう勘弁してくださいよ!!!」
雪男くんが泣きそうなのでこれ以上聞くのはやめようと思う。


2015-12-11