EndlessSeventeen


CapriciousBalloon 03(主人公視点)

俺の部屋はアパートのように、風呂や洗面所が備えついていた。
キッチンはなかったが、毎朝昼晩食事を運ばれるので何も問題はなかった。
ただ部屋の中にずっといるのは暇だった。17歳は学校へ行ったりアルバイトをしたりいろいろと動く生活をするばかりだと思っていたけれど、こんな完全ニー ト生活俺には向いてない。孤児院の子供の面倒を見なさいとか掃除をしなさいとか買い物手伝ってとか、そろそろ出て行きなさいとか・・言われてもそれはそれ で困るんだけど。
このままでは、(粗食だけど)食べたらあまり動かないで部屋に居るもんだから太りそうだ。足腰弱いと良いことない。

話しかけられても分からないんだから無視すればいいし、引きこもりだから変わってると思われても問題ないのではと思い、外に出る決意をしたので、早速俺は 朝食のトレイでも片付けに行こうと思い立った。ベッドの上のトレイを見おろして、ベッドから降りる。ぺたりぺたりと部屋の扉まで歩き、恐る恐るあけてみ た。

今日はあの少年は居ないらしい。
名前もわからないし、正直顔なんてあんまり覚えてないけど、姿かたちは何となく覚えている。
俺が此処に来た日に会った子供。
誰とも話す機会がないから(あっても困るけど。言葉わからないし)彼の情報はない。

トレイを片手に、扉を後ろ手に閉めて、裸足のまま廊下を歩いた。朝日が窓から差し込んできて長居廊下は薄ぼんやりとしている。
廊下の突き当たりには階段があった。降りればいいだろうかと思案して俺はゆっくりと歩く。
こっちの世界では何年引きこもっていたのかわからないけど、前の世界の自分の体は健在で、歩くのに震えるわけではない。ただ少しだけ緊張する。
人に会うのはまだ怖いと心の底で思っている。そもそもの目的は体を動かすことだし。

螺旋状になった階段を下りていくと、そこはもう部屋の中だった。リビングルームみたいな、とても広い部屋。
キッチンがまず一番に目に入る。
部屋には数人、人が居た。俺はまだ上の方にいるから気が付いていないのだろう。

だけど、ゆっくり階段を下りて行くと次第にこちらを向き始める。
声を掛けられた様子はないから俺は聞こえないふりをしてまっすぐキッチンへ行った。






(そんな、こいつ誰?的な顔をしなくても……)
子供たちはぽかんと俺を眼で追い、大人はびっくりして目を丸めていた。

……どうしたの』

(どうしたの?かな?中学んとき習ったぞ!)
自分の状況と薄ぼんやりとした知識の中でとりあえず訳すことはできたが、理由を説明する英語力はない。


『ごちそうさまでした』
あの少年と会った時と同じように精一杯の良い発音でキッチンの女性にトレイを渡す。
洗うの手伝おうかと言う決心はまだしてないので、とりあえず今日はもう部屋こもろう……と思っているチキンともいえるがすっかりニート引きこもり気質な自 分が居た。


『え……あ、ええ』

"you are welcome"としどろもどろに女性は言ってトレイを受け取る。
どんだけ俺は引きこもりだったんだと思いつつ、皆の視線が痛いのでさっさと部屋に戻ろう……と階段を上がった。











ぺたりぺたりと廊下を歩き部屋の前に来たところでほっとする。
なんか自分の部屋が一番安心だと思えた。

さっさと籠ろうと思って扉のドアを開けると、遠くからばたばたと足音が聞こえた。
音からして子供みたいな音。多分1人。

階段を駆け上がり廊下の突き当たりまでくると俺からも姿は捕えられた。
先ほどリビングに居た子供だ。
良く見るとこの前も見た子だった気がする。たぶん。外人さんは見分けがつきません。

男の子はハアハアと息を切らして廊下を走ってくる。そして俺の前で止まった。


(どどどどどどうしよう……)

開きっぱなしの扉のドアノブを持った手はそのまま、顔は固まり少年を見おろした。
冷や汗がはんぱじゃない。バスタブに飛び込みたい。

『おはよう、
「……?」

ぐっもーにん…… 。って言われた。
おはよう、という意味で違いないだろうけど、わざわざ来てそれを言われたのかと思うと逆に驚く。
てっきり勢いからして英語でマシンガントーク浴びせられるのかと思っていた。


『おはよう。……名前は?』



『トム……トム・リドル』



酷く発音が良くて、うまく聞き取れた自信がないけど、俺の知っているキャラクターにそんなのが居たから、もうそれ決定。彼はあのトム・リドルだと断定しま した。


『俺の名前は……

『知ってる』


あいのう……ってにっこり笑った姿がすごく可愛らしいというか、綺麗というか。
なんていうかもう美麗。

(本場の人の英語すげえ)

何か用かと言って話題だされても困るので、とりあえず俺は彼の頭をくりくりと撫でくりまわしてから、部屋へ逃げ帰った。

『じゃあね』

手をひらりと降って扉を閉める直前、彼は撫でられた所為かぽかんと俺を見上げていた。

2010-06-23