EndlessSeventeen


CapriciousBalloon 05(主人公視点)

外に出るようにしてみた。それでも話しかけられたりするのはまだ怖くて、やっぱりなるべく部屋にいるんだけど、天気の良い日は庭に出てみたりする。
遊んでいる子供の視線が痛くて、5分で部屋に戻るけど。

日中窓を開けて空気の入れ替えをしながら部屋の掃除をして、暇があれば長風呂入って、ストレッチして、筋トレしてたら、健康的に引き締まってきた。前から 貧弱な方ではなかったけど、それでも引き締まった感じがする。食事は、粗食といっても日本でいう粗食に比べたらカロリー高いしいつもベーコンとかソーセー ジとかあるから、栄養もすごい。野菜は少ないけど。なぜか自分の部屋には小さな冷蔵庫があって、現代日本で売られている一日分の野菜を凝縮した健康ジュー スが入っていて驚いた。

トリップ生活を続けていく中で気付いたことが色々あって、その中にこれもはいる。
希望してれば勝手に備え付けられるっていうこと。今みたいに冷蔵庫の中にジュース入っていて、1個飲んだらまた補充されている。おかしいにもほどがあるけ ど非常に心強い。

どんだけラッキーな生活してるんだろうって感じ。だってほとんどニート……。
だめ人間になりつつある自分を叱咤……出来なくなる日はすぐそこだ。



今日も今日とてニート中で、なぜか使える携帯で積みゲーをぴこぴこやっていたら目がつかれ始めて、やっとベッドから起き上がった。
気が向いたら掃除してるのでフローリングはぴかぴか。
裸足が楽なのでいつも裸足で、俺はまたぺたぺたと部屋を歩き回り、本棚の前に立った。


基本的には全部英語で書かれている。
何の本だかわからない。けど、暇すぎて時々眺める。
携帯の辞書機能や、ベッドの下にあった英和辞典を使って調べて読んだり、図解している所だけ絵本として読んだりする。
なんかすごく物騒な知識とかも得てしまった。

魔法薬学の本とか、魔法史の本とかあって、興味深かったりもする。



英語を必死で調べていると、単語だけはわかるようになる。喋るのも少しくらいはできると思う。文法はあれだけど、ぼそぼそしゃべればきっと要点掴んでくれ ると思うし。だけどやっぱりリスニングは難しい。

文の最初と最後とか、聞きとりやすく強調してる言葉はわかるけどやっぱり完璧なコミュニケーションはとれそうにはない。だから相当俺は浮いてるんだろうな あと思ったりする。話しかけられないのも変人扱いされてるからだと気づく。


(話しかけられても困るけど、……でもなんか……さみしいなあ)

その点リドルは可愛い。
挨拶だけはしてくれるし、懐いてくれてるみたいに思える。確か小説では愛情を知らずに育ってゆがんだ性格で変わり者だかなんだかだった気がする。ページ飛 ばしながら読んだし映画は数年前1回みたっきりだから確かではない。
弟みたいで、俺は外へ出るとリドルを頼りにしている。


俺が喋らなくても怪訝な顔しないし、隣に座ったらちょっと寄ってきてくれるし、頭撫でても怒らんない。

あー可愛い可愛いと思って顔をあげると開いた窓から西日が差し込む。
眩しくてカーテンを閉めようとすると、部屋のすぐそばの木に風船が引っ掛かっているのを見つけた。

(あれ……?)

赤い風船が空に浮いている。

桟に手をかけて身を乗り出し手を伸ばしてみるが糸には届かなくて、足をかけて木の枝に上る。

木の上から下を見おろすと、木を見上げるリドルの姿を見つけた。
リドルは風船に興味でもあったのだろうか、ぼんやりと上を見上げたままのリドルは俺に気がつかない。

ガサリと葉をかきわけて絡んだ糸を取り、風船がつながった糸を引きながら枝を伝って一番低い位置の枝に降りてから勢いよく下へジャンプした。
下芝生だし、リドルに風船をとってあげようと思ったのだ。








『!』

俺が目の前にいきなり着地したから子供らしく驚いている様子のリドル。
いつも俺はリドルを驚かせている気がする。そんなに突拍子もない行動をしているつもりはないんだけど。

服に着いた葉や土と木屑をぱんぱんと払ってからリドルに風船を差し出し聞く。



『きみの?』
"yours?"
『ちがう……』
"No"と唇が呟いて、あれっと拍子抜けした。


でもいらないしなあ風船。



『あげる』



"give you"であってる、よな。あなたにあげるってただそれだけの意味になるはず。
こんな簡単な言葉でもあっているか分からない。俺はゆっくりと確かめるように言葉を吐きだし、おそるおそるリドルの眸を見る。



また、驚き目を見開く姿。笑顔がみたいなあ、なんて思った。



『ありがと……』

せんきゅう、と呟き糸を絡め取るリドルに、俺は糸に絡めていた指をするりと抜き取った。


『どういたしまして』

裸足のまま外は流石にあれかなあ、なんて今さら気付いた俺はリドルを置いて、歩き出した。

2010-06-25