EndlessSeventeen


CapriciousBalloon 07(主人公視点)

昼寝をしたつもりで目を覚ますと、夜がとっぷり更けていた。
シャワーを浴びて、この時代ドライヤーなんてものがないからタオルで頭を服だけに留める。
汗が引かないため、腰にタオルをまき、別のタオルを頭に無造作に乗せたまま冷蔵庫から野菜ジュースをひっぱりだしストローからじゅるじゅると吸っていた。

窓を開けると、目前の木の隙間から夜空が垣間見える。
英国の星空も日本の星空もどちらも好きだ。
特に星が好きという訳ではないから星座を言い当てたりできないけど、一番大きくて一番輝いている星だとか、目を凝らすとちょっぴり光って見えた星の粒と か、綺麗だと思う。
静かな夜に、少しだけ虫の声。そして、足音がした。
廊下を歩いている。些細な足音で、眠っていれば俺だって気がつかないし、起きていてもたいして気にはならないはずなんだけど、眠りすぎて目がさえた俺は耳 も頭も冴えわたっているのか、音を気にした。

ドアに貼り付いて、音を聞きとる。十中八九子供が歩いている音なので誰と特定することも何の用かと予想することもほぼ皆無。
あえていうなら、眠れないとかトイレに行くとか、夢遊病か。
どちらにしろ、気になったのでドアをゆっくりと開けた。

『…… ?』

暗い廊下を蝋燭を手に歩いていたのはトム・リドル。小さいころから変った子だと知っていたけど、夜徘徊したりもするのか、と関心をしてしまった。

『やあ……』

名前を呼ばれ気がつかれたからには一応挨拶をと思い手を挙げてみる。


『その、格好は……』

するとトムはぼそりと呟いた。聞き取れなかったが、視線からして多分俺のこの格好だろう。
タオルを腰と首に巻いた、下手すれば猥褻物陳列罪。室内だけどな!

『いま、風呂』

はいってたんだもん、と思い単語だけ口にすると『そう』とトムは納得をした。


『きみは……?』
何をしていたんだと聞きたくて口をもごもごさせると、トムはふい、と顔を逸らして『別に』と答えた。
相変わらずそっけない。けどその方が聞きとりやすい。
今度は俺がトムに『そう』と呟き納得をする。



『眠れない?おいで』

片言英語を精一杯喋ってみる。
わざわざ英語をしゃべらざるを得ない状況に自分を追い込んでいる気がするけど、トムなら平気だと思ってしまった。彼なら余計なことは喋らないし、嫌なら俺 に断って自分の部屋に戻っていくだろうし。
けれど、トムは驚き顔をあげた。目を丸めた顔はこちらの世界に来て何回見ているだろう。



『ほんと?』
リアリィ?と首をかしげるトムは少しだけ嬉しそうな顔をしていた。もしかして親が恋しかったとかそういう理由で動き回って眠気を高めていたのだろうか。愛 を受けずに育ったと聞いたから、少しだけ胸がきゅうっと締め付けられた。
『ほんと』
だとしたら、俺はトムをめちゃんこ愛してあげたいなあと思った。
そうしたらほんの少し未来が変わって、可哀そうな例のあの人が生まれないで済むのかもしれないと、柄にもなく原作を想像してしまった。

トムが持っていた燭台をトムの手からはなして部屋の棚において、俺は彼を部屋に招き入れた。

トムは寝間着姿でスリッパだから、床は気にしないでおいた。汚くなんかないない。部屋もいつも掃除してしまうし問題ない。






『わ……あ……、』

初めて人の部屋に入ったのだろうか、それとも俺の部屋はやっぱりトムの部屋と少し違うのだろうか。トムは少しおどろき辺りを見渡した。目が輝いているよう に見えて、それを見ている自分もわくわくした。


『本が・・いっぱい・・!』
本棚の方を見てなんか喜んでるから、多分本に興味があるのだろう。
『きみの、好きにしていいよ』

ちょっと待ってて、と頑張って伝えて、俺はキッチンへ降りて冷蔵庫を探る。
ミルクココアを2人分作って上へ持って行くとトムは俺のベッドに座って本を読んでいた。

『あげる』

ベッド脇の引き出し棚の上にことんとカップを置くと『あ、ありがと』と言ってまた本に夢中になった。よほど興味があったのか、俺と話そうとはあまりしな い。よかった。ほっと胸をなでおろし、一緒にベッドに座って、俺は窓から星を眺めながらココアを啜っていた。

しばらくすると、本を膝に置いたまま、こくりこくりと頭が揺らいでいるトムに気がつき、『ねむい?』と尋ねてみると、『ん……』と可愛らしい返事をした。

スリッパはパタパタと床におちて、ゆらゆら揺れる体を俺はなるべく優しく支えた。
既に抑えられていない本は落ちないように彼の足の上から退かす。


『いいよ、おやすみ』
……』
「ん?」
……』
「うーん」
『…… ……』
途中から素で返事をしていた。

うつらうつらとしているトムを同じベッドに寝かせ、俺も一緒に寝転がり、ぽんぽんと肩をリズムよく叩くとだんだんトムは口を閉じて眠りについた。まだ子供 だなあ。

朝目を覚ますとぽかんとして俺の存在に驚いたトムにとりあえずおはようと呟き俺はまた眠った。
そしてまた起きた時にはもう居なかった。

2010-06-29