EndlessSeventeen


CapriciousBalloon 10(リドル視点)

僕の特殊な力に周りは気味悪がった。当然孤児院の大人は他の子供以上に僕を遠ざけ、孤児院の子供たちも僕を異質の存在として避けた。子供たちは僕に 仕返し されるのが怖くてちょっかいを掛けない。丁度良かった。僕は子供と無邪気に遊んであげるほど無邪気な性格ではないのだ。そんなことをしている暇あったら の部屋にいって と本を読みたいものだ。


は僕らと同様に、食事の後に洗い物をもってくるようになった。毎日それは続きいつしか習慣のようになった。その度に僕にだけ は目を合わせて、口角をほんの少しだけあげて挨拶をかわしてくれた。それを子供たちが羨望の眼差しで見ているのは知っていた。

は東洋人だからという理由だけではなく、その存在自体が目立っていた。今まで引きこもっていた所為かもしくは元々なのか色白で、真っ黒 な髪の毛。僕と同じ黒髪だけど、柔らかくて日本人らしい黒色はしなやかで風になびくと綺麗に踊る。細くて背は僕らの中では一番高くて、素足のままぺたりぺ たりと歩いてくる姿はどこか野性的。
子供たちはいつしか彼を遠巻きに見つめるようになった。
女の子供は綺麗だの素敵だの言っていて、男の子供は口にこそ出さないが彼を目で追っている。
一番仲が良くて好かれていて話しかけられているのは僕なんだと思うと少し優越感にひたれた。


だから、僕はとても驚いた。
部屋で が貸してくれた本を読んでいたら、ボールが の部屋に入ってしまったわという声が外から聞こえたことに。
ぱっと外を見ると子供たちは少しだけ の部屋の開いた窓を見つめるが、 がでてくる様子はなく、直接部屋に行くしかないと呟いてバタバタと走り去った。

しばらくして、廊下からバタバタキャイキャイと騒がしい子供の足音と声がし始めた。僕に聞こえるのだから にだって聞こえている筈。
「私緊張しちゃう、だめ!」
「ぼくだってそうだ!」
なかなかノック出来ないでドアの外で騒いでいる子供に嫌気がさす。
煩いなあ。 にも僕にも迷惑だ。

(いっそ、ノック出来ずにボールは諦めて帰ればいいのに)

だがその願いむなしく、子供の一人が部屋をおずおずとノックした。


すると、すぐに部屋の扉が開く音がした。
流石に部屋にボールがはいってきたのだから は無視しないはずだし、あんなに騒がれたら扉をあけてボールを返すにきまっている。
けれど心の底では が子供たちを無視してボールなんて捨ててしまうのを期待していた。
はすごく優しいからそんなことはしないはずだけど、でも僕だけと会話をかわしてほしかったのだ。

「きみたちの?」
「う、うん」

の声と子供の声。
いくつか話を続ける 。子供たちの質問にはとても答えにくそうにどもっていた。
当たり前だ、あんなに騒がしいんだから、 は部屋にすぐさま戻りたいのだろう。

僕は子供たちの愚かな行動をくすりと笑い、部屋の壁にもたれかかり会話を聞いていた。



「トムとはなかよしだよね!?なんで?」「トムはこわいんだよ!」「やめたほうがいいよ!」「へんなことするんだよ!」「おっかないよ!」「トムには近づ かない方がいいよ!」

口々に今度は僕の悪いことを挙げだした。なんて汚いんだろう、と怒りがわく。
それでも、心の端で、 が余計な助言を受けて僕に接してくれなくなったらどうしよう、と不安になっていた。



ドキ、ドキ……と胸が鼓動する。


にそんなことを言うな……!)


こわい。 が僕を気味悪がるのなんて想像したくなかった。
 

「わからない」


凛とした声が響いた。
部屋の中に居た僕にもすっと聞こえるくらいはっきりと喋った。
子供たちの悪口は一瞬で止められ、辺りは静けさに包まれる。

「何を言ってるの?わからない」

冷たい声。今まで僕や子供たちと話していたのとは少し違って、ほんの少し震えている。
怒っているような声だった。

「もう一度、言ってごらん?」

優しい口調ではあったが、声がひんやりとしていた。僕の背中にぞくりと響く。
子供たちはだんまりとして、それからごめんなさいと叫んでから逃げて行った。

足音の中に扉のドアを閉める音はしなかったから、僕は部屋の扉をあけた。




……ッ」
「あ……えと」

(僕のために、怒ってくれたのだろうか)

ぎゅうって抱き付きたい衝動を抑えて、恐る恐る彼に聞いた。




「僕は、気味が悪いかな?」


(うん、と頷かないでくれますように)



「なんで?ぜんぜん……」
キョトンと首をかしげ、さっきとは全然違ったいつも以上に優しい声で、笑いながらまた口を開いた。



「かわいい」
"so cute."


かわいいだって?この僕が?子供扱いされているのだろうか。でも、でもすっごく、嬉しい。
が目の前で笑って僕を見て、言ってくれたことが。

思わず笑みがこぼれてしまった。



「あ、わらったね」
「え?」

抑えきれなくて見せた情けない安心したような顔に は頭上で呟いた。



「わらうの、かわいい」


「すっごく」

その瞬間、愛を感じた。
今まで感じたこともなかった、愛を、 は僕にくれた。
得体も知れない力をもって、ひねくれた性格で、友達なんて一人もいないような僕を愛してくれた。

涙が出そうになるのをぐっとこらえた。


だって、 は笑顔が可愛い、と言ってくれたんだ。笑っていなきゃ。

2010-07-04