ダンブルドアは、とある夏、ロンドンの孤児院を訪れた。
それはトム・リドルという少年に自らの出生を聞かせ、来年からホグワーツへ通わせるための訪問であった。孤児院の前に降り立つ髭の立派な老人、ダンブルドアは、顎と髭をするりとなで、ふむと呟いてから孤児院の門をくぐった。
事務的な扶養の孤児院とは聞いていたが力のこともあり、トムはさらに疎まれていたようだった。案内された部屋は、トムに与えられた個室だったが、そこはもぬけの殻だった。
「トムは・・おらんのかね」
どこかで遊んでいるのだろうか、と一瞬考え、案内してきたマグルの女性に尋ねる。
「ここにいないとしたら、きっと・・・」
少し女性は思案して、すぐ隣の部屋の前に立ち止まる。
トムの部屋をノックするよりも、ずっと緊張した面持ちで、目も少し泳いでいて息を吐き出すのにもすごく震えていた。そんな様子をダンブルドアは不思議に思いながら黙ってみていた。
「……はいる?」
コンコン……とノックをする音はとてもかすかで、中に聞こえるのかと思うほどだった。
ドアノブがゆっくりとゆれた様子に、女性は肩をびくりと震わせ驚く。
中にいる人物が恐ろしいとでもいうかのような女性の反応にダンブルドアも息を呑む。
「なに……?」
顔をのぞかせたのは、東洋人の少年。少年というには大人びていて、青年というにはまだ未成熟。不思議な存在感のある男の子だった。
はドアを開けた途端にいた孤児院の女性から一瞬だけダンブルドアに目線をよこすが何も見ていないという風にまた女性に目線を戻した。
ダンブルドアは、黒色の綺麗で少しだけ長い髪の毛の隙間から覗く神秘的な眸に捕らえられた一瞬がひどく長い時間に感じられた。
(なんじゃ……この子は)
子供とは思えぬ暗い色をした眸は、淀みなくまっすぐにこちらを見たのだ。ドキリ、と心臓が跳ねた感覚にダンブルドアは内心で驚く。
女性がしどろもどろに言葉を口にするのをただ黙って待っているをダンブルドアはじっと見つめた。
「あの……もし、ね?もしいなかったらとても悪いことをしたと謝るわ、……その……」
「……」
そんなことはいいから早く言えとでも言いた気な雰囲気にさらに女性は声を震わせてやっとのことで用件をしゃべる。
「トムはいるかしら……お客さんが見えてて」
「?」
「気を悪くしたらごめんなさい!でもトムに慕われてるから……!」
子供たちにはこんなに腰が低かった様子はないのに、に対してだけ丁寧にしゃべる女性にダンブルドアは違和感を覚えざるを得なかった。今までここの職員達は子供なんて疎ましいだけ、という態度で子供たちに接していたのだから。
「いる」
形のよい唇は、一言そう答え、ドアノブを放し部屋の中へ消えた。
ドアノブを放したはソファで本を読んでいるトムの近くへ歩いていく。
トムは今まで読んでいた本から顔を上げを見上げた。
「きみに、客だよ」
「めんどうくさい」
「いっておいで」
わけもわからない客に会うより、の部屋で本を読んでいたほうがよっぽど有意義だと思っているトムはふい、と顔を背けるが、のいっておいでという一言に本を閉じてソファから立ち上がる。
「またあとで、戻ってきてもいい?」
「うん」
の両手をぎゅっと握って顔を窺いながら尋ねると、はこくりとうなづいた。その答えに満足し、安心し、ほっと息を吐いてトムは部屋から出て行った。
2010-08-31