EndlessSeventeen


CapriciousBalloon 12(主人公視点)

ダンブルドア校長と思しき人が、トムを訪ねてこの孤児院に来たのはつい先日。トムの在学中はまだ校長に就任はしておらず、変身術の先生だった気がする。
トムは俺の部屋に毎日のように、というか毎日くる。それはもう習慣化していて、朝一番に朝食のトレイを持って俺の部屋に来ることから始まり、夕食を食べて各々書物を読み耽り、あくびが出始めたころ自室へ帰っていくことで終わる。もう同室なのと大して変わらない状況だ。
例に漏れず、ダンブルドアが来た日もトムは俺の部屋で薬草学の本を読んでいた。聞いたことのない単語ばかりが出てきて、面白いようだ。
魔法に関することが書いてあったとしてもトムは何も言わない。多分、そういう設定の本として認識しているのだと思う。
話を戻して、ダンブルドアが訪ねてきたとき自室にいなかったから俺の部屋に来たらしい案内役の職員とダンブルドア。


しぶるトムに行っておいでと背中を押す。話が終わったらまた戻ってきて良いかと聞く彼にもちろん、と頷くと、安心したような顔をして部屋を出て行った。




どのくらい時間がたっただろう。窓から見える景色は先ほどよりも日が落ちているようだった。
目と頭を休めようと本から顔を上げたとき、耳にノック音が届いた。


トムのノックの仕方はよくわかる。コンコン、と2回良い音がなるのだ。
トム以外は滅多にノックをしないということと、したとしても音がとても小さくて聞き取りづらい。だから時々気づかないこともあると思う。気づかないことにも気づかないから確かではないのだけど。


皆に対して言えることだけど、ノックをしたらすぐにドアを開けない。というか、自分からは開けない。昔自宅にいたときはノックしてから勝手に開けるかノックすらしない家族たちだった。
トムはノックをして、じっと扉の外でまつ。俺が本をテーブルに置いて、イスから立ち上がり扉を開けると緊張した面持ちのトムが外で立っている。

『終わった?』
『……』

話は終わったのかと尋ねるとトムは何も言わずに俺の懐にしがみついた。

『?どうした』
『……またくるって』

柔らかい髪の毛をなでると、トムは腕をはなした。少しだけ暗い顔をしていたけど、元気付ける言葉を知らないから、俺はこれ以上詮索することをやめた。

『そう』




数日後、またダンブルドアが来たらしい。
前々からこの日にくると決めていたようで、朝からトムは暗い顔をしている。というか客人来ると知っていたなら自分の部屋で待たなくていいんだろうか。トムはベッドに寝そべって本も読まずにぼうっとしている。


……トムはまた、こっちなのかしら』

ダンブルドアとかトムとかが不思議な力を持っているから怯えてるのか、わずかに震えた声の持ち主にこくんと頷いてから、俺の背中にぴったりとくっついて離れないトムに手を回し、隣に立つように促した。


『いきたくない』
『……しかしトム』
首をふるふるとふるうトムと困った顔でトムによびかけるダンブルドア。ダンブルドアが嫌いだっていうのは知ってるけど、そんなに一緒に話すのがいやなんだろうか。


困ったのう、と声を漏らすダンブルドアにちろりと目をやってから俺はまたトムに目をやり背中に回していた手をするりと肩に置き、身を寄せた。

『行っておいで』

『!』
『……』

トムはびくりと顔を上げて俺を見上げ、ダンブルドアは言葉を発しない。俺がなだめるのを待つようだ。
耳に唇を寄せ『大丈夫』と呟くと、トムは恐る恐る息を吐き出す。安心させようと肩に置いた手に少しだけ力をこめた。


『また、もどってきて……いい?』


不安気な眸を揺らめかせるトムに、俺はにこりと笑って頷いた。


『もちろん』
『じゃあ、いくね』



ドアを支え、ちらりと俺を見て少し笑ったトムにひらりと手を振った。

2010-09-01