EndlessSeventeen


おばけなんてこわくない 19(ぼーさん視点)

校舎の外から中を窺う様にカメラを設置し、しゃがんで重りを乗せているところに、影がさす。

「来ちゃった」
見上げると、へらりと笑ったの姿。





は、非常に怪しい人物だった。
パッと見、ただの高校生なので初対面で怪しいと思う人物は居ないが、俺の場合霊能者として会ったから相当浮いた人物に見えた。真砂子だって大して歳が変わらないという所も考慮するが、そもそもという名前の人物は”謎”と言われていたのだから仕方がない。さらに、知って行けば知って行く程、わけの分からない奴だった。発言の半分以上はまるで冗談みたいに軽く口にする。反面、神妙な顔つきで言うことは高確率で正しい。それから、幽霊を寄せ付けない体質だったり、真砂子以上に霊を視ること。呼び出したりすることは出来ないとは言っていたが。
全て分かっているような態度が、気に食わないと思う時もあった。そもそもこいつには言葉が足りない。
もっと説明してくれりゃ、すぐに解決する事もあった筈だ。けれど、はそうしなかった。自分の出る幕ではないと言うかのように口を噤み、時にはヒントを与え、時には俺たちの盾になった。



「滝川さん?あれ?俺の事わかるよね」
ナル以上に意味がわからないは、あまりに突然現れ、俺を愕然とさせた。
「お前さん、何でここにいんだ?」
俺は目の前で手をひらひらと振られ、我に返り口を開いた。

「ここ、俺の家の近く。キャンプ場のおばさんが東京からなんとかサイキック・リサーチってのが来てるっていうからさあ」
「お、なんだよ、近くなのか?」
ロッジ借りるよりの家に泊めてもらえた方が良いが、こいつの家がどのくらいの規模なのかは知らんので易々と口には出来ない。の姿が見えないなとの後ろを見てみるが、お留守番だそうだ。
「いやーこれはもう、運命だと思ったね」
ふひ、と子供みたいに笑ったを、しゃがんだまま見上げた。こうしてっとホントに子供っぽい。十七歳よりも若く見えるくらいだ。

「しかしまあ、これは酷いな」

俺を見下ろしていたは、今度はぐるりと校舎を見て目を細めた。うん、こうすると本当に人が変わったみたいに暗い顔する。一度無邪気に笑った顔を見ると、こういう顔は似合わないし、させたくないなとは思う。
見えすぎるっていうのも、考えものだ。真砂子も時々辛そうにしている。
昔は俺にも見えたから少しくらい気持ちを分かってやれると思ったが、長年見続けている人の精神を推量る事は到底出来ない。俺ができるのはぽん、と背中を叩いて労うことだけだ。
も参加してってくれれば早いんだがな」
「そー……だね、うん、この仕事は早く終わらせたい」
「お給料の請求はナルちゃんにしてね」
「そもそも俺はボランティア活動なので料金は発生しません」
がまた無邪気に笑って、俺の頬を両手で押した。ぶさいく、とさらに笑みを濃くしたので、俺も抵抗しての頬を引っ張ってやった。



「あんた神出鬼没なのも大概にしなさいよね」
「えええ、そんなこと言われても」
さすがに今回は自分の家の近くだという、本当の偶然である。綾子は驚いたあまり素直じゃないことを言うが、本当は純粋に会えた事は喜んでいる筈だ。はジョン程可愛気はないが、素直な弟という感じは強いから。
「はー、でもびっくり、あの噂の幽霊屋敷のくんが、くんだったんだね」
「世間狭いですねえ」
キャンプ場から少し山の奥に進んだ人気の無いところにぽつりと建つ家がの家らしい。麻衣は幽霊屋敷の噂があるのだとキャンプ場の職員から聞いたそうだ。しっかり、幽霊屋敷ではなくの家だと言われたらしいが。
「皆お昼は?そろそろ雨ふるよ」
「でも天気予報では……」
の発言に真砂子が眉をひそめる。山の天気は変わりやすいと薄暗い空を一瞥して苦笑いした。
たしかに、少し先の空が暗く、雨が降らないとも言い切れない。

「閉じ込められないようにね」

昼の買い出しに着いて来るは、麻衣たちにそう警告して車に乗った。こういう警告は大概あたる。そしてそれをすっぽり忘れてて、俺たちは買い出しを終えて校舎の中へ入ってしまった。
「あ、閉めちゃ……」
が振り向いた時にはもう遅く、俺たちはまんまと校舎の中に閉じ込められた。
「もっと早く言えばよかったね、ごめん」
「うんにゃ、俺たちも配慮が足りなかったわ……って頭数たりねーな」
丁度俺たちが入って来たあたりで走って来た麻衣たちの人数が足りない。綾子とリンの姿が見えず、首を傾げる。
手を放してしまったと悔やむジョンや麻衣を嗜め、とりあえず調査が先だと促す。綾子もリンもそう簡単にはやられないし、それならこの件を片付ければいい話だ。
「大丈夫、皆見つけてあげる」
が麻衣の頭をなで、安心させる声色で告げた。どうしてだか、なら本当に見つけてくれそうだ。

あやこちゃんおめでとう、というえげつない歓迎メッセージを見たあと、教室に入る。
天井に蠅が群れ、様子がおかしいということで確認すると、腐ったような香りがむわりと一気に広がった。
まさか死体がここに、と思っているとずるりと人間が、嫌な音を立てて落ちて来た。確認すると大人で、消えて行ったとされる子供たちではなさそうだ。あまり見たくなくてすぐに手頃な布で姿を隠して休憩をする。
「少年、水くれ」
「はい。あ、コップどれでしたっけ?」
「トリケラトプス」
綾子たちが選んできたコップは、一人一人柄が違う。
「うさぎは誰でしたっけ?」
「松崎さんですわ……」
しゅん、と萎んだ声で答えたのは真砂子。
「これ、あたしのだよ」
すっとうさぎのコップをとったのは、女の子。
「牛さんのはタカトくん」
そして牛のコップは男の子がとった。
マリコちゃん、と麻衣が親しげに呼ぶ子供たちは、俺たちが学校へ来る道すがら出会い案内を頼んだ子供たちだ。

「誰?」

そこで、凛とした声が響く。薄暗い教室内で、表情を変えずに聞いたのは
「ああ、途中参加だったもんなは。学校まで案内してくれてたんだ、こいつら」
「あたしはマリコ」
「ぼくはタカト」
「……そう、俺は
ちょっとの雰囲気が怖かったのか、二人はから離れて麻衣と真砂子の後ろに隠れてこっちを見た。珍しく愛想がないと思ったが、暗闇だからだろうとそのときは気にしなかった。
休憩もすぐに終わり、教室の中に何か手がかりはないかと物色して、次の教室へ移動する際、安原少年が教室から中々出ずにとどまっていた。

「なんで車が二台もあるんですか!?」

そう意を決して口にした瞬間、教室は火に包まれる。
ふと、の背中が目に入った。
「まってくん!!!」
「麻衣!」
追いかけようとする麻衣の声、それをとめる真砂子。は躊躇い無く教室に飛び込み、炎の中に、安原少年とともに姿を消した。



2014-03-13