龍は初対面の奴は大抵気に食わないと毛嫌いするタイプだが、は龍と初日から仲良さげにしていた。といっても本当に最初のうちは距離があったらしいが、午前中だけで十分に打ち解けたのだと思う。
を紹介されたとき、騒がしくない割には元気で、人懐っこい奴だと感じた。笑顔には裏表なさそうで、言ってる事が適度にちゃらんぽらんで面白い。無遠慮な奴ともとれたが、なんだかんだで俺たちの事を西谷くん田中くんなんて距離のある呼び方をして適度な距離も作っていた。
鳥養監督のことを知っていたようだから、俺たちはバレーに興味があるのだとすぐに分かった。半ば勢いで連れて行ったがも本気で嫌がっている訳ではなく俺たちに付き合いながら楽しんでいたと思う。俺と龍は当然のようにがバレー部に入る気がしていた。
そして本当には入部したが、選手としてではなくマネージャーとしてだった。
後で龍から聞いた話では、一年のときは怪我で入院をしていたらしい。
たしかに、日焼けしてない肌や華奢な体躯は貧弱だった。
昼休みにバレーに誘えば嫌々ながらも付き合ってくれたが、レシーブもサーブもトスもアタックもへたくそだった。当たり方が悪いし、すぐ痛がるし、どっか飛んで行く。ただし運動神経が良いからボールはよく見えていた。なのに何故良い所に当たらないのか俺には理解できなかった。
「もうやだよう」
すぐには泣き言を漏らした。跡がつきやすい体質だったらしく、痛々しく腕が赤く染まっていた。
「うおぉ!?、大丈夫か!」
「大丈夫じゃない」
体力も腕も限界、と頼りない顔で宣った。
龍も俺もその腕の赤さには吃驚して三人で水道へ向かい軽くアイシングすれば、はけろっとした顔で腕を仕舞った。もう大丈夫ーとへらへら笑うから、それを信じた。けれど次の日もの腕は赤いままだった。痛くないらしいが痛々しくてみていられない。
はたしかに瞬発力も運動神経も動体視力もありポテンシャルが高いが、身体が貧弱すぎる。体力も無いし。だから俺と龍の間では、こいつにバレーはやらせられないという結論に至った。
の抜群の瞬発力が発揮されても、先輩たちにはがバレーできないということをちゃんと説明した。といっても、本気でやらせようとは誰も思ってないだろう。貧弱で体力も無いことは周知の事実だから。
は人との距離を感じさせないタイプで、すぐに部員とは打ち解けていた。潔子さんとも普通に喋っていて、俺と龍は嫉妬を通り越して尊敬した程だ。
そういえば同級生の女子ともそれなりに仲良くしていたし、アイツは根っからのリア充なのかもしれない。
だからといってちやほやされる訳ではなく、ただ単に分け隔てない人柄を好かれているだけのようだった。
なんでも卒なくこなすしいつも笑みを浮かべているが、だからといって食えない感じでもない。笑みはどちらかと言うと頼りなくふぬけたもので、阿呆っぽいとも言えた。それに、体力ゼロでへたれていたり、龍曰く授業中に居眠りをして注意をされる所は人間味を出していた。
つまり、普通に良い奴って感じだ。
しかし時々、が普通の奴じゃないって思うときがある。
合宿が始まり一夜明けた朝からの練習中、は持っていたタオルを放り投げて急に走り出した。
すごいスピードで、駆け抜けたと思えば身を屈めて転がっていたボールをの足が払いのけた。そこにはジャンプから着地した月島がいて、あと少し遅かったら月島がボールを踏み転んでいた筈だ。
「あぶなかったー」
凄く疲れたらしく肩で息をして、額の汗を拭ったはよっこいしょと声をかけながら立ち上がる。
「……ありがとうございます」
「いーえ。怪我が無くて良かった」
ぶっきらぼうに月島が礼を言うが、は平然とした顔で応えて、自分が弾き飛ばしたボールを拾いにいった。
「よく見えたな……」
投げられたタオルは傍に居た俺と鳥養監督が一応拾った。圧倒されたのかぎこちない表情で監督は呟く。俺も見えてなかったし、見えてたとしても間に合うかは定かではない。瞬時に判断して走り出さなければない合わないからだ。
ついでにいくつかボールを拾ってから籠にいれて、は小走りに俺たちの元へ戻って来る。
「あ、タオルすんませんー」
「おう、ご苦労さんな」
「西谷くんもありがとう」
「すごいな、!速かったぞ」
時々は驚く程格好良い。
潔子さんをすんなり送って行くなんて偉業を成し遂げる程だから実際凄い奴なんだとは分かっているが、目の当たりにすると本当に感心する。
「すっげー!!見た?影山今の見た!?」
翔陽は遠くで興奮して影山のシャツをぐんぐん引っ張っている。引っ張るなボゲと暴言を吐きながらも影山は翔陽と同様興奮した眼差しでの方を見ていた。
「翔陽は影山くんの邪魔しなーい!練習続けなー!」
俺の隣にいたは伸びやかに反対コートに居る翔陽を嗜めた。いつの間にか翔陽と下の名前で呼んでいるが俺も初対面から翔陽と呼んでいたからおかしいことじゃない。ただ冷静に考えると、にしては親し気だと思った。
多分翔陽がそう呼べと言ったから素直に呼んでいるのだろう。他の一、二年は苗字に君付け、先輩たちには苗字に先輩付きだから翔陽が浮いている。コミュ力高いなと鳥養監督もそれに気づいて笑っていた。
2014-08-18