大分前によかれと思ってOZの話を当時仲の良かった友人に話した。こういうSNSなんてのがあったら楽だろうなと。実際あんな膨大なネットワークシステム作れるはず無いと思っていたし空想上の物だと思っていたんだ。
この世界すら空想なのだから、出来ないことなんてなかったのに。
あれよあれよと言う間にその友人に誘われOZを作り上げてしまった。
嘘が本当になるようなものだ。関係のない世界だと思っていたのに、まさか原作だったようだ。
OZの完成直後俺は十八歳になろうとしていて、そろそろ違うところへ行ってしまうことになっていた。
立ち上げたばかりの会社は友人にまかせ、家族に不幸があったのだと嘘をついて消えた。
02.帰って来た魔法使い
帰って来たのはそれから多分五年後くらい。普通にOZアカウントが起動されたから友人は驚いて家に駆け込んで来た。今まで何処行ってたんだよと心配されたけど遺産相続問題がな、と適当な嘘をついてごまかした。そういうの信じちゃうところが大好きです。
「ていうか童顔?」
「童顔なんだよ」
永遠の十七歳なの、と言い聞かせて久しぶりに会社に足を踏み入れると創設時のメンバーが驚いた顔をして、大多数の知らないメンバーはきょとんという顔をしていた。
社長の隣に居る子供は誰だと、視線が物語っている。
「みんな!!! が!!!!オズの魔法使いが帰って来た!!!!!」
隣の友人はフロアに響き渡るくらいの大声で叫んだ。
なんだそのネーミング。
呆けていると初対面のスタッフまでもわき上がっている。どういうことだか理解できないまま、オズの公式アカウントでも魔法使いの帰還が発表された。
数時間後の夜、テレビのニュースで流れていた時はコーヒーを吹いた。
社長である友人がアカウントでインタビューに答えている。暫く席を外していて音信不通だったけれど彼が帰って来てくれた。これでOZは安泰である。とか言っている。
その直後管理システムのデバッグに追われた俺は三日間ろくに睡眠や食事もとらずに久々のプログラムとにらめっこをしたのであった。
「お疲れさまです、 さん」
ようやく片がつき、顔を洗い部屋に戻る最中後ろから女性の声がした。
そのとき、パンの香ばしい匂いがふんわりと香り今まで活動を停止していた腹が少しだけ動きだす。これから眠ろうとしてたのに。
「おはよう……莉子」
「まだ深夜の三時ですよ」
社長の奥さんである莉子は創設時から奴の彼女であり俺の友人でもあった。
「腹減る匂いするからどっかいってえ……しんじゃう」
「あら、持ってっちゃっていいんですか? さんにもってきたのに」
「莉子だいすき」
ぎゅっと抱きつくと背中をぽんぽんと撫でてくれる。シャンプーの香りとパンの香りが最高に癒される。ありがとう、人妻。
「コーヒーも買って来たんですよ、うれしいでしょ?」
「ありがと」
ぎゅるぎゅるとお腹が音をたてて、渡された紙袋の温かさに胸までほっこりと温まる。いままでやたら熱を持つパソコンとにらめっこしていた所為で人の温度がちょうどいい。
これ食べたら明日は一日中寝ようと心に決めて、莉子の頭を撫でた。
「一見高校生のくせして、実は大人っぽいですよね、 さんって」
「一見小学生みたいな莉子にいわれたくないなあ」
「パン没収しますよ」
ごめんごめんと謝ると頬を膨らませる。そんなことしたって子供っぽく見えるだけだよ。
「莉子ももう寝な、身長のびなくなるよ」
「私のこれは遺伝だし今更身長なんてのびません!……もお〜おやすみなさい、 さん!」
「うん。おやすみ」
昔もこの世界には来たことがあった。同じ世界かは定かではないけど、きっとどこかでつながっているはず。
OZを作ったときではなくて、もっともっとずっと昔のことだ。
この夏おこる戦争の、たった一人の死者に、俺は会ったことがある。栄おばあちゃん、いや懐かしの友人、栄。朝顔畑を思い浮かべながら俺は部屋を出た。
一時間後OZアカウントで部屋に居ない俺に言及するダイレクトメッセージが来てたけど、友人が危篤なのだと半分の嘘をついて携帯の電源を落とした。
今はもう、新幹線の中だった。
2013-08-06