「だれ……?」
七分丈のカーゴパンツに、左足に包帯を巻いている足を投げ出した格好。細い両腕で顔を半分隠すように自分の頭の下に置いて、真っ黒な髪の毛が床にゆったりと散らばっている。
猫みたい。と思いながらずかずかと部屋に入ってとりあえず台の上にパソコンを置く。
06.納戸の猫
うちは家族が多いから知らないうちに親戚が居たのかもしれないし、誰かの連れかもしれない。とにかく得体が知れないので起こして聞いてみようと思って肩を揺さぶってみても起きない。
こんなひょろっとした人どうもしないかなと諦めて、試合の準備を始めた。
ヘッドホンをして、キーボードを打鍵する音が納戸にこだまするけど昼寝中のお兄さんなんて知らんぷりした。
「強いねえ」
「!」
WINNERと画面に出てふうと肩の力を抜くと、寝転がっていたお兄さんが肘をついて僕のパソコン画面を見ていたことに気付く。とたんに肩に力が一瞬ではいり、びくりと震わせた。
驚かせてごめんと苦笑いされたけど、驚いた自分が恥ずかしくて別にとそっぽ向いて答えながらヘッドホンをずらす。
「キング・カズマがこんなに若いとは思わなかった」
「別に」
それよりお兄さんだれ。と見下ろすと、名前だけ教えてくれた。そういうんじゃなくてさ。
「ちょっとぶらり旅してたら怪我しちゃってね。栄さんがここに泊めてくれてる」
僕が不満そうにしていると、 さんはそう言った。
「こんな忙しいときに万里子おばあちゃんがよく許したね」
「俺栄さんの友達だから、誕生日祝って行けって言ってもらったんだ」
「大ばあちゃんの?」
「昨日花札やったら友達になったよ」
「はあ」
なんだかこの人と話してると疲れる気がする。言ってる事は多分間違ってないんだろうけどマイペースすぎてついていけない。
「本当は手伝いしようかと思ったんだけど足を怪我してるし、お客さんだからって遠慮されちゃったんだ」
だから納戸で昼寝していたわけだとこっそり納得していると さんの携帯がバイブ音が鳴っている。気づいていないのかと思ったけどずっと鳴り続けているそれをおそらく さんは無視していて、僕は光るポケットに視線をやる。
「でないの」
「……でるよ」
ぴ、と通話ボタンを押して耳にあてると、急に英語を喋り始めた。
その様子にぎょっとして思わず見下ろすと、 さんと目が合う。うるさかったかな、というようなばつの悪そうな顔をして、 さんは片手を上げて立ち上がって納戸を出て行った。
流暢な英語を聞き取れるわけもなく、僕はぽかんとしながら彼を見送ったのだった。
「すげえ……」
2013-08-06