でも、みんなでご飯たべたり、たくさんの人に囲まれたにぎやかな広い家がすごく好きになった。ここに来られて、よかった。
08.年齢未詳と未成年
夕食の時間、皆で長いテーブルの前に勢揃いしていると佳主馬は?と誰かが言い出した。母親らしき、お腹の大きな女の人は後ででいいって、と苦笑いをする。
「 さんはどうしたんだい」
今度は、先ほど挨拶をした大おばあちゃんが誰かに尋ねた。夏希先輩の隣の隣にいた眼鏡の女の人がさっき電話中だったから知らせてないのと言う。
さんって、誰だろう。夏希先輩も首を傾げている。
「シャラァップ!!!!」
夏希先輩も知らない人ですかとこっそり聞こうとしたら、その場の空気をばっさり、凛とした声が斬った。
「!!」
びっくりして固まったのは僕だけではない。その場にいた人皆がぴたりと動きを止めて声のする方を見る。僕から見て右側からこの部屋に入って来たところだった。
黒髪で黒い眸をした普通の少年で、不機嫌そうな顔をしている。一瞬きょとんとしてから、すぐにまた眉間に皺をよせて携帯電話にむかって英語で何かを話し、乱暴にスイッチを切った。
電話をしていたと言っていたから さんという人なのだろう。
「大変失礼しました……えと、初めましてー」
さっきまでの怒っていた顔とは全然違う、人の良さそうな笑みをへらりと浮かべて さんは挨拶をした。ここの家の人は皆挨拶をきちんと返す人で、わけもわからずとにかく初めましてと声を揃えて口にする。
それが僕らのファースとコンタクトだった。
一家を紹介されてほとんどきちんと覚えられなかったけれど、 さんは確実に覚えた。陣内家の人ではないようだけど。
僕の事はもうすでに紹介してあって、あとは さんだけだった。
「みんな、疑問に思ってたことだろうが、彼は さん、私の友人だよ」
「どうも、 です」
「ちょっと捻挫をしてしまってね、しばらくうちに泊めることになった」
困っていたら助けてあげなさい。と大おばあちゃんが さんの紹介をしてくれた。こんなに歳の離れた友人関係があるのかと疑問に思ったけど、事情を知っている理香さんという人が食事中に教えてくれた。
「彼旅行に来てたんだけど、昨日ハヤテに飛びかかられて怪我しちゃったの」
「へえ、あのハヤテが」
理香さんの弟の理一さんは珍しいことのように眉をあげた。
「そ。で、おばあちゃんと意気投合っていうのかね、気に入ったみたいよ」
「そうなの?珍しいね」
夏希先輩はきょとんとしてから、 さんをみやった。 さんは僕らの視線に気がついてにこりと笑って、その笑みにどきっとする。目が合ったからって自然に笑いかけられる人って少ないと思うんだ。
「うんまあ、いい子よ。マイペースだけど」
「へえ〜。いくつなのかな。同じくらいよね?」
「 くん、おかわりは?」
「あ、大丈夫です。おかずがいっぱいあるから」
理香さんとは反対の さんの隣に座っていた、僕が最初大おばあちゃんと間違えたおばさんは孫を可愛がるかのようにご飯を勧めていて、 さんはへへへと子供っぽく笑った。この人は、色々な顔を持っているんだな。
にぎやかな夕食の後、一休みしていると佐久間から電話がかかってきた。人がたくさんいる食卓で普段通りに話すのが照れくさくて、少し部屋を離れた。
そうしたら道に迷ってしまって、なんとか明かりのついた部屋を見つけて覗き込む。
「あれ、佳主馬くんに用事?」
ブルーライトに照らされた少年の後ろ姿を覗いていると、僕の肩をぽんと叩かれる。びっくりして肩が跳ねた。ごめんごめんと苦笑したのは さん。
「何か用」
僕たちが喋っていた所為か、シャカシャカと音を漏れるくらいの音量で音楽を聴いていた少年が不機嫌気味に振り向いた。
「いや、なんか迷っちゃって」
「USB持ってる?佳主馬くん」
「トイレなら戻って右。SDならあるけど何に使うの」
僕と さんはそれぞれ用件を言う。そっけなく返されて僕は大人しく黙るけど、 さんは理香さんが言ってた通りすごくマイペースに、邪険にされているのを全く気にせず佳主馬くんに声をかけ続ける。
「ちょっとデータ移動させたいだけ。エッチな画像でも入ってる?内緒にするよ?それとも足しておこうか?」
「ば!!!!!っかじゃないの!!!!」
「痛っ!」
ぶん!と投げつけられた薄っぺらいSDは さんの頬にぺちんとあたり両掌でなんとか支える。
「そんなに怒らなくても」
「空っぽだから好きにすれば」
「ありがとうね」
「君は、みんなのところへは行かないの?」
さんはマイペースのうえ、多分天然で人をおちょくってる。佳主馬くんは深いため息を吐いて、またヘッドホンをしてしまった。僕がした問いには答えてもらえない。
さんが僕の肩に手をおいて引き寄せるから、何も言わずに さんと一緒に廊下を歩いた。
その後、廊下を裸で走って来た小さい子に遭遇したと思ったら、バスタオルで大事なところは見えなかったけど裸の夏希先輩もでて来て僕は慌てて謝る。 さんはのんびりと気をつけてと笑っていて、失礼ながら見慣れているのかなと さんの横顔をちらりと見てしまった。
「お風呂、入っちゃって?」
「はーい、一緒に入ろうか健二くん」
「え?ぼく、あの、きょうは!えと!遠慮しようかと……!!」
結局僕たちは一緒にお風呂に入る事になりました。
おまけ
「そんな畏まらなくてよくない?同い年くらいでしょう?」
「ん?えと、 さんっていくつですか?」
「えーと…………十七歳」
「あ、僕もで――――あ、いや、ちが、えと、僕は……ぁぅ、その、いくつだったかなあ……」
「忘れちゃったの?自分の歳」
「はい、えと、その……はい、忘れました」
「あははははわかる、俺も本当に自分が何歳なのかとかわかんない」
「え?」
「え?」
あれ?
2013-08-09