EndlessSeventeen


夏色のくじら(主人公視点)





俺のセキュリティーが無敵な訳でもないし、ラブマシーンを潰せるほどの能力も無い。だから俺は見守ることと、手助けする事しかできなかった。助言をできればと思い、少し手をかしたにすぎない。あとはもうOZの管理者として動いただけだった。

侘助くんが、俺のOZをぐちゃぐちゃにしたと、謝った。けれど俺は侘助くんに対して怒りなんてなかった。OZは大切な家族だけど、この戦争は誰かが意図してやったことではなく、ただ間違いが起きてしまっただけなのだ。
コンピューターを責めようとも思わない。
俺はただ、自分の作ってしまったOZと、OZの中に居る人々を守るだけだ。

「侘助くんも、俺の家族だよ」





19.夏は戦争





俺は花札も、ラブマシーンの解体も、暗号の計算もできない。だからアカウントの皆にオズの魔法使いとしてメッセージを送った。

俺たちの家族を守る為に夏希ちゃんが立ち上がってくれた事、俺の魔法は万全ではないから、みんなの力が必要な事。夏希ちゃんに助けてもらいたいから、どうか夏希ちゃんを助けてほしいと、オズの魔法使いとして送ったのだ。
この時ばかりは目立つアカウントでよかったと思った。

一番に名乗り上げてくれたのはドイツ人の男の子だった。ありがとう、とメッセージを送ると、こちらこそありがとうと答えてくれた。
世界はあたたかい人々で溢れている。
冷たくて呼吸もしていないラブマシーンに、世界をあげることはできない。

「夏希ちゃん、俺の大事な家族を守ってください」

(この世界は俺のものでも、お前のものでもないよラブマシーン)

でも、OZは俺が作った世界で、俺の家族だから。


それからはほとんど俺の知っている通りの流れだった。少しでも被害が少なくなればと、カウントダウンが止まってないことをいち早く言ったけれど、もともとの被害と大差なく終わった。
門が大破して家も少し壊れて、大きな穴が開いて、温泉が湧き出て、みんな怪我もなく生きていた。
近くにいた夏希ちゃんと健二くんを引っぱりこんで頭を隠したけど、その上からさらにおじさんたちが匿ってくれたから俺たちはほぼ無傷だった。

温泉が湧き出て、虹が出ているのが、綺麗だと思った。

それから陣内家は片付けに奔走したけど俺は相変わらず捻挫とOZの復旧があるのだろうからと手伝いは丁重にお断りをされた。そしてたくさんお礼を言われた。OZの魔法使いだった事に関しては太助さんが凄くテンション高めに聞いて来て同じくらいモニターの向こうから佐久間くんが声を上げていた。
「佐久間くんもありがとう……遠いところからこんなに手伝ってもらって悪いね」
「いえいえ、そんな!っていうか俺オズの魔法使いに褒められてる!」
「うん、その腕欲しいな〜大学卒業したらOZ受けてみなよ」
「ガチですか!?」
「ん。ドロシーにも今回の活躍は伝えます」
「やったー!!!!」
後々、健二くんと佐久間くん、あとは陣内家の皆様にOZ本社からお礼状をお届けします、と伝えると隣で聞いたいた健二くんも照れて頭を掻いた。今回の事は未然に防げなかったOZの失態でもあるから。

そして俺は片付けが落ち着いて夕食になるまでドロシーとやり取りをしながらOZの復旧にあたった。
ドロシーには早急に帰って来てほしいと頼まれ、俺はその日の新幹線の時間を調べておいた。八時に出ればいいかと思いながら、夕食が出来たと呼ばれたので俺はノートパソコンを閉じた。
もう何も心配することはないのだと、陣内家の大人の人たちは楽しそうにお酒を飲んで、子供達は笑顔を浮かべていた。相変わらず佳主馬くんは仏頂面だけど。

侘助はこの後どうするんだ、と万助さんに尋ねられ、出頭すると宣言した。たしかにそれ相応のことをしてはいるのだけど、出頭すると聞いたときは皆目を見開いて驚いた。
「飯食ったら行くわ、悪かったな」
ちょっとハヤテの散歩行ってくるみたいなニュアンスだ。
「あ、何時?俺も途中まで一緒に行くよ。夜の便で東京に帰るからさ。お世話になりました」
またも、皆が驚いた。
まあ確かに帰るにしては唐突だったかな。

さん帰っちゃうんですか?」
「社長命令。事件中はこっちが現場だったけど、もう事件収束したからあっちで復旧」
「大変だね……でもおばあちゃんの誕生日会は……」
健二くんと夏希ちゃんが恐る恐る、首を傾げる。
「栄さんは親戚ではないから公休は取れないんだ。今までも結構勝手に飛び出してたことあったから今回ばかりはね」
頬を掻きながら二人にゴメンネと謝った。
くんには沢山お礼をしたいのだけれど」
「十分です。忙しい時期だっていうのに暖かく迎えてくれた。こんなに大人数でご飯をたべられて、とても楽しかった」
万里子さんは困った顔をしたけれど、お礼なんて俺には必要ないと思った。
もともと問題を起こしたのはOZと米軍だ。それを収束してくれたのが陣内の人々だったのだから。

「ご迷惑をお掛けしました。いずれきちんとお礼に来ます」

食事を終えて、家族全員が見送ってくれる中、俺と侘助くんは家を出た。


2013-09-23