EndlessSeventeen


OrangeSplash 03(主人公+京平視点)

学級日誌とか久しぶりに書いたし、黒板消したのもすごく久しぶりで新鮮。特有の埃っぽさとか、不健康っぽさとかが懐かしいなとか思って日直の仕事を 終え た。
学校生活も楽しいものだなとかひとりごちて職員室から出ようとすると、授業担当の先生に声をかけられた。たしか日本史の先生。

「何ですかー?」
本の束を抱えているから予想はできた。多分運ばされるとかそういうことだ。
「これ二年の教室に配っといてくれ」
有無を言わさず俺の胸に本の束を押し付けた。束は昨年度求人票一覧とか進路雑誌だとかだった。面倒くさいけど時間あるし別にいいかなと思って先生に何も言 わずに踵を返した。
ドアを開けるのは案外難しくて、四苦八苦しながら職員室から出た。

2年のクラス分だとしても、三冊ずつあるものだから一人で持つと結構高さがある。重みには耐えられるけど、不安定にはなった。階段をのぼりきり、二年フロ アについた俺はほう、とため息を吐いて角を曲がった。
どん

「うお、っと」
「あ、ごめんなさ……ッァアー!」
どさどさどさ
影から現れた人物にぶつかり、持っていた本をばら撒いたしまった。

「わりっ……あ、」

俺のことを避けていこうとした人物は俺が落とした本に気がついて足を止めて戻ってきた。
オールバックで学ラン姿の少年。門田京平の模様。
「いやいや、俺こそごめん」 本を一緒に拾ってくれて、半分持つと言い出した京平。
「時間大丈夫か?急いでたんじゃないのか?」
京平は小走りで走ってきたから俺は急いでいるのだと思ったんだけど。
「いや、友達と待ち合わせてただけで」
「え?……それはやばくないか」
一番最初のクラスに入って冊子を置きながら尋ねると京平は友達を待たせているという。それは一緒に配っている場合ではない。

「いやさっきメールしといたんで」
「でも急がないとなあ」
教室を出て次の教室に入り冊子を置く。
「遊びに行くんだったのか?」
「いや、ただ単につるんでるだけで」
ファストフードの店行くとかそういう理由っすと呟いて、京平は次の教室に入った。

「あと2つだからさ、いいよ」
「でも」
「店に友達いるんじゃないのか?」
「あー……いやまあ……もう帰ったかも」
ぽり、と頬をかく京平。うそ、じゃあぼっちじゃん。
俺に付きあわせちゃったからだ。

「マジか!じゃあ今度お詫びに奢る」
「え、いいっすよ」

京平の手から冊子を取って小走りに次の教室へ向かいながらぶんぶん手を振って分かれた。





「先輩!……名前!」


遠くから聞こえる京平の声。教室に入る前にぴたりと足を止めると京平は手を口元に寄せて「名前ー!」ってもう一度言った。



!じゃあな、門田」




***




「ドタチン」

このふざけたあだ名で呼んでくるのは今のところ臨也だけ。
初めてこのあだ名で呼んだやつは、昔1回だけ拾った迷子の年上の男だった。高校生くらいのなりで、しゃべりかたは子供みたいに無邪気だった。歩いてて気が ついたら此処にいた、でも迷子じゃないよと、すごい勢いで迷子を認めないやつだった。年上のはずなのに同年代のダチみたいだった。

「ドタチン、ドタチン」
「うるせえなァ!」
しつこい臨也に肘鉄をした。
「今日マック行こうぜ」
静雄に提案され皆で頷いていたが、帰り際に担任に話があると呼ばれ、少し遅れた。
新羅や静雄は先に行ってしまい、小走り気味に階段へ向かうと、影から人が出てきてあわてて避けたが少しぶつかる。謝りながら走っていこうと思ったが、相手 は荷物を持っていたらしく、バサバサと何かが落ちる音がして俺は本を拾うためにしゃがんだ。

「ごめんな」
眉をたれさせて拾わせたことに謝る目の前の細身の男は、こころなし迷子のアイツに似ていた。
なぜか俺は手伝うと言っていた。一度は断ったソイツは、俺が荷物を返さずに頑なに手伝うというとわるいな、ともう一度謝る。
どうやら先輩らしい。
持っていた資料は2年の各教室においてまわるようだ。普通各クラスの委員が取りに来るもんじゃねえのか、と思ったが。

となりでにこにこしている先輩は、友達と待ち合わせをしていたと言うと今度は心配そうな表情を浮かべる。ころころと表情が変わる。なんか幼い。


あの時の迷子のあいつも、年上なのに放っておけなくて、弟みたいだった。
先輩も年上なのに、なんか心配だった。だから手伝うなんて言ったんだろう。




「おわびに今度奢る」

言いながら教室のほうへ一人で向かっていった先輩。

『また今度遊んでね京平』

迷子が元気に笑って走っていった姿と類似して見えた。
遊んでねと言っておきながら、あれから一度も会っていない。名前も聞きそびれたアイツ。

とっさに口から出たのは引き止める声。


「先輩!……な、名前!」


名前を教えてほしかった。
同じ学校だから会える気はしたけど、名前を聞いておかなくちゃならない気がしたんだ。

!じゃあな、門田」

ぶんぶんと手を振ってから教室に入っていった 先輩。


迷子のアイツなら、京平って呼ぶし、そもそも一つ上のわけがない。でも笑顔もしぐさも表情も少し似てた。
仄暗い道で聞いた笑い声も、ネオンに照らされた笑顔も。何年も前の1度だけ見たやつだったけど、似てた。雰囲気っていうのが一番しっくりくる。





聞いた名前を口の中でかみ締めて、俺は新羅たちにメールを打った。

まだ店にいるなら合流しよう。

2010-11-04