EndlessSeventeen


OrangeSplash 06(主人公視点)

昼飯時、久々に購買でパンを買って、俺はどこで食うかなと思案してから学生なんだから王道的に屋上だよね、と思い立って階段を上った。
普段一緒に食べている友人には断りをいれてあるし、今日はセルティにメールでもしながらご飯食べようかなとニマニマしながら屋上へ向かう扉を開けた。

「「「「……」」」」

屋上には人があまり近寄らないと聞いた。それは多分こいつら問題児の吹き溜まりだと噂が流れていたのだろう。
扉を開けて一瞬静まった。見覚えのある1年生の4人組みがぽかんと口をあけたまま俺を見上げ、俺もぽかんと口をあけたまま見下ろした。

「先客か、しつれい」
「あ、 先輩」
もうすでに咬みついていたパンから口を離して、冷静を装って扉を閉めて引き返そうとしたが、一番ドアの傍にいた新羅が俺を呼んだ。
小さな牛乳パックのストローを加えたまま固まった静雄や俺と同じようにパンを加えていた臨也は動かず、京平はちわっす、と挨拶をした。
「久々新羅。門田も!じゃあな」
手を上げてドアを閉めようとしたが、ドアが動かない。
ミチリ……
鈍い音がして見下ろすと、静雄がドアを握っていた。あの、ちょっとへこんでるんですけど。

「平和島と折原も一緒かあ。仲良しだねえ」
さすがに引き帰す流れじゃなくなり、新羅も隣どうぞと促すので俺は新羅と京平の間に座った。
しかしあれほど凄まじい喧嘩をくりかえす臨也と静雄が大人しく同じ場所で昼飯を食っているなんて珍しい。
京平や新羅が歯止めになっているのと、まだ臨也がそこまで静雄を怒らせていないからなのか。いやでもめちゃくちゃ怒ってたような。原作よりはマシというこ とで自分を納得させて、とりあえずパンをもしゃもしゃと食べた。

先輩朝食べました?ちゃんと」
「たまごかけごはん」
「少なっ!そんなんで足りんすか?」
「あれほど朝はちゃんと食べなさいって言ってるのにたまごかけご飯だってぇ!?!?」
新羅の親口調と京平の突っ込みの中、臨也も静雄も会話に加わろうとしない。

「新羅はあいかわらず……もー……俺のママか」
「どちらかというとパパさ!ママはもちろん―――」
セルティだね、と呟いて新羅のキラキラした笑みに苦笑いをする。

……先輩、は、新羅と知り合いなんですか」

ようやく静雄がたどたどしい敬語で俺たちの会話に加わる。

先輩と新羅は隣人なんだよ?そんなことも知らないのー?シズちゃんってば」
「テメェ!」
「臨也!静雄を煽るな!」

臨也の小ばかにしたような笑みに静雄が拳を握って、京平は臨也を窘める。


「まあ俺も最近まで新羅が隣だって知らなかった」
「恥ずかしながら僕もだよ」
「親しげに名前呼びなのに?」
笑いながら言う俺たちに、臨也が首をかしげた。

「ああ……」
新羅が困ったような笑みを浮かべて俺に答えを促した。


「新羅とは昔ね、会ったんだよねー」
「旧友ってやつか?」
京平の言葉に新羅がそんなとこ、と頷いた。
「新羅が小学生の時に会ったから名前呼びのまま」
最初は岸谷って呼ぼうと思ってたんだけど俺のこと思い出したから名前で呼ぶようにしている、というのは口の中だけで転がす。

買ってきたパンを食べ終え、こぼしたパンくずをパンパンと払った。
「俺そろそろ教室もどんね」
「え、もうっすか?」

敬語に慣れてきたのか静雄が俺に反応をする。心なし寂しそうな犬みたいで頭をもふもふしてやりたくなるのを我慢して苦笑いを浮かべた。

先輩の次の授業移動じゃないですよねえ、そんなに急がなくてもいいんじゃないですか?」

臨也が静雄側にまわるなんて、そんなこと有り得るのかと驚いてしまった。
ていうか何で俺のクラスの次の授業まで把握してるんだろう。

「こらお前ら……先輩にも用事ってもんがあんだろーよ」

さすが京平。俺の弁護をしてくれた。

「急ぎの用でもあるんすか?」

しかし京平も俺を引き止める側だったようだ。気にせずどうぞ、とはいわずにどうして行ってしまうんですかと来た。後輩三人に引き止められてしかも特に理由 がないから帰りづらい。

「ここに居ればいいじゃないですか」
とどめに新羅のひとこと。
「はあ、まあ……そーね」

立ち上がりつつあった体を大人しく座っていた体勢に戻して大人しく定位置についた。


それからと言うもの、昼休みになると1年4人組みのどれか、もしくは皆して俺のことを教室まで呼びにきて一緒に飯を食うことになった。
すっかりクラスメイトには遠巻きにされてしまった。

「新羅の卵焼きが食べたい」
「いいですよ」
「うめー」
新羅のお弁当は新羅が毎日作っているらしい。いい嫁になるな。
「先輩俺の菓子パン食べますか」
卵焼きを口に入れたままもごもごしている俺に臨也が食いかけのパンを差し出される。
すげえ笑顔でちょっと眩しい。美少年怖いよう。
「え、いや……え」
「チョコレート嫌いじゃないんでしょう? 先輩」
俺の好物まで熟知していらっしゃった。確かにチョコレートは好きですけど。なにこの人ストーカー?そういえば俺の住所やっぱり臨也にばれてたみたいだし。 超怖いこの人。
差し出したまま動かない臨也。いただきまあす・・と、か細い声で呟いてから恐る恐る小さく一口齧り取ると、臨也は満足そうにパンを引っ込める。

「先輩、牛乳のみますか」

今度は静雄の番で、いつも飲んでる青色が特徴的のすがすがしい牛乳のストローから口を離して俺をみつめる。臨也は眉目秀麗って言われてるけど、静雄は男前 だなと心の隅で思った。
口の中をチョコレートが独占していたので口直しにとストローに吸い付く。一口ごくりと飲んでストローからぱっと口を離すと、静雄も臨也みたいに満足そうに また牛乳を飲みはじめた。

「あ、シズちゃん間接キス」
「ぶっ!」
臨也のしょうもない茶々に牛乳を噴出しかける静雄。こいつら仲良しだな。
「臨也とだってしてんだろ」
「そーだね、シズちゃんよりも先にね!」
京平が呆れ気味に呟くと臨也はにこにこしながら静雄より先を強調。
キレそうになる静雄にまあまあとなだめる。

「なに?俺の唇狙ってんの?おおこわい」
冗談を言いながら自分の食べかけのパンにかぶりつく。
「俺の唇は俺だけのものだ。やらんぞ……」


2010-11-18