EndlessSeventeen


OrangeSplash 08(主人公+臨也視点)

次の時間は自習だってーと誰かが教室で言った。その言葉は一瞬で広まりよっしゃーと喜ぶ声に変わった。ゲームをやりだすものも居れば眠るものもい て、本を読んだり近くの友人と話したりと好き勝手し始める。俺は問題児たちと友人になってからというもののクラスメイトから一線ひかれるようになっていた ので、楽しいはずの自習時間にやったなあと喜びを分かち合え る友達がここにはいなかった。自習だから別に何処行ってもいいかな、と思っておもむろに教室をでる。それを引き止めるものもいなかったし、目があうものも いなかった。

急に眠たいなーと思ったので保健室のベッドを借りようと足を保健室に向けたが、途中ではたと気づいて足を止めた。
そうだ、この前静雄がのこり1つのベッドをぶっこわした。(初めて会ったときに壊していたベッドは発注途中)
なんでも臨也がベッドですやすや寝ていたんだとか。安眠妨害もいいところだけどやつらはそういう死線の中で生きているのだから俺がどうこう言う問題ではな かった。
まあ一言言わせてもらえば俺のベッドをかえせってところか。俺のじゃないけど。

わりとどこでも寝られるタイプなので日の当たる場所を探した。人気がなくて日当たりが良いところっていったら、図書室か屋上か。どこも昼寝にもってこい だったけど、図書室に行ってみたら人気があった。本を使って調べ物をしながら授業するみたいだ。
じゃあ屋上にと思い階段をのらりくらりと上がっていく。重たいドアを開けてみると思った以上に良い天気の空が広がっていて、今日は昼寝日和だなあなんてハ ミングをする。

人が入ってきても気づかなそうで、あったかい場所を探してごろんと寝転がる。自分の片腕を枕にして眠る体勢を作るとすぐにトロンと瞼が落っこちる。


授業が終わった頃には教室に戻って次の授業に備えなければと思ってかけたアラームがピピピピピと音をたてた。以外にもぐっすり眠っていた俺にはちょっと不 愉快な音だった。

「あー」

頭だけひょい、と上げて手で体勢を支えながら携帯どこだっけ、と後ろに頭をひねる。
すり、とその瞬間に自分の顔に何かが触れた。反射的に人だと分かりぎょっとして動きが止まった。そのすぐ後に体を元の位置に戻してそっと離れると俺の真後ろには美少年が眠っていました。

すやすやと眠る顔は綺麗で、普段悪戯っぽく開けられた赤い眸は見えない。
こうして眠ってると本当に子供みたいだった。

「折原?」

ぽつりと名前をこぼしてみるけど返事はない。疲れて眠ってるのか、もしくは狸寝入り。どちらにせよ起こさなくても良いかと携帯のアラームをピッととめて起き上がると、ふと臨也の腕が目に入る。
俺が枕にしていた腕は臨也の腕だったようで、臨也の白い腕には赤い跡がほんのりと残っている。気付かないくらいぐっすり寝ちゃってたんだな。
さらさらでストレートの綺麗な黒髪に手を埋めて髪を梳く。

「ありがとう」

境遇はなんにせよ腕枕をしてもらったのだから御礼を呟いておく。聞いてるのかな、聞こえてなくてもいっか。
頬にかかった髪を耳の後ろにやって、流れに沿って手を抜いた。一切引っかかることなく指が通る綺麗な髪は気持ちかったのだけどあまりやってると起こしてしまいそうで俺はそれ以上は撫でないでおく。
子供の頃の面影を残した寝顔にそっと呟いた。

「ばいばい、臨也くん」

そろそろ授業にいかなくちゃ、と思って俺は立ち上がろうとした。


「まって!」


ガバリと起き上がった臨也は寝起きの顔をしていた。

「おお、折原起きたのかー」
いつもどおりの笑みに戻って臨也に近寄る。臨也ははくはくと口を開かせたり閉じたりしていた。



「なまえは?」



「?」
「今度会ったら教えてくれるって……」


寝てたから赤ちゃん帰りなのか、泣きそうな顔で俺の腕をぎゅっと握って離さない。



です、臨也くん」


ぽんぽん、と頭を撫でると臨也の手が緩んだ。
その時丁度チャイムが鳴ったので俺は屋上を後にした。




***




不思議な少年と不思議な先輩はすごくそっくりだった。
丁度記憶の中の少年と先輩が同じ年頃で声が似ていたから。顔はあまり覚えていないのでわからない。

『折原』

と物怖じせずに呼んで笑顔で話しかける先輩はどこからどう見ても一般人で、喧嘩だってしないし授業も出ているし目立った素行はほとんど無い。唯一目立って いる素行というのは、俺たちと一緒に行動をしていることなんだけど。



シズちゃんから逃げて逃げてたどりついたのは屋上。ドアを開けると良い天気が広がっていて思わず昼寝をしたくなる。 先輩は寝てそうだな。



そういえばなんで 先輩ってこんなに俺の中にいるんだろう。
笑った顔困った顔、美味しいものを食べた顔、苦いものを食べた顔、辛いものを食べて涙目な顔、眠たそうな顔、色々と彷彿する。
あの人のことを好きなのは自覚してるし、人そのものが好きだから否定もしないけど。

やっぱり、意味の分からない生物に分類される先輩への興味は薄れない。




本当に屋上で寝てるし。




ドアを開けただけではわからないけど、すこし歩いてくと人が眠っているのはすぐにわかった。
壁に手を掛けて見下ろすと案の定 先輩がすやすやと眠っていた。



近寄ってみてみると綺麗な肌で健康的な色をしていて、滑らか。
髪の毛は柔らかそうで近寄ったらいい匂いがしそう。

寝顔を眺めていると、眠気が感染して俺はあくびをひとつこぼす。


「先輩のせいですよ」


クス、と笑って先輩が起きたときに驚かせようとすぐ傍に寝転がった。
起こさないよう、彼の眠っている様子をみながらそっと触れる。腕を通すと、身じろぎはするものの俺の腕に頭を移す。
ころん、と頭が傍に転がってきてふんわりとうなじに顔を寄せると案の定いい匂いがする。




いい匂いと、先輩の背中の温度に本格的に眠くなってきて目を瞑るとあっという間に意識は薄れた。


それでも、頭の端で携帯のアラームがなったことと、目の前の先輩が動いたことは分かった。
ぬくもりが消えて、何故かすこし寒くなる。


『臨也くん』


ふと、不思議な少年を思い出す。

今まで気にはしていたけど、そんなに頻繁ではなかった。
でも先輩が現れてからというものの、少年を思い出すことが多くなった。それもこれも、先輩が似てるからなんだけど。


『お兄さんは年齢詐称の十七歳です』


思い出したひとつの台詞。先輩も今十七歳だよね。


ぐしゃりと頭を撫でるために伸ばされた手。俺は胸が躍ってその感触を待つ。
これは知っている。いつも何の感触も無くてそこで目が醒めるんだ。


「ありがとう」
『あははうそうそ。ありがとう』


するり、と少年の指が俺の髪を梳いた。やけにリアルな声は先輩と少年の声。
やっぱり、同一人物なんだ。信じられないけれど。


「ばいばい、臨也くん」
『ばいばい、臨也くん』


「まって!」

声を出したのは、子供の頃の自分かそれとも今の俺か。
どっちだってよかった。

また会えたのだから。




「なまえは?」

先輩だって、知っているけど。
俺はあの時の少年に聞いているのだ。

「?」
「今度会ったら教えてくれるって……」


不思議と涙がでそうだった。
あの時の人は先輩なんだと思ったら、靄がかかっていた記憶も晴れて急にあの頃となんら変わらない先輩が小さな俺に話しかける。

今度会ったら教えてくれると、言っていたのに会うことがなかった。
あえないと思っていた。


です、臨也くん」


先輩は立ち上がりかけた体勢をくずして俺の前にしゃがんで、俺の頭をぐしゃりと撫でて笑った。





やっぱり、あなただったんだ。


2011-03-16