EndlessSeventeen


OrangeSplash 11(主人公視点)

「先輩のクラス、何やるんすか?」
「んーなんだっけ、お化け屋敷か喫茶店のどっちだったかな……」

文化祭を明日に控え、放課後になっても学校には沢山の生徒が居残っていた。俺のクラスも例外なく教室に沢山の生徒が居残って準備をしていた。
クラスメイトの友達が1人もいないため、居残っていてもやることはないので帰ろうかと思って居た所で、京平に出くわした。
京平は番長とか言われてる割には面倒見がよくて手先が器用だからクラスメイトにも重宝されている。ペンキのついたジャージ姿がたくましい。

「覚えてないんすか……」

呆れ半分、笑い半分の顔で京平は俺を見下ろした。

「んー仲間入って来なかった」

避けられてるならそれはそれでいいかなあと思っていた俺は、文化祭で何をやるかも知らない。今何をやっているのかも謎だし、これからどうなるかも分からな い。シフトは端から組み込まれていないだろう。もしかしたら学校来ないんじゃないかとまで思われてるかな。

「じゃあ帰るんですか?」
「まあ、そうなるわな」

ショルダーバックを抱えなおして京平の問いに至極当然のように答えると、京平はうーんと一瞬考え込んでから口を開いた。

「うちのクラス、寄ってきませんか」
「え?」
「用事ないなら……手伝ってくださいよ」

暇な俺を丁度良いと思ったのか、寂しい俺に手を差し伸べてくれたのか、本当に人手が足りないのか。
京平は困ったような笑顔で俺の答えを待った。
可愛い後輩の頼みを断われるはずも無く、特に用事がないし、了承した。

一年生の教室に入った瞬間どよ、とざわめきが起こる。
京平が戻ってきたから皆が口々に声をかけようとしたのと同時に、俺の姿を黙認して皆たじろいだ。珍獣扱いかなあと思っていたが、京平が俺の手を掴んで掲げ た。

「暇な先輩、連れてきた。手伝ってくれるってよ」

あ、 先輩だ。おお、あの ……。すげえ、本物だ。など口々に聞こえる。
ある意味珍獣扱いなわけだけど、反応してくれたことには心のどこかでほっとしていた。嫌われているわけじゃないのかな。

皆がなぜ俺の名前を知っているんだろう。
一年の目立つグループに二年が一人金魚のフンしてるって思われて名前も知れてるのかなと自分で納得して一年の皆にはにかんだ。

「こきつかっていいよ。よろしく」

愛想笑いが中々成功したのか、皆もよろしくお願いしますーと返してくれた。
京平にちらりと視線をやってにこ、と微笑むと、京平も照れくさそうに笑った。それからこのクラスは何やるのか聞いたりペンキをいじくったりした。



先輩って三年の不良シメたんですよね本当ですか?」
「ええ?あー……うん……?」
多分、数ヶ月前京平に寄って集ってた不良を倒すのに加勢はしたけど。
そのことかな、と思って曖昧に頷く。
「平和島と折原と仲良いんですよね」
「良いよ」
ぺたりぺたりと、ダンボールにペンキを塗りたくりながら、好奇心旺盛な1年生の問いに答えた。

夜の8時になると、先生がそろそろ帰れと俺達の尻をたたきに来た。もう完成間近だったので続きは明日ということで解散になった。
京平と歩いていると、一年が口々にお礼を言って俺達を追い抜いて帰って行く。
ひらりと手を降ると、一年は少し嬉しそうに振り替えしてくれた。

「後輩ってかわいいなあ」
「先輩面倒見いいっすね」
「京平もね」
「!」
「あっと口が滑った……」

思わず京平、と呼びかけてしまった。
今までちゃんと門田と呼んでいたのに、つい口がすべる。京平も目を丸めて俺を見つめていた。

「ごめんごめん」
ぽんと腕を叩くと、京平はふっと微笑した。
「いやでも、そのがいいっす」
「ああ、名前呼び?」
小さい頃は京平って堂々と呼んでいたし、心の中でもそう呼んでいるわけだから、まあ良いかと思った。もともと苗字で呼んでいたのは初対面だったからだ。そこまで親しくないのに名前で呼ぶは馴れ馴れしいだろう。でも今は大分仲良しになってきてる。
新羅や臨也は昔のことを思い出したからそのまま呼び続けていたけど、皆もそろそろ良いころあいだろうか。
「じゃあ京平って呼ぶわー……俺も でいいよ」
「うす」

いつかは名前を呼ぼうと思っていたけど、あまり決めていなかった。残るは静雄だけで、次会った時から名前呼びだなあなんて考えつつぼそりと口を開く。

「平和島も名前にせにゃな」
「ああ、静雄喜びますよ」
「臨也のときはちょっと拗ねられちゃったしな」
「はは……」

肌寒い夜の道を歩きながらしゃべった。
すっかり冬だな、と思いつつマフラーに顔を埋める。

街の光に囲まれても体は一向に温かくならないし、小腹も空いたからコンビニに入ろうと京平に提案した。

「肉まんとあんまんどっちがいいかなあ」

レジの横にある肉まんとあんまんを2人で見比べた。

「どっちも買えばいいじゃないっすか」
「二つも食べれない……」
「……じゃあ、半分ずつにしますか。俺も食うんで」
「おお!名案だ!」

京平の兄貴っぷりに惚れかけつつ、肉まんとあんまんを買ってコンビニを出る。
外に出るとやっぱり冷える。夜の冷たい風が制服を通り抜けて体を撫でた。肩をぶるりと震わせてコンビニ袋をガサガサと漁りまずあんまんを取り出した。

熱々のそれを冷たい指で半分に割り、京平に差し出す。

「あーあったけえ」
「そっすね」

はふはふ、とあんまんを口の中で転がす。ごくりと飲み込むと甘さと温かさが体中に駆け巡り癒される。
残った肉まんも半分に割り、京平に渡して口に放り込む。
肉のうまみやしょっぱさに、満腹中枢が刺激されて、すぐにお腹一杯な気になった。

「はあーはらいっぱい……」

すっかり体も温まったし、お腹も満たされ、もう眠たかった。
早く家に帰って寝よう。

「え、あんだけで腹一杯なんすか」
「うん」

もっと食ったほうがいいっすよ、と京平に心配されつつ、俺達は夜の道を歩いた。




2011-09-28