EndlessSeventeen


XXX 02(暗部視点)

とある、忍がいる。名前は知られておらず姿形もわからない。特徴と通り名だけは有名で知らないものは居ない、伝説の忍だ。

特徴は、仮面だ。白の面に赤くバツ印が書かれた仮面。そしてそのバツ印から通り名はXとされている。

会ってはならない、名前はない、顔もない、肩書きもない、慈悲もない、危険な人物としてXとつけられている。
そして、"X"とは謎の物体や伏字に起用されるからぴったりだった。

そんなXは契約忍者なのだそうだ。契約期間は長くても一年で、皆一年ギリギリまでXを手元に置く。
他の里や機関に居る場合任期が終わった途端にこぞって彼を雇おうとする。手元に在れば安心だが敵に在れば酷く恐ろしい存在なのだ。

元契約者だろうと、女だろうと子供だろうと老人だろうと、どんなに手練だろうと、命令があれば消す。最強で最凶だった。


Xの顔を見たものは居ない。名前を知るものも居ない。
民間にまぎれて生活を送るらしいが、それは全て変装や偽名なのだろう。だから誰もXを本当に知っては居ない。
殺し方も声も知らない。Xの偵察に行った者は誰一人として帰ってこず、任務を共に受けた者は皆あまりの高度な任務に命を落とすのが常だ。
命からがら帰ってきたとしてもXについては恐怖で口を閉ざし何も情報はでてこなかった。

全てが謎に包まれたXは此度木の葉の里と一年間契約を結んだ。上忍や暗部の間ではまことしやかにXの名が囁かれ浮き足立つ。味方にいれば心強い存在であ り、興味が引かれるのだ。



ある日、火影様からXの迎えの任務を承った。正直恐怖に身を縮こまらせた。しかし聞くところによるとXは味方には手を出さないそうだ。
安心はしたが緊張は薄れず、同じく暗部の人間と一緒にとある家へ向かった。

Xは急に現れ何の不思議もなく生活しているらしい。里にたやすく侵入できてしまうその力量に背筋がぞっとする。



恐る恐る扉を叩くと、中から顔を出す人物。顔は面をしているので見えない。噂どおりのバツ印の面だ。
「その面、X様とお見受けいたします」
「火影様がお待ちです、ご同行を」
言葉を出すのがやっとだった。二人であわせて紡がなければ言い切ることはできなかった。しかしその様子を見て取られてはいけない。
だがXは黙ったまま自分たちを見つめ続けた。
面に開けられた覗き穴からじとりと観察される。体の細部まで見られ弱点が知られそうなくらいだった。
ゆっくりと頷いたXに心の底からほっとして、火影様の待つ城へ向かった。



Xは余裕をもって屋根の上を翔ける。まるで空を飛んでいるようで、滅多に足を着かずに移動する。
Xのスピードにあわせることになってしまい、俺達は猛スピードで火影様の下へ向かった。いつもの二倍は力を使った気がして肩で息をしてしまいそうになる。 しかしそれを表に出すことは避けるためにひっそりと息を整える。

ふう、と大きなため息が聞こえゾクリと背筋が凍る。Xの吐息だった。疲れているのに気づかれ呆れられたのか、それとも此処まで動かされたのが気に障ったの か、どちらにせよ恐ろしくて思わず謝る。
「ご面倒をおかけいたします」
しかしXは謝る必要はないと首を振った。そのとき部屋の奥から火影様が呼び寄せる。
Xも背筋をしゃんと伸ばして堂々と部屋に入っていく。


「X殿……じゃな?」


火影様がそう聞いてもXは首を動かすことも声を漏らすこともなかった。ただただ見つめていた。火影様の力量を測ってるのだろうか。
瞬間殺気のようなものが立ち込める。途端に酸素が薄まったように息苦しくなり動機が激しくなる。
自分の咽下に獣の歯が食い込みそうなくらいの恐怖に煽られ、立っていられないほどに焦る。笑っていた膝はついにバランスを失い、跪いてしまった。
くるりとこちらを向いたXはとたんに空気を和らげた。気を使ってくれたのだろうか。

「失礼いたしました」

なんとか立ち上がり頭を下げると、Xは手で謝罪を制した。Xの奥に見える火影様も困ったような顔をして無理もない、とおっしゃっていたように思う。
Xはまたすぐに火影様と向きあった。

「なにか」

初めて声を聞いた。静かで落ち着いた声色だった。

「本当に……一年だけなのですな?」

それ以降Xはまたこくりと頷くだけになった。もっと声を聞いてみたかったのだが。

「腰を落ち着ける意思は、なさそうじゃの」

やはりXは1年以上の契約はしてくれないようだ。
残念じゃ、と火影様は呟くがXはぴくりとも動かない。意思はかわらないようだ。
そして火影様が頭を少しだけ下げて挨拶をする。
「これから1年、よろしくお願いしますぞ」

こくん、とうなづいたXは息だけであっと漏らし、両手を挙げた。何か武器でも出すのだろうかと驚き息を潜ませて警戒をしたが、Xは後頭部に結わいてある面 の紐をすっと解き、面を外した。一瞬息を止めてしまった。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

目元を細めて穏やかな顔立ちの少年が頭を下げた。
まだ若い、10代後半くらいの男の子供だ。体つきも良く見たら華奢だ。こんな体で鬼神の如く働きを見せるのだから余計に恐ろしい。
マスクで鼻から下は隠れているが、眸が少し大きく睫毛も十分長く整っているように思う。多分変化の術なのだろうが。

面がなければ普通の少年で、これならば民間に溶け込み生活ができそうだ。

火影様も変化だ分かっているのだろうが、驚きを隠せないで居た。まさか顔を見せてくるとは思っていなかったのだろう。

「X殿には主に……」
「あ、ちょっと」
「なんですかな?」
です」
「?」

一年ごしの任務であるから内容を話そうと切り出す火影様をXはさえぎる。 、とはなんだろうと首をかしげているとどうやら名前らしい。これも本名かどうかは定かではないがXと呼ぶよりも大分一般的 だった。
敬語も要らない、と言う に火影様も戸惑いつつも了承する。一応上司に当たるわけなのだから当然なのだが。

「改めて、 には主に中忍たちの面倒をみてもらいたい」

火影様の言葉に はふうと息を吐いた。


「それ、殺しは?」


瞬間、部屋の空気が凍った。 は常に今まで幾人もの人間を殺してきた。癖になっているのだろう、殺さずには居られないのだろう、狂ってるのだろう。そう 思った。


「……ない」


火影様は押し黙っておられたが、きっぱりとないと断言をする。 は里の忍ではない為殺しは極力させたくなかった。そういう考えを持っていた火影様はごくりと唾を飲み下す。

ははあ、と大きくため息を吐いて肩をすくませた。

「よかった」

心底安心したように眉を垂れさせ眸を細め、優しい声色で呟く。


この人は、殺したいなんて思ってなかったのだ。人を殺すことが苦しくて切なくて、いやだったのだ。先ほどまでしていた勘違いを今すぐに改める。狂ってなど いなかったのだ、と己の心に刻み付けた。



「では、これで」



最後には は穏やかに笑ってその場から消えた。
まるで風のようにふっと消えた は髪の毛1本すら残さなかった。1年後もこんな風に消えてしまうのだろう。
一瞬にして自分たちの知らない場所へ、いなくなってしまうのだろう。彼が居なくなるのが少しだけ怖いと思ってしまった。

2011-05-29