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XXX 04(カカシ視点)

この間任務に同行した という上忍はどこか不思議な雰囲気だった。ぼんやりと遠くを見つめていることが多く、その横顔はどこか寂しげだった。
真っ黒な眸も髪の毛もまるで真夜中の空みたいに黒くて、何もかもを包み込んで消してしまいそうだった。その色はどこか怖くて、少しだけ温かい。
じっと見つめられた眸の奥底には何も見えなくて、ただただ自分のたじろぐ表情だけがくっきりと反射して見えた。

さんが同行した任務は、ものすごくランクの低い任務内容だったうえに、あっさりと終わらせてしまった。上忍が二人いる必要 があったのかというくらいだ。
そして、今回きりなのだろうと思っていたけれど、それはどうやら違ったらしい。

「…… さん?」

今日も今日とて任務があるので、皆との待ち合わせ場所に向かった。いつも早めに来ているけど、それよりも早く人影があったので近づいてみると さんが頭に蝶をつけてすやすや眠りこけていた。寝息に伴い胸が穏やかに上下している。
何故ここに さんがいるのだろう、と思いつつ眠り続ける様子を観察した。

人の気配にものすごく敏感だった記憶があるんだけど、何で起きないんだろう。

顔を殆ど覆ってしまっているこのマスク、俺もそうしてるけど、なんだか素顔が気になる。
指をマスクに引っ掛けようとした所で、 さんの瞼がふるりと震えてゆったりと開かれた。はっとして手を離して、上げていた腰を思わず下ろした。

「ああ、カカシ」

もともとゆったりのんびり話す人だと思っていたけど寝起きはもっとスローのようだ。ゆっくり起き上がりながら俺の名前を呼んだ。

「来るの早いね」

ふああ、と欠伸を惜しげなく零して首や肩を回す。
今は待ち合わせの10分前だから決して早いわけではない。普通だと自分では思う。忍は時間厳守だから、時間前行動は当たり前なのだ、といつも遅刻してくる オビトを思い出しつつ心の中で言い返した。

さんなんでここに?」
「え、今日も一緒にやると聞いたけど」
「そうなんですか」

正直力の程度を知らないから喜ぶ気持ちも邪険にする気持ちも無かった。ただ、ああそうかと思っただけだった。ほんの少し思うことがあるとすれば、何故同行 する必要があるのかということだ。

「良い子だね、一番早く来るなんて」
「一番は さんですけど」
「俺からしたらカカシが一番に来たんだよ」

黒い手袋をはめた手がすっと伸びてきて俺の頭を優しく撫でた。不意打ち過ぎて避けることも叶わなかった。やっぱり上忍なんだなと思ってしまう自分が、少し だけ悔しい。俺たちはこの間中忍にあがったばかりだ。

「……ああ、オビトは今日も遅刻してきそうだね……」

そっと目を瞑って、耳を澄ましているような動きを見せてくすりと笑う さん。オビトは十中八九遅刻だけど、まだ一度しか会っていないこの人が遅刻してきそうだなんていうのは何故だろうと思い首 をかしげているとリンとミナト先生がやってきた。
気配を読んだのかと納得してしまう。 さんは気配にとても敏感だったから、分かってしまうようだ。それでもさっきは俺がじっと見下ろしても起きる様子がなかった けど、それはもしかしてわざとなのか。そうだとしたら少し照れくさい。

、カカシ、早いね、偉いよ」
「あ、 さん!こんにちは」

先生は さんと俺の頭をぽふぽふと軽く撫で付け、リンは さんにぺこりと挨拶をしている。
気付けばもう集合時間だったのだ。 さんと過ごす時間はなんだかのんびりしてしまって、時間の経過に気付かない。忍としてそれはどうかと心の中で思いつつ、オ ビトはやっぱり今日も遅刻かなんて呆れた。



「おばあさんが迷子になってて助けてたら遅刻しました!」

ボサボサの頭で息を切らして走ってきたオビトは明らかに嘘の言い訳を述べる。先生もリンも俺もそういうのは嘘だとわかっているし、いつもそう指摘するのは 俺の役目だ。でもそれを言う前に さんがすっとオビトに近づいた。
代わりに叱ってくれるのかと思ったら、 さんはぽんぽんとオビトの頭を撫で付けて目を細めた。

「おばあさん助けたんだ、偉いね」

大変だったね、という労いの言葉までついていた。その瞬間、オビトにムカッとした。なんでこいつまで偉いねとか言われる訳。早く来ていた俺や時間通りに来 たリンなら頷けるけど、遅れてきたオビトまで。オビトは褒められるなんて予想してなかったようで、一瞬驚いていたけど撫でられて嬉しそうにでれでれしている。

「オビト遅刻しすぎ……忍失格でしょ」
「な!なんだとー!?」

オビトにいつまでも幸せそうな顔をされたらむかつくから、俺は見下ろしながら言いたかった台詞を言った。毎度同じことばかり言っている気がするけど、毎度 遅刻してくるオビトが悪い。

「二人とも喧嘩はおしまい!任務に行くよ」

ミナト先生がパンパンと手を叩いて俺達をたしなめた。ふん、と互いにそっぽを向いて先生の元へ行き任務の説明を受けた。
今日の任務は他里へ荷物を移送する護衛だった。業者の人々が待っているからと足早に動き出す。




森の中を歩いている時、隣にいた さんがふと足を止めて後ろを振り向いた。
皆怪訝そうに さんを見つめた。ミナト先生も左右を確認し始め、俺達も少し警戒体制に入る。正直気配なんてしなかった。でも さんはとても気配に鋭いから、俺達はごくりと唾を飲み込んで さんが何かを言うのを待った。

「ちょっと、・・・お花を、摘みに行ってきますね」

俺達全員の顔を見てから、そっと呟いた さん。1歩後ずさりながらポケットに手を突っ込む。多分武器の確認だろう。
ミナト先生が1人で大丈夫?と聞くが、 さんはこくりと頷いて俺達に背を向けた。

「すぐ、戻ります」


そして、ふっと姿を消してしまった。



その瞬間、辺りを殺気が支配した。ドクンと胸が飛び跳ねる。
行商人達はきょとりと首をかしげているが、忍である俺達は目を見張っていた。

じわりと汗が背中を伝う。思わず震えそうになり奥歯を噛み締めて耐えた。オビトやリンは怯えた顔をしていた。
荷物はそれほど重要ではないから狙ってくるのはそこらの追いはぎなどのはずで、こんなに大きくて底冷えするような殺気を放つはずがない。ということはこれ は さんだ。

ぞくりと、震えた。


「ただいま帰りました」

ものの数分で、俺達の前に姿を現した さんはけろっとした顔をしていた。息切れひとつしていない。

「どんな花があった?
「森の中ですからね、たくさん……俺がみた中では……うん、十種類くらいあったんじゃないかなと」

ミナト先生の問いかけにのんびりと答える さん。存外に敵は十人程いたということだ。

「まあ、殆ど雑草系」
「ん!そっか」

それは里に関わることではないということで、そして さんから血の匂いが漂っていないことから殺してはいないのだと分かる。

とても、力の強い人なのだ、と分かった。
そして今ここに居る理由もなんとなく理解できたように思う。この人を見本にしろということなのだろう。ただ一瞬のことすぎて俺達にはついていけなかったけ れど、次からは、次こそは、この人の動いているところを見てやろうと拳を握り締めた。

2011-11-14