EndlessSeventeen


XXX 05(主人公視点)

忍の任務っていうから巻物とって来いとか、人を殺して来いとか想像してたけどそればっかりじゃないらしい。っていうのはまあここにきてすぐに分かったことだけど。簡単な護衛ならまだそれっぽいけど、普段は草刈りとかペット探しとか力仕事みたいなのをやっているみたいだ。世界が平和な証拠だな。
そう思いながら屋根の上で寝転がった。月明かりがあまりにもまぶしくて、顔を隠すように懐に入れてある面を付け、夜空を覆った。ああでも、綺麗な星空を隠してしまうのはもったいなかったかな。


とん、と足音がした。


お面に開いた小さな穴に、月とは違った銀色の糸がふわりと映った。誰かの髪の毛かなと思って呟く。


「綺麗な髪だね」
「!」


穴が目の間近にあるとはいえこれ絶対視界悪いだろ。横目に見ることが出来ない。誰だか分からないけど息を飲むのが分かった。ゆっくりと起き上がっているのに何も言ってこないのは何かを逡巡しているのか、それとも手を出す気がないのか。まあそうそう手は出してこないでしょうよ。


「Xなの、あんた」
「うん。でも久々に呼ばれたなあ」


この里に来てもう三ヶ月が経っていて、Xの任務は無い。強いて言うなら、 として中忍であるカカシたちの仕事の手伝いと言う名の金魚の糞。他里でもこんなことやってるのだろうか、だとしたらすぐに職がなくなるに決まってる。だいたい情報命の忍が契約社員ってどういうことなの。おかしいよ。


やっと声をかけてきたと思ったら、子供特有の高い声。くぐもってるその声は、カカシに似ている。さっき銀髪が見えたし、そうなのかなと思いながらようやくきちんと見つめると、案の定カカシだ。


「っ」


真正面から見つめられてぎょっとしたのか、はたまた面が気持ち悪いのか。


「こわい?」


このお面怖いかな、と思いながら顔を覗き込むとむっとしながら嫌そうに、怖くないと囁いた。


「何か用だった?夜も遅いんだから早く寝なよ?」


まだ八歳くらいだったよなと思い発育を心配する。未来的にはいい大人な背格好に成長してたから大丈夫なのかもしれないけど何時何時未来が変わるか分からないのが俺の世界。
カカシはまた馬鹿にするなよと言いたそうな顔をしている。


「はなしが、してみたかった」
「そうなの?」


それだけだったのかと思いながらカカシが強く拳を握ってた。震えている。
夜風はまだ寒かろうと、自分がぬくぬく暖まっていたマントをふわりと翻し、その行動に目をまんまるにしているカカシの肩にかけた。


「じゃあ話をしよう」


力が抜けたのか、かくんと膝を曲げたカカシを支えながら隣に座らせた。ぎょっとしたまま、俺を見上げる小さな子供。お面の中でこっそり笑った。
いつもクールな顔して、どことなく目が死んでて、生意気。こうして見ると、(視界は狭いけど)眸は大きくて、睫毛がキラキラしてて、鼻筋が通った綺麗な顔だ。純日本人の俺じゃ到底かなわない、明るい髪色が似合う顔。


「あんた、いくつなの」
「十七歳だよ」
「うそだ、Xは二十年以上前から活躍し始めてる。それとも代替わりとかするのか」
「俺が十七歳なのはいつでも変わらない」


ただ、十七歳を生き抜くだけ。本当はいくつなんだってカカシが再度尋ねてきて面倒だったから三十路くらいって適当に応えてみたらあっさり信じた。なんかごめん。本当はいくつだか覚えてません。
でもよく考えてみて、三十路くらいの男が十七歳装ってるって相当いたくないか。いたいな。いつも装ってるから素手痛い人なんだな、俺。


「本当にあのXなの?あんた」


じと目が痛い。俺も痛い。


「そういうことに、なってる」
「誰が決めてるの」
「世界じゃない?」
「は」


さっきからカカシくんは嫌な顔しかしてない。話してみたかったから来てみて、話してみたらどうしようもない奴だったって思われてるかもしれない。


「忍の中の、忍……なんでしょ」
「周りがそう言うなら、Xは忍の中の忍なんじゃない?」
「あんたさっきから答え適当すぎない?」
「だって自分がどう言われてるかなんてわからないし、俺はただそうするべきと、……そうだな、命じられてるんだよ」


命令っていうかまあ空気を読んでる中で好きにやるっていうことにすぎない。普段は好きにやるけど、設定は守ってるつもりなんだ。


「それが忍ってこと?」
「忍としては正解だろうね」
「じゃあ、仲間を助ける為に任務を放棄した奴は、忍失格か」


それあんたのお父さんのことじゃないのよ。と突っ込むのはよした。


「忍は失格だね。そんなやつが任務に出てたら、いずれ国は滅びる」
「……」


落ち込むカカシの後頭部を、ふわりと撫でた。手袋してなきゃよかったな。


「その人は、人間だったってことさ」
「俺は、忍の中の忍になる。そんなことにはならない」


ひゅおっと風が吹いて、面がずれる。
目だけが面の外に出てしまい、横目で見るとカカシと目が合う。俺だって分かったかな。分からなくてもいいけど、分かっても別にいい。内緒にしてるわけでもないし。


「だめだよ、カカシ」
「―――――」


「それじゃ、人間失格だ」


忍らしくなる必要なんてないよ。人間の忍であればいいと、俺は思う。時には感情を殺すこと。だけど完全に殺しちゃいけないんだ。その瞬間からそれは人間じゃなくなって、それで、忍でもなくなっちゃう。




「バケモノに、なっちゃうぞ」

2013-01-05