sakura-zensen

春を追う

39話

高木が頑張って誘ったデートを、佐藤は何を勘違いしたのか捜査の尾行にかぶせて遂行した話を聞いた。
以前俺がデートに誘った時、萩原と伊達が二人して尾行のカムフラージュかって聞いてきたことを思い出して、ありもしない古傷が痛んだ。
とにかく高木はかわいそー。でも、今は隣でもっとかわいそアピールをしてくる奴がいる。

「はぁ~…………」

ため息を吐きまくる白鳥を、チラと見た。
今日は萩原が休みだし、緊急の事件も珍しくないしで事務処理をしていたんだが、同じく待機してた白鳥は今日一日こんな状態である。
「白鳥警部ぅ、なんかあったんスかぁ」
「ここではちょっと言えない話さ、花森くん」
しびれを切らして、あえて部下っぽく声をかけると、白鳥は上司っぽく合わせて答えた。
まあ俺が部下で白鳥は上司なのは事実だけれど。
「ここじゃないトコなら言えんの? メシでも行く?」
「花森さんがそういうなら、付き合いましょう」
「素直じゃないんだから~」
白鳥ってこの、ツンとしてるくせに案外俺のこと頼って来るトコ、弟に似ていてキャワイイんだよね……。
「この話、萩原くんにも言わないでくださいよ」
「モチのローン♡」
萩原っぽい愛嬌のある返事をすると、じとーっと見られた。
俺、別に何もかも萩原に話してるわけじゃないけどな。




「───はぁ、お見合い? しかも佐藤と??? それで何でため息吐いてんだコノヤロウ紛らわしいな。解散解散、おやすみなさい」
「ちょっと落ち着いて」

夕方、早めに仕事を上がることにした俺たちは、そのまま白鳥行きつけの店に来て悩みの種を聞くことにした。しかしそれが、佐藤と今度お見合いをすることになった、というのだから拍子抜け。
あからさまなため息は俺に自慢したかっただけなんだな、と片づけて席を立とうとすると、腕を掴まれぐいーっと席に引き戻された。
「花森さんが高木くんに、佐藤さんをデートに誘うようにけしかけたのはわかってるんですよ」
「けしかけてねーわ」
俺は佐藤にしてもらうお礼、ちゃんと考えとけよって言っただけ。つまり単なる応援みたいなものだ。
「ずるいじゃないですか、高木くんばかり応援するなんて」
「えー…………ゴメンネッ」
応援も駄目なのか。とりあえず俺は渾身の可愛い顔で両手を合わせて、きゅるんと見つめた。これでなんとか許してもらえないだろうか。
「お詫びの気持ちがあるなら、今度のお見合いが上手く行くように手伝ってください」
駄目だった。
「手伝うまでいったら、今度は白鳥の方がずるくなるんじゃない?」
「あるものは何でも使います」
「俺は"もの"じゃないんですけど」
「高木くんが頼まなかっただけで、花森さんはお願いされたらやってくれますよね?」
「いやいやいや、しないよ???」

なぁんて、断った数日後。俺はオニコに誘われてご飯に来ていた。
その席にはオニコの後輩である宮本がいて、俺に折り入って相談があるというではないか。
何か嫌な予感がすると思ったら───、
「今度美和子をお見合い会場から連れ出す、王子様をやって欲しいんです、花森さんに」
「え、無理」
俺は速攻で断った。
なんでよ、と二人して批難がましく見てくるが、無理なものは無理だ。
「別に本当に彼氏になれって言ってるわけじゃないですよ。責任取って結婚しろとも言いませんし」
「でも、見合いって家同士のことでしょ。佐藤のお母さんと相手の家に恨まれるのは俺だよ」
「じゃ、じゃあ、普通に刑事として事件だって迎えに行くだけ! その格好のままでいいので!」
宮本はなおも食い下がる。
「……それって佐藤がお見合いを嫌がってるってことだよね? そもそも何でお見合いなんて受けたの」
「それがね、お母さんにせっつかれて一人だけ仕方なくってやつよ。会ってみるだけって」
「しかも中身を見ずに適当に選んじゃったんで、相手の顔も知らないらしいんです」
「はぁ?」
さすがに俺はその事実には驚き、身体をのけぞらせた。
椅子から転げ落ちるかと思った。
白鳥……憐れ。いや、そこで選ばれる強運があるともいえるのか。
これが、相手が白鳥だと分かった上でやむを得ず見合いを受けなきゃいけなくて、佐藤が助けてほしいというなら手を考えた。
しかしほぼ自業自得だし、俺が手を出したら厄介なことになる───と再確認。

「───俺に出来ることはないかな」

ニコと笑うと、二人はまたじとーっと睨んできたけどやがてため息を吐く。
それから今度は何か言いたげに目配せし合っている。

「ワンコ、本当に何とも思ってないわ」
「美和子も美和子で、鈍いしなぁ~……」
「なに~? 感じ悪ぅい」

俺はヒソヒソ声をしっかり聞き取り、抗議の声をあげた。
どうやらオニコと宮本は、俺と佐藤にロマンチックな展開を期待していたらしい。
「警視庁のマドンナと女装刑事の俺が? どして?」
「……本庁に配属された時から美和子って、事あるごとに『花森さんがああした、こうした』ってよく話題に上げてたんですよね。まあだいたいが花森さんの破天荒な所業関連だったけど」
悪かったな、破天荒で。
「あと、あれも言ってたわよね『絶対に死ななそう』ってさ」
「言ってましたね。花森さんって、ほら殺しても死なないタイプじゃないですか。伊達さんといい勝負ですよ。だから美和子も安心して好きになれるっていうか」
「さいですか」
本人の意志を完全無視、とまではいわないが、どうやら宮本のお節介的な依頼だったらしい。
うーん、佐藤からの好意は感じるけど、あれは何と言うかお父さんへの親しみに近いんだよな……。
高木曰く目暮警部のこともお父さんみたいで好きって言ってたらしいから、同列じゃないかと思う。
「ワンコがもし満更でもないなら、佐藤のことオトしに行けって言おうと思ってたんだけど」
「そうそう。いくら鈍感な美和子でも、花森さんが男出して本気で攫いに来たらドキッとすると思うんですよ。アイツ、そういうのに弱いから」
「ウゥン……?」
どう受け止めたらいいかわからないけど、曖昧に相槌は打っておく。
二人も本気で俺に賭けてたわけじゃないようで、ぐいーっと酒を飲んだ後は切り替えて「やっぱり高木くんに行かせましょ!」と言い出した。

頑張れ高木。あと頑張れ白鳥……。
一応心の中で平等に応援しておくことにした。



さらにそれから数日後。白鳥と佐藤が揃って休みだと知った俺は、ああ今日がその日なのか……と二人のデスクを眺める。
その次に見たのは高木のデスクで、本人の姿はない。
気になったので伊達に高木の予定を聞いたら、千葉と二人で先日あった米花町の事件の地取りに出ているらしい。
「高木に何か用でした?」
「いや、用と言うほどでもないかな」
「さんいくよー」
伊達に首を傾げられてる背後で萩原が呼び掛けてきたので、ひらひらと手を振って伊達と別れた。
萩原は俺達と伊達の会話が聞こえてたみたいで、廊下を歩きながら話しかけてきた。
「珍しいじゃん、高木に用あるなんて」
「そんなに珍しい?」
「探してまでは、ね」
「たしかに」
用があるなら大抵仕事のことだからすぐ電話しちゃうし、それ以外なら別に会った時で良いやって思うし。朝から気になって探すというのは、それなりに気掛かりな行動だったんだろう。
それも、用と言うほどでもない、と言う微妙な用件は。
「実はねー…………、」
車に乗り込んで助手席に背中を預けた途端、俺はもう誰もいないしーって萩原に事情を話そうとしたところで思い出す。
高木と佐藤の話なら良いが、白鳥も関わって来る話だ。白鳥からは、萩原に言うなって口留めされてたっけ。
「うん?」
今にも喋り出そうとする俺の目線がうろうろと泳いだことで、萩原は不思議そうにした。「まだ言えない話だった」と言うと納得して車は走り出す。
もう気にするのはやめよう、と全く別の話をしながら職務にあたり、昼に差し掛かったころ、俺たちが丁度聞き込みを終えて出てきたところにパトカーが停まっているのが目についた。

パトカーの助手席からは宮本が顔を出し、歩道にいる女子高生らしき二人と子供一人に対し談笑している。
子供はコナンくんで、女子高生は蘭ちゃん。もう一人はその友達ってところか。
俺と萩原は顔を見合わせてから、挨拶するために近づいていった。誰も俺たちに気づいていないみたいで、徐々に話している内容が聞こえてくる。

「え?見合いのこと一課の人、誰も知らないの?」
「じゃあ、高木刑事も?」
「んー知ってる人は、一人だけいるのよね。でもどーせOKする気ないし、恥ずかしいし皆には内緒って言ってたし……美和子のヤツ結構人気者だから、暴動が起きかねないしね!」
「え、一人知ってるっていうのは高木刑事じゃないんですか?」
「それに、相手がその気になったりしたら……」
「頃合いを見計らって美和子を見合い会場から連れ出す算段になってるのよ! 事件だからって見合い相手をほっぽってトンズラする女なんて、誰も嫁に欲しいと思わないでしょ? 最初はその役目を花森さんに打診したんだけどさ」
「「「花森さん……?」」」

会話の内容に俺の名前が出ると、萩原の視線が俺に注がれる。
その時丁度、宮本も俺に気が付いた。

「あら、ウワサをすればだわ」
「ウワサをされれば~」
「佐藤がお見合いねぇ……こりゃ一大事だ」

俺と萩原が歩道にいる三人の背後に立つと、コナンくんはすぐに「花森刑事と萩原刑事」と呼び掛ける。蘭ちゃんは萩原には覚えがあるようだが、俺はトロピカルランドとも水族館とも格好が違うのでわかってないみたい。
更に蘭ちゃんの友達だという園子ちゃんは初対面なので、自己紹介をし合った。

「───って、待ってよ。花森刑事ってこの人? 普通こっちに頼むんじゃない? イケメンに迎えに来させれば相手も戦意喪失っしょ!?」
「おっ、そりゃどうも」
「花森刑事は断っちゃったの?」
「うん、断っちゃった」
「ど、どうしてですか? 佐藤刑事、不本意なお見合いなんじゃないですか?」
「不本意でも、自分で行くと決めた見合いの席でしょ。───それに、いろんな人に恨まれてまで、佐藤を助ける立場じゃないし」

蘭ちゃんと園子ちゃんとコナンくんは、俺の返事に納得して苦笑いを浮かべた。
宮本も同じで「だから花森さんは諦めて、高木くんに行かせるのよ!」と言っている。
この後『美和子大ピンチ! 見合い会場の水都楼から事件にかこつけて彼女を奪還せよ』というメールを送るらしい。
コナンくんはその話を聞いて引き攣った顔をしており、俺と萩原も同じような顔になった。鬼……。

俺には事前に打診してきたくせに、高木にはスパルタだ。
まあ俺は先輩で、高木は後輩。急に命じて焦らせて、勢いのまま告っちゃえ……という思惑もあるみたいだけど。

「でも人の恋路に首を突っ込み過ぎなんじゃないの~? 由美タンはさ」
「!?!? どっ、どこでその呼び名を……いやオニコ先輩ですよね!?!? 絶対そう!」
「宮本は彼氏に溺愛されてて、由美タンって呼ばれてるんだよね~」
「元彼よ元!!! もう呼ばれてないから!!!」
「「「「由美タン……」」」」
「あんたたちまで呼ぶんじゃない」

人のプライベートにちょっかいかける宮本には、ちょっとした意趣返しをしてやろうと彼氏からなんて呼ばれてるかをしれっと暴露した。宮本の言う通り、オニコからのタレコミだ。
しかしどうやら元カレだったらしく、俺の情報が古かったことを理解したが、まあ佐藤の仇はとれただろう。俺がしてやれるのはこのくらいだ。
そうして騒いでる間に、園子ちゃんと蘭ちゃんとコナンくんの三人は、顔見知りを見つけて車に乗り込んでいった。
どうやら佐藤のお見合い見学のために、水都楼へと行くらしい。
こりゃ~見合い相手がバレるな……と思ったが俺に止める術はない。手を振りながら三人を見送った後、俺と萩原も車に戻った。

「朝から高木を気にしてたのはコレってわけねぇ」

それだけじゃないけど、ニコっと笑っておくことにした。



由美タンって呼び方が好きです。

Aug. 2026